24 復讐
『影纏いのハサン。その昔、はるか古代に生まれた落ちたその者は誰からも好かれる一人の青年だった。しかし時代が其の者の道を大きく変え、彼の純粋な青年時代を早々と終わらせる事になった。時の圧政者、暴君に対しての抵抗手段は綺麗事だけでは足りなかったのだ』
ハサンが俺達に初めて、己の姿を見せる。
これが彼の本来の姿だろうか?
暗殺者の長とは思えないような好青年だ。
「随分と若々しいな」
「ハハハ、ヨエルがそれを言いますか」
「ふむ」
たしかにそうだ。
しかし、俺とは事情が違うんだろう。
ハサンのは人々の想いを身に纏った、一種の呪いだ。
「私は不器用な人間なので人より多くの時間を頂いたのでしょう」
「けっ、山の翁が不器用かよ」
「魔術大佐殿と比べればずっと、ね」
ハサンは何処か自虐的な部分を秘めている。
手段はともあれ、彼の行いは大きなものである。
想像も出来ない長い時を生きた者しか知り得ない葛藤と苦しみのせいだろう。
今、笑えていられるのは彼の計り知れない信仰心と強い心のお陰だろう。
「すいません、久々にこの姿を取ったもので多少、感傷に浸ってしまいました」
ハサンが笑いながら、そう応える。
モーゼスは年長の重たい言葉をしっかり受け止めている。
多少、自分に通じる部分を感じ取れたのだろう。
「俺はよぉ、そんな大したもんじゃねぇがよ、菫のお嬢さんの面倒をしっかり見させて貰うよ」
「信頼しています。争う事も有りましたけど、テンプル騎士団の事は嫌いではないですよ」
「俺の流派を名乗った覚えはねぇぞ?」
「一目瞭然です。恐らく、兜の騎士の縁でしょう」
「魔導騎士、兜のジャンゴは我がマスターだ」
ハサンはなるほど!っと合点がいった様子で喜ぶ。
長生きしてるだけあって顔が広い。
彼の師とも知り合った事があるのだろう。
「彼譲りの豪傑さだ。彼は指導者としても才があったようですね」
「ああ。この上ないマスターであられた」
「羨ましい限りです。私は見ての通り、放任主義なのでね」
ハサンが何処か遠き日々に想いを馳せるように宙を見つめる。
「テンプル騎士団、例の裏切りが無ければ今もなお、栄えていた事でしょう」
「その話はしたくねぇ」
「失礼、部外者が踏み込んで良い話ではないですね」
モーゼスが苛立ちながら舌打ちをする。
俺も噂には聞いた事がある。
悪魔に魅入られた堕落したある騎士の物語。
そのせいで内部抗争に発展し、遂には崩壊をしたと。
モーゼスはその最後の世代だろう。
「奴にはきっちりケジメを取ってもらう」
モーゼスの目には暗黒じみた黒い感情の炎が宿る。
これは危ない。
このまま行けば、彼の心にも悪魔が巣食う事になりかねない。
それを観察していたハサンはモーゼスに向かって言う。
「危険を承知で奈落を見つめるのですか?」
「口を出すな、名誉の問題だ」
「名誉ですか。その名誉とやらの為に間違いを犯した何人もの男をこの手で葬り去ってきました」
我が子を任せる男を手に掛けたくない、とハサンは続ける。
そうだ。
神は復讐を求めない。
全ては人間のエゴがなす業だ。
「ふん、暗殺者が偉そうに説教をするんじゃねぇ」
「ええ、老婆心が過ぎました」
モーゼスは頭を冷やしてくると言って外へ向かう。
それを二人して見守る。
彼が外へ出た事を確認すると俺はハサンに向けて注意をする。
「あまり彼をからかわないでくれ」
「とんでもない!私は彼を気に入ってます。唯の忠告です」
「それでも、だ。人の心は誰も踏み入っては行けない地だ」
「ええ。申し訳ありませんでした」
ハサンは素直に謝罪をする。
しかし、彼は間違ってはいない。
願わくば我が主がモーゼスの心の嵐を鎮めてくれるのを祈るしかない。




