3 切り裂き魔
『その昔にロンドンという都市があった。
それは先の魔術大災害により大陸達が一つに融合する以前の話だ。
幻想がおとぎ話の中の存在に過ぎないと信じられていたその頃、とある連続殺人鬼がその都市を恐怖のどん底に陥れていた。正体不明で神出鬼没の切り裂き魔の正体は遂には明かされなかった。そう、表向きの話である。』
なんとしてもレッドキャップをこの部屋から出すわけにはいかない。
彼の厄介さは戦闘力だけではなく妖精種が基本的に持っている隠密性にあると言っても過言ではない。
しかもそれを利用した奇襲攻撃を得意としている。
「さて、どこから切り裂こうカ?」
カーンカーン...
小鬼の声と共に金属をぶつける音が部屋中に鳴り響いた。
レッドキャップはこうやって恐怖を与えて精神的に獲物を追い詰めようとする。
奇襲の成功を高めようとする目的もあるだろう。
しかし彼の場合は恐怖で怯えている獲物を見て楽しんでいるんだろうな。
俺はすぐに部屋の角まで行くと背中を壁に向けた。
ひとまず背後からの奇襲はなくなったわけだ。
「さぁ、どうする?切り裂き魔」
軽く挑発をしてみる。
自分の思惑通りに行かない苛立ちを示すかのようにカーンカーンと金属をぶつける音が大きくなる。
背後から襲って来れないのならレッドキャップの脅威は半減したと言ってもいいだろう。
奇襲を得意とする者がそれを封じられた。
それにレッドキャップは一つだけだが大きな勘違いをしている。
確かに奇襲で獲物を捕らえるのもいいだろう。
しかし真の狩人は罠を張るものだよ。
「ギャギャー!」
いきなり頭上に現れては雄叫びを上げながら襲ってくるレッドキャップだがそれも予想済みだ。
彼みたいなのが正直に正面から来るはずがない。
残る選択肢は上しかないだろう。
俺は素早くコートの中から小瓶を取り出しその中の粉をレッドキャップに向かって振り撒いた。
「ゴブリンの遺灰だ」
レッドキャップは灰を吸った結果激しく咳き込み始める。
同じ妖精種だから効果はそれほどでもないが隙は出来たようだ。
その隙を逃さずに帽子に手をかける。
それを奪うとレッドキャップが憎々しそうに俺を見つめるがもう攻撃する意思はなさそうだ。
この帽子こそがレッドキャップの弱みだ。
血染めの赤い帽子無しでは彼はレッドキャップではいられない。
「返セ…返してクレ⋯」
懇願するレッドキャップ。
この帽子を取り戻さない限り彼はもう現世ではレッドキャップとしての振る舞いが出来なくなる。
これを破壊すればレッドキャップも元の次元に帰るしかなくなる。
だが、帰って頂く前に聞いておきたい事がある。
「お前を召喚したのは誰だ?」
レッドキャップに問う。
こんな危険な妖精種を呼び出したんだ。
レッドキャップ以上の悪意の持ち主と考えてもいいだろう。
誰であろうと直ちに捕まえなければならない。
さぁ、早く答えてくれレッドキャップよ。
「オ、オレ達を呼んだ奴はこう言っていタ」
『死を持って、生の実感を思い出させてやる』
レッドキャップの口から溢れ落ちたこのセリフ。
そうか。
「黒いロープを被っていたから姿までは分からネェ⋯」
彼らを言い表す言葉はいくらでもある。
狂った思想家達、短命主義者、刹那人。
そして哀れな死を想え達よ。
死こそが生を実感する唯一の方法と信じてる連中だ。
「情報をありがとう、さぁお前さんは帰りな」
俺はコートからライターを取り出すと赤い帽子に火をつける。
灰となって崩れる落ちるレッドキャップを横目に思考を始める。
彼は確かに俺達と言ったな。
「こちらヨエル、本部長マザーに繋いでくれ」
通信機で本部に状況報告をする。
ふむ、厄介な事になりそうだ。




