13 更に下の階へ
『暗殺教団の幹部達が花の名前を戴く理由は長年不明だった。
しかし、新たな友人から聞いた話では人知れずに咲く、人の承認を要らずに美しく咲くその姿に共感したみたいだ』
「さて、他の薔薇の部下達は此処にはいないのでこの階は突破です。おめでとうございます!」
どうやら薔薇の間は突破出来たようだ。
呆気なくも感じるがそれは大佐のお陰だろう。
一緒にいて実に心強い。
「いや俺もよ。実は良い戦闘訓練になっている」
「それはこちらとしても大変嬉しい限りです。貴方とも良い関係性が築けそうだ」
「ああ。出来れば日頃から暗殺者を送ってくるのは止めてほしいがな」
「それはうちの者ではありませんよ。大佐の暗殺なら私が直々に赴きますよ」
「それは勘弁願いたいな」
モーゼスはどうやら調子を取り戻しているようだ。
しかし、あのモーゼスがほんの少しではあるが、ハサンに気を緩めている。
忘れかけてはいるが、彼は元々は敵だ。
やはり山の翁は怪物だ。
モーゼスは俺に先に進むように言う。
「さて次の階にいこうか、ヨエル」
「ああ、急ごう。エコーが心配だ」
「よし、飛ばして行こうか」
モーゼスと俺は駆け足で下の階へ降りる。
部屋に着くや否や、モーゼスは魔術を唱える。
短い呪文を早口で唱え、いつの間にか頂戴していた先程の金属の茨を部屋に投げ、指を鳴らす。
金属の茨は強く発光し、部屋を光で覆い尽くす。
モーゼスは目を閉じながら走り出し、部屋の隅にいた男にラリアットを決める。
モーゼスは男が戦闘不能に陥ったのを確認してから言う。
「取り敢えず一人。奇襲で申し訳ねぇな」
「いえいえ、暗殺者が奇襲されて文句言うのは違いますから」
モーゼスの奇襲にハサンは気になさらずと言う。
気絶して倒れた男性がまたもや地面の中に沈み込む。
ハサンは床の中から言う。
「幾ら厳しい修行をしても、一瞬の油断で全部が終わる。この子にはいい学びでした」
「そいつには名前はないのか?」
「ありました。でも、没収です。大佐のお陰で一からやり直しです」
「それは悪い事をしたな」
「いえ、死ぬよりは安いものですよ」
モーゼスはそうだな、と頷く。
俺はモーゼスの手の内がどんどん相手に伝わっていくのが心配だ。
そんな俺に対してハサンは俺の考えを読んだのか心配不要と言う。
「こんなお遊びで大佐の力は測れませんので大丈夫ですよ。パラシュートで降り立つ為に機械類の装備は一切持ってないでしょう?それに大佐の神秘はまだまだ奥が深いと見える」
「読心術か?」
「貴方には効かないでしょう。君達がマザーと呼ぶあの魔女のお嬢さんのですら効かなさそうですね」
「マザーと知り合いか?」
「ええ。私直々に暗殺の依頼がありましてね。勿論却下しました。暫く観察をした所、彼女は善人です」
「そうか」
神秘協会は敵が多い。
分かってはいたが、マザーをそこまで危険視しているとはな。
俺ももう少し警戒を高めようと心に誓った。
ハサンがその気だったらマザーの命はとっくの昔に終わりを迎えていたのだ。
ハサンの良心に感謝しなければな。
モーゼスはハサンに尋ねる。
「それで?この階はそいつ一人なのか?」
「ええ。お恥ずかしい話ですが、教団は人手不足でしてね。その大半も任務に出かけてます」
「ではこのまま下の階へ行ってもいいか?」
「はい。菊の間、突破おめでとうございます!」
…暗殺教団も苦労しているのだな。
俺は一瞬、ハサンの苦労を思い、共感してしまう。
しかし、飲まれれは行けないと思い、思考を切り替える。
俺とモーゼスは下の階へ降り立つ。
部屋の中央には一人の女性が立っていた。
そこには同じ黒い装束でありながらも、身体のラインにより、女性だと認識出来る。
身長は女性にしては長身で俺よりは僅かに低い。
顔の布は口と鼻しか覆われてなく、長い紫の髪がポニーテールで縛られていた。
顔は色白で、その目は切れ長だった。
東洋地方の者に良く見られる特徴だ。
眼の前に居るのにまったく気配が感じれない。
敵意も殺意も感じ取れないが、先程の者達よりは格上の存在に思えた。
「私は菫、と申します」
女性は立っているだけなのに一切の隙がない。
隣にいるモーゼスが警戒を高めているほどだ。
ハサンの声がまたもや鳴り響く。
「スミレさん、貴女は任務中では?」
「任務は既に終わらせてきました、月下美人」
「本当に優秀だ!幹部はこうでなくちゃいけませんね!」
「いえ、全ては月下美人の教えのお陰です」
ハサンは身内の働きに感動をしている。
長年生きた怪物にしては、どこまでも人間味がある。
これも一種のカリスマ、チャームなんだろうな。
黙って話を聞いていたモーゼスが口を開く。
「幹部様のお出ましか」




