2 赤い絨毯
『⋯かくして俺はかの高名なゴブリン騎士討ち取ったのであった。しかしなぜだか気持ちが晴れない。
それは良き好敵手を失ったせいか?それとも上階から漂う濃厚な血の匂いのせいだろうか』
上階へ続く階段を登りながら事態の予測を立てる。
気を抜いて良い相手じゃないとはいえゴブリンは比較的対策しやすいはずだ。
この任務に当たっている狩人は新人のはずだがもしやゴブリンの数の暴力に押されたか?
それともなにか異常が発生したのか?
もしも負傷しているのなら救助をしなければならないなどと思いながら上階へ到着をする。
死の匂いを具現化するような景色がそこに現れた。
目に映るのは暴力と血の跡だ。
至る所に激しい破壊の痕跡が見られる。
やはりここで異常事態が起きているに違いない。
本来ゴブリンは悪戯好きではあっても悪意を持った存在ではない。
悪戯の結果で人に怪我をさせても命を奪う事はない。
しかしこのフロアの血の量から考えるとここでの狩人を救う事はもはや不可能だろう。
フロアの奥に続く廊下にはなにかを引きずった様に赤い跡が一本道の様に続いている。
俺はそれを辿りながら奥へ歩みを進めてみる事にした。
最奥のドアを開くと新たな獲物を待ち構えている人影が見えた。
ゴブリンに似てはいるものの、若干こちらの方が身長が大きく赤い目と赤い帽子を持ち、そして明らかな殺意も持ち合わせていた。
間違いないない奴は...
「レッドキャップか」
レッドキャップはニタリとこちらを見て笑みを浮かべる。
この赤帽の小鬼は通常のゴブリンとは違って容易には現世に降りて来ることはない。
彼を召喚するには色々と特殊な準備が必要だからだ。
まずは場所が大事だ。
彼は残虐な行いが行われた場所にのみ降りるとされる。
殺傷事件などが行われた場所が好ましい。
そしてもう一つは人の血で染め上げた帽子だ。
帽子はなんでも良く、現に目の前のレッドキャップは赤黒いトップハットを被っている。
これらを準備した上で彼らを召喚するのだ。
しかし、レッドキャップなどの残虐性が高い幻想の召喚方法は世間に出回らない様になっているはずだ。
「オヤ、新しいお客さんカネ?」
レッドカーペットを敷いた甲斐があったと楽しそうに続けるレッドキャップ。
残虐性と悪意を隠す素振りもない。
いや、むしろそれを嬉々と行っているのだ。
はっきりいって不愉快極まりない。
「歓迎はありがたいが少々悪趣味だ」
こちらの不快感を感じ取ると更にレッドキャップは気を良くしたように笑う。
レッドキャップがここにいる原因は分からないが彼を自由にさせるのは駄目だ。
交渉の通じる相手ではないだろう。
協会も連絡が途絶えた狩人の異変を察知してるはずだ。
じきに新しい狩人がやってくるはずだがそれまで耐え凌ぐしかなさそうだな。
そんな思いをよそにレッドキャップがウズウズしながら壁に立て掛けていた斧を手に取る。
そのまま物陰に隠れると声だけが部屋中に鳴り響いた。
「久々の人ノ世ダ。お前には悪いが楽しませて貰うヨ」




