18 蜘蛛の糸
「慈悲。それは強者が弱者にかける行為だ。高貴にも思えるその行為は結局のところ、圧倒的な力の差がなければ成り立たない。そうでなければ慈悲をかけた相手に食われることになるからだ」
暗殺者の命を刈り取る刃がエコーに向かって飛来する。
俺は思わず握る拳に力が入る。
隣でモーゼスは険しい顔をしている。
エコーの実力に疑いはないが、命のやり取りである。
つまりの所、覚悟の差が物を言う世界であるという事だ。
俺達二人はエコーがどうにか凌いでくれる事を祈った。
「お二人共、大丈夫ですよ」
ハサンがさらっと言う。
彼がそう言った瞬間、彼女が立っている場所から少し離れた所にある木、その木の上から弾丸が発射される。
未だに何者が撃ったのが不明なその弾丸は一寸の狂いもなく飛来するナイフに直撃し、撃ち落とす。
更にその木からもう2発の弾丸が発射され、暗殺者の両腕に直撃する。
「ゴム弾ですか。確かに殺傷能力は無いですけどあの威力なら腕の骨は折れましたね」
隣でハサンが分析をする。
これはうちの負けですね、と彼が俺達に告げる。
それよりっと言った風にハサンはモニターに注目を向ける。
「2機目のメカビーストはどんな子でしょうか?」
彼は自分の部下の安否よりもエコーの機械獣達に夢中の様子だ。
もう己の主人に危険は無いと認識したのか、木の上から鉄の獣が飛び出す。
それは蜘蛛だった。
サイズはエコーの腰ぐらいまである。
蜘蛛にしては大柄だが、木の上やちょっとした場所なら隠れるには問題のないサイズ感だ。
色合いはベースが黒一色で所々に、彼女の部族のものだろうか?民族的なペイントが施されている。
エコーの事だ、光学迷彩も積んでいるだろう。
蜘蛛はエコーの前まで進むと背中の部分にある蓋が開口し、銃火器らしき物から糸が発射される。
粘着性を持ったそれは暗殺者に当たると暗殺者を地面に貼り付けにする。
詰みだな。
「いやーエコーちゃんもやりますねぇ!森の長老の孫さんなだけありますね」
「森の翁を知っているのか?」
「一方的にですけどね」
同じ翁を冠する者としては一目を置いているのだろう。
最も森の翁と言ってもハサンから見れば若造の部類だろうがな。
「しかし蜘蛛ですか。彼女の部族では守護者、でしたっけ?」
「ああ。他にはドリームキャッチャーなんかも蜘蛛の巣を象っているらしい。聖なる生き物として扱われている」
「我々からしても蜘蛛は神聖視されてます。増々、エコーちゃんとは気が合いそうです」
蜘蛛が彼らの預言者を救った話か。
蜘蛛の糸の如く、奇妙な繋がりだな。
「あれはタランチュラですかね?見事な造形美ですね」
ハサンはシルエット状に姿を隠しているので分からないが恐らく彼の目はキラキラと輝いてる事だろう。
蜘蛛と機械の組み合わせなんかは彼からすれば堪らないだろう。
「エコーちゃんは発注とか受け付けてますかね?」
「暗殺目的に使われると知っていたら無理だろうな」
「それは⋯残念ですね」
ハサンがガクリと肩を落とす。
しかし彼の新しい物をどんどん受け入れる姿勢は是非に見習いたいもんだ。
俺は機械に疎いからな。
「では、エコーちゃんをこちらに迎えましょうか」
ハサンがそう言うとまたもや地面の中に沈み込む。
数秒経つと壁の中からエコーが出てくる。
相変わらず凄い術だ。
「それでは、これにで戦闘訓練終了です!」
いきなり連れてこられて戸惑うエコーをよそにハサンは皆様、お疲れ様です!っと大きな拍手をする。




