19 褒め殺し
『なんとか全員無事で戦闘訓練を終わらせる事が出来た。魔術師モーゼスに関しては心配はしていなかったが、我が協会の狩人、エコーも大変な活躍を見せてくれた。何よりも暗殺者達を含めて死者が一人も出さなかったのは素晴らしい結果だ』
「ちょっと!私さっきまで森で戦っていたのに気付いたらこんな所に連れてこられているんですけど!どうなってるんですか!」
「ああ、見事な活躍だった。エコーよ」
「流石は森の部族の末裔よ!立派な戦いであった!もうお嬢ちゃんとはよべねぇな」
戸惑いを隠せないエコーに対して俺とモーゼスは労いの言葉を贈る。
「え?エヘヘ!見てたんですか?うちの子達に掛かればこんなもんですよ!」
エコーが堂々と胸を張るが、褒められて喜びを隠せない様子だ。
「お疲れ様です、エコーちゃん。私は月光美人と呼ばれる者です。そしてこちらは私の同僚の菫さんです」
「始めまして、エコーさん。見事な戦闘でした」
ハサンと菫が自己紹介をする。
彼ら、いや主に菫の姿を見たエコーが警戒態勢に入る。
「その衣装は先程の方と同じですね?暗殺者、ですね?」
「はい。ちなみに私は長をやらせて頂いてます」
ハサンの言葉を聞いたエコーは大きく後ろに飛ぶと大きな声で叫ぶ。
「レガリス!!来い!!」
数秒も経たない内に部屋内のダクトから先程の機械蜘蛛が姿を現す。
暗殺者二人の察知するやいなや背中からゴム弾を発射する。
しかし弾丸が二人に直撃すると、ハサンは黒い霧状に、菫は紫の花弁となって、弾丸は二人をすり抜ける。
「落ち着いて、エコーちゃん」
「私達は悪い暗殺者じゃないです」
エコーは目の前で起きた現象に対して唖然とする。
ハサンと菫はエコーを落ち着かせようとする。
見かねた俺はエコーに言葉をかける。
「もう大丈夫だ。彼らは敵じゃない」
「どういう事ですか?彼らを降伏させたんですか?」
「それが出来れば苦労はしないんだがな」
俺は事の成り行きをエコーに説明する。
話を聞いた彼女はなんとか落ち着きを取り戻したようだ。
「先程は失礼しました。お二人が貴女の様子をご心配なさっていたので勝手ながら連れて来ました」
「いえ!私も無礼をしました!」
「先程はお見事でした。暗殺者相手に先手を打つとは流石です」
ハサンが彼女を称える。
彼女の警戒のレベルが一段下がったのを感じ取れる。
ハサンは続ける。
「森の部族の弓。そしてお若いのにも関わらず実戦で冷静に機を逃さない度胸。貴女はその歳で既に戦士の道を歩まれておられる」
エコーの硬く閉ざされた口の口角が少しだが上がり始める。
更にハサンは畳み掛ける。
「そして、機械獣。私は今まであれ程までに素晴らしい物を見たことがありません。どうやら貴女は特別なようですね」
ついにエコーの顔に満面の笑みが浮かび上がった。
あっという間にエコーは怪物に取り込まれたのだ。
恐るべきだな、ハサンよ。
「私なんか全然ですよ!でもうちの子達をもっと褒めて下さい!!」
ハサンはうんうんと頷く。
若い娘が誑かされるのを俺とモーゼスはただ見守る事しか出来なかった。




