17弓の腕
『弓矢。
その歴史ははるか古代まで遡る。
それは人類が創り出した文明の利器だ。
簡単な構図とは裏腹にその扱いは予想以上に難しい。
止まっている的にさえ当てるのに相当の練習が必要になる。
しかし、練習の苦労さえ霞むほどの威力を持つ。こんな高度な文明を誇る現代でさえファンが多い』
エコーと暗殺者はまだ、お互いに目視出来ない位置にいる。
それに関わらず、エコーは機械腕を変形させ、弓の形状にさせている。
まさか、もう打つ気か?とモーゼスとハサンも驚きを隠せないでいる。
彼らは素直にそれを口にする。
「森の部族は確かに弓の腕利き揃いだがよ、お嬢ちゃんはそんなに凄いのか?」
「さぁ、その機械腕、ウィリアムはちゃんと林檎を射抜けますか?エコーちゃん」
エコーは堂々とした構えで弓を構える。
生身の方の腕で弦を思い切り引く。
余りの力に腕の筋肉が膨らんでいくのが服の上から分かるほどだ。
見ている一同の手に汗が握る。
さぁ、エコー。
皆の度肝を抜かしてやれ。
エコーは数秒、その姿勢のまま不動でいる。
突如、矢を上に向けて放つ。
皆が呆気に取られる。
矢は遥か上空へ打ち上げられる。
突然、物凄い速さで先程の鷹型ドローンが矢に迫る。
矢に対して、突然、体当たりをして、矢の方向を変える。
矢は下へ向かって増々勢いを付けていく。
森林に突入した矢を、鉄の鷹が追う。
再度、矢を追い抜いた鷹が蹴りを食らわし、矢の方向修正を行う。
そのまま、矢は暗殺者の脚を射抜く。
暗殺者は突然の攻撃に為す術もなく、倒れる。
画面越しの暗殺者は苦しそうだ。
モーゼスとハサンは先程の凄技の感想をそれぞれ、口にする。
「すげぇ。とんでもないものを見たぞ」
「ええ。凄まじいプロセッサーとAIを積んでいますね、あの鷹」
「あの弓はなんだ?それを引くあのお嬢ちゃんもすげぇな」
「特殊な合金ですね、ドワーフ製でしょうか?弓を構えた際に、機械腕からなにかを体内に注入しているような動きがありました。腕の膨張から見て、何かの増強剤ですかね?」
素直に絶賛するモーゼスと冷静に観察をするハサン。
確かにあの技はエコーの腕と技術がなければ出来ないものだ。
見事だ。
勝負あり、だと思ったが、ハサンの見解では、これからとの事だ。ハサンは言う。
「さぁ、うちの子はもう動けないですね。どうしますか?エコーちゃん」
このどうするか?というのはトドメを刺すかどうかという事だ。
ハサンは興味深そうに画面越しのエコーを見つめる。
彼女に暗殺者としての素質を見たのか?
どちらにせよ、彼女の腕を高く買っているようだ。
エコーは倒れている暗殺者に向けて走り出す。
暗殺者を目視出来る範囲まで近付くと彼女が倒れている暗殺者になにか声を掛ける。
しかし、森での雑音が煩くて何を喋っているのが上手く聞き取れない。
ハサンが読唇術でエコーの言葉を読み取る。
「降参するか聞いています、お優しい子ですね」
「森の部族は無駄な殺生を好まない」
「では仲良く出来そうですね」
ハサンが俺に対してそう言う。
冗談ではなさそうだ。
彼はエコーに対して大きな関心を見せている。
少しばかり危険な空気が漂うのを感じる。
俺はそんなハサンを睨めつける。
ハサンはそんな俺に対して顔を左右に振りながら言う。
「やだなぁ、ヨエル。そう睨まないで下さい、別に彼女をどうこうしようと思ってませんよ」
「そう願いたい」
「第一、うちとは信仰が違いますしね。それに腕が良ければ誰でも言い訳じゃないのですよ」
ハサンは殺しにも一応の道理と流儀があると言う。
信仰から来るものなのか、彼の美学から来るものかは分からない。
どちらにせよ、勧誘するつもりはない、と信じたい。
ハサンの真意は俺には読めない。
丁寧な態度とは裏腹に彼は既に人では何かなのだ。
人でないなら、俺の出番になる。
勝てるかは分からない。
しかし、エコーを守る為なら俺は身を捧げるつもりだ。
ハサンは恐らく、俺の考えを呼んでいるだろう。
しかし、気にせずにそのまま、ハサンは続ける。
「ただ、殺し合いはまだ終わってないですよ、エコーちゃん」
そう言われた俺はモニターの方を振り向くと、そこには、倒れている暗殺者が暗器として隠していたナイフをエコーに投げつける場面だった。




