25 太陽の花
『時代の流れという物は人間達が作り出すのか?それとも我が主が奏でる旋律に踊らされているのに過ぎないのか?それは誰にも分からない。分からないが、それでも適応、もしくは抵抗する人達の強さに俺は度々驚きを覚えざるを得ない。ハサンもその一人だ』
室内に残ったのは俺とハサンの二人だけだ。
さて、俺もそろそろ街に向かわなければ。
その前にもう少し詳しくハサンから頂いたエコーへの手紙の事を詳しく聞くとしよう。
詳細不明の物をほらっと簡単に手渡す訳には行かないからな。
「ハサンよ、この手紙についてもう少し詳しく教えてくれ」
「ええ、それは私の信頼する者、薔薇の招待状です」
「幹部か」
その通りとハサンは応える。
幹部と言うと最低でもあの菫と同レベルの実力者という事か。
確かにエコーには大きな助力になる。
「正直に申し上げれば薔薇は菫さんとは比べ物になりません」
「それ程なのか?」
「はい。それ程です」
あのモーゼスですら不意を突かれたら深手を負う程の実力を持つのが菫だ。
その彼女ですら薔薇の前では霞む実力だとハサンは言う。
「私が月ならば彼は太陽です」
「自分と対を成すと言うのか?」
「暗殺という点ならば彼は私はおろか、他の者と比べても劣るでしょう」
「では?」
「強いです。途方もなく」
魔術師モーゼスさえも敵わない。
ハサンははっきりと告げる。
にわかに信じがたい話だ。
「私が去った後、彼が長となるでしょう」
「暗殺者としては良くないのだろう?」
「ええ、間違いなく。暗殺者としては失格ですね」
「暗殺者の組織としては大丈夫なのか?」
「彼はきっとこの組織を生まれ変わらせるでしょう」
彼は暗に暗殺者の組織は要らない、そう言っている。
時代の流れを良く見ている。
エコーに対する期待もそれらが含まれているのだろう。
「彼は他の人達が習得した影の術を一切、習得出来ませんでした」
「それは指導者泣かせだな」
「才能が無いのもそうですけど、もう一点、彼は憑き物付きです」
憑き物か。
それは厄介だ。
上手く行けば大きな力を得れるが、大抵は碌な事にはならない。
気になるのは何が憑いてるかだ。
「ジンです。それもイフリーターです」
「馬鹿を言うな。ジン憑きは気狂いになるのがオチだ」
「ええ、奇妙な事ですが、彼は選ばれたんでしょう」
「本当にジンと協力関係にあるなら確かに最強だ」
ジンとは中東の神秘の魔神だ。
その中でもイフリートは炎を司るだけあって気性が少々、荒い。
それを手懐けるとは、まるでかの、ソロモンの様だ。
紛れもなく逸材だ。
それが暗殺者になるとは⋯
「私は別に彼に暗殺者になって欲しかった訳ではありません」
「そうなのか?」
「はい。彼はそうですね、一種の贈り物と認識しております」
「どういう意味だ?」
「彼は新しい時代です。エコーちゃんと同じ様に長、いえ王の器です」
長い時、人間を見てきたハサンが言うぐらいだ。
余程の者なのだろうな。
是非、一度お目にかかりたいものだ。
「ヨエルはきっと彼とは気が合うでしょう」
「ほう」
「暗殺者の中では珍しく人格者です」
いよいよ合うのが楽しみになってきたな。
手紙と薔薇の事を充分に理解出来た所で俺もそろそろ街へ向かうとしよう。
俺はハサンに別れを告げる。
「それではまたな、ハサンよ」
「ええ。また会いましょう、ヨエル」




