4 舞踏への誘い
『廃れた洋館で迫りくる赤い凶刃レッドキャップ。新人狩人は悪鬼の餌食となり今はただ新しい餌食を待つだけだった。しかし、人の世の倫理を無視したその遊びも俺の介入で終わりを迎える事が出来たようだ。気がかりなのはレッドキャップの残した言葉だ。
何故なら本当の悪は鬼の姿を借りる必要もなく我らの中に存在する事を思い出させてくれるからだ。』
「死にたがり共が絡んでる」
俺は本部のマザーに状況を説明する。
通信機越しの彼女の沈黙が俺に伝えてくれるのは面倒な事態に足を踏み入れてしまっているという事だ。
彼らはカルト集団であるものの人間なのだ。
神秘協会が何処まで踏み入れるべきか測っているのだ。
「マザー、彼らは神秘を召喚したんだぞ」
大義名分はある。
我ら神秘協会の管轄内で文句を言うやつらもいないだろう。
問題は今回の事件が別の連中の活動の範囲内にもあるという事だ。
さて、どうしたものか。
「学会か?それとも教団か?」
「その両方かもしれないわね」
俺の問いにマザーはうんざりしながら答える。
どちらも我々と同じく人類側の組織だ。
学会、秘めたるもの研究学会。
神秘の研究もしくはそれを利用した人類の進化を探ろうとする科学者達が始めた組織だ。
「学会なら彼らの検証の邪魔しない限りなんとかなるわね」
「問題は教団の方だな」
そう、あの教団の連中はいかんせん意思疎通が難しい。
教団の正式名称は団員しか知らないが通称は色々ある。
その中で一番有名なのは神人教団だ。
あらゆる手段を用いて神霊との合一を果たす事を目標としている。
「流石に小鬼程度の妖精種では教団も動かないだろう」
俺の推測が正しければ教団もこれぐらいでは興味を示す事はないだろう。
小鬼達では彼らの目標の達成には難しいだろうし、そもそもゴブリンと一体化したいなら小鬼の軟骨を好きなだけ与えてやろう。
「そうなんだけどねぇ...」
「何か引っかかるのか?マザー」
「ええ、貴方が居る事よ」
マザーによると神秘の見えざる手に寄って俺はここに呼ばれた訳だ。
俺を必要とする事態なら何かしら起きるという事だ。
「ふむ...」
「まぁ、心配ないわよヨエル」
「エスコートなら見えている手の方が良いんだがな」
彼女はふふっと笑う。
取り敢えず引き続きこの洋館の探索をするしかなさそうだな。
しかし神秘だけならまだしも人間が関わってくると問題が発生してくる。
「俺の制限は知ってるな?マザー」
「ええ、人とは争えないのでしょ?」
「ああ」
自己防衛程度なら問題ないが戦い、正確には俺が戦いと認識したら駄目だ。
術で認識を制圧に塗り替えればなんとかならない事もないがそれでも制限が軽くなるだけだ。
それなりの実力者には通用しないだろう。
「それでは応援を寄越してくれるのか?」
「ええ、貴方のダンスのパートナーは選んであげる」
「何が起きるか分からない、即興が効くと良い」
陰気くさいダンスマカブルは好きじゃない。
折角なら俺のやり方で踊らせてもらう。
そう、今の気分はジャズだ。




