22 グール
『道は違えと何かを極めた者は同じ頂にいる者に対して共感を得る。それは強さの共感か、孤独の共感か、あるいはその両方か』
「では仲直りした所でグールの説明をお願いします!」
エコーが大きな声で言う。
モーゼスがその大声に対して笑みを浮かべる。
そしてハサンに向かって口を開く。
「グールの説明、お願いできるか?」
「ええ、お任せください」
ハサン曰くグールとは人間と変わらない知能を持った魔の食人鬼。
姿形を自在に変化させ、人に紛れ、潜む。
一種のシャイターンである。
「ひぇ~シェイプシフターですか!」
「はい。人によってはジンのなり損ないと言う者もいるらしいですね。その位に強力だと認識してくれれば良いです」
ようやく敵の正確な強さを理解出来たエコーが青ざめる。
そうだ、それで良い。
絶対に、決して、グールを侮るな。
「ど、どうしましょうか!聖典でも唱えますか!?」
「ハハハ、エコーちゃんが改宗したいのならば大歓迎ですよ」
「やっぱり意味ないですよね!銀でも打ち込みますか?」
「一種の鬼ですから効果はあるでしょう」
うーんとエコーは頭を抱えて悩み出す。
そんなエコーに対してモーゼスが言う。
「心配するなお嬢ちゃん。倒すのは俺がやろう。元々俺の依頼だからな。問題は」
「敵のあぶり出し、だな」
俺がそう言うとモーゼスは頷く。
砂漠にいる訳でもなく、街に潜んでいるのだ。
それも人に化けている。
しらみ潰しは現実的じゃない。
その様子を見た菫がハサンに向けて問いかける。
「月下美人、彼らは何を悩んでいるのですか?」
「私もさっぱりです。彼らにはエコーちゃんがいるのですから問題ないはずです」
いきなり名前を挙げられてエコーが驚く。
「私ですか?無理ですよ!」
「そういえばグールの発祥の話はしていませんでしたね」
「発祥ですか?」
「ええ。正確にいえばジンでは無いですか彼らも煙なき火から造られました」
ハサンがいつの間にか手にしていたエコーのパイプを彼女に差し出す。
「煙を纏う者よ。炙り出すのです」
「いつの間に!」
「彼らは貴女の煙を避けるでしょう」
エコーが慌ててパイプを奪い返す。
これは別に彼女の不注意ではない。
まぁ、相手が悪すぎるのだ。
「なる程な。お嬢さんの煙は特に特別だからな」
「ああ。聖なる精霊の煙だ」
俺とモーゼスは納得する。
エコーは大役を任せられ少しばかり不安の表情を浮かべる。
そんな彼女にハサンが優しく語りかける。
「エコーちゃんは恐れを知っている。それは戦士としては大事だけれど自信をもう少し付けたほうが良いですよ」
「他人の命に関わったり、任せられると不安になります…」
「大丈夫です。貴女なら大丈夫です」
ハサンはエコーを非常に高く評価している。
これは機械獣や弓の腕のせいだろうか?
いや、それだけじゃない筈だ。
彼女に何かを見出している。
「うーん、分かりました!やってやります!一足先に街に帰って準備をしますね!」
そう言うとエコーは暗殺教団の本部から飛び出す。
それを見たハサンが笑う。
「やはり若者は思い切りが良くないといけませんね」
「なぁ、ハサンよ。何故そこまで彼女を買っているのだ?」
「彼女は私と同類ですよ、我が友ヨエル」
「エコーが?」
ハサンはモーゼスの一瞥してから、再度、俺に向かって喋る。
「モーゼス大佐も隊を率いた者として分かる筈です」
「彼女は指導者の才があるのか?」
「才?とんでもない、呪いですよ」
それを聞いていたモーゼスがぼそりと呪いか、間違いねぇと呟く。
「彼女はいずれ森の長になる宿命です。多くの災難と悲劇が彼女を待ち受けています」
「それは彼女次第じゃないのか?」
「いいえ、絶対です。そういう星の下に生まれてしまったのです」
モーゼスが後ろを方を向く。
表情は見えないが重い空気の中、モーゼスの絞り出す様な声だけがやけに大きく聞こえた。
「くそったれめ…」




