12 戦闘訓練
『正直な所、ハサンの温情には助かっている。幹部が出てこないのは大変に助かる。そこら辺の暗殺者なら大佐はまず負けないだろう。彼に暗殺を試みた者は一人や二人どころじゃないからな。今も生きているのが彼の強さの証明だ』
モーゼスが倒れた男にトドメの踏み付けを行おうとすると地面から黒い手が伸び、倒れている男を地面に中へ吸い込む。
「凄いですね。彼はこれでも幹部候補なんですけどね」
ハサンの声が再び鳴り響く。
それに対してモーゼスはふんっと鼻を鳴らす。
「流石に蕾相手には負けねぇよ」
「いえいえ、これまで一回も捕まらなかった彼ですよ。流石は超人です」
ハサンが素直な称賛をモーゼスに贈る。
モーゼスはそうかいと返す。
モーゼスよ、いい加減機嫌を直してくれ。
「次は僕の番ですね」
少年の声が俺達の後ろから聞こえる。
咄嗟に振り向くがそこには誰もいない。
索敵をしていると突如、モーゼスの影から少年の手が伸び、モーゼスの脚を掴む。
バランスを崩れ、後ろに倒れそうになるモーゼスの腕を掴み、倒れないように引き止める。
モーゼスが倒れようとした先、モーゼスの影から棘に似たような鋭い金属の串のようなものが飛び出る。
「これを凌ぐとはね!普通ならそのまま心臓一突きなのにな!」
少年がモーゼスの影から手を出して拍手をする。
モーゼスはその手を蹴り飛ばそうと足払いをするが、少年は再度、手を影の中に戻す。
その時、ハサンの声が鳴り響く。
「こら、茨。殺す前には相手に名乗りなさいと教えましたよね?」
「そうだった!ごめんなさい、月下美人」
少年はモーゼスの影から出てくる。
先程の蕾と呼ばれた男と同じ様な衣装、違いは少年の物はノースリーブになっているぐらいか。
背丈的には十代ぐらいだろうか。
「僕は薔薇の茨です。よろしくね」
「俺はヨエル、こいつはモーゼス大佐だ」
「よろしくね、お二人さん」
少年は挨拶を交わすと今度は目にも留まらない速さで俺の影に潜り込もうとする。
しかしそのまま、地面に直撃してしまう。
「いってぇー!なんで入れないんだよ!」
「さぁな、修行不足かもな?」
「言ってくれるねぇ」
モーゼスは未だに倒れている少年の前に立ち、自分の影で少年を覆う。
「ほれ、入りな」
「爺さん、頭がおかしいの?」
「勿論だ。さぁ、仕切り直しだ」
少年はそのままモーゼスの影に潜り込む。
モーゼスは身体を反転させ、自分の影に対して背を向ける。
「もうバレてるんだ、暗殺もクソもねぇだろ。速いもの勝ちだ。さぁ、抜きな」
モーゼスは懐からコインを取り出し、指で弾いて上空へ弾く。
コインが回転しながら落ちてくる。
勝負は一瞬だ。
コインが地面へ着く。
その瞬間、天井から鋭い金属の棘がモーゼスの頭目掛けて飛来する。
茨の少年はモーゼスの影からそのまま他の影を経由して天井に潜んでいたのだ。
「ふむ。速い、しかし焦りが見て取れるぞ」
モーゼスは茨を手の甲で横に弾く。
途轍もない速さで壁に向かって飛来する。
ひぃっと小さな悲鳴が聞こえる。
壁に到着しようとしたその瞬間、またもや黒い手が壁から伸び、それを受け止める。
壁から先程の少年がよろよろと出てくる。
「死ぬかと思った!月下美人がいて助かったよ!」
少年は先程の黒い手の主に礼を言う。
再度壁から黒い手が異様に伸び、少年の首根っこを掴み、壁の中に引きずり込む。
「まだまだ未熟ですね。これはしっかりと薔薇に報告させて貰いますよ」
「そんなぁ!ボスには言わないでください!」
「ダメです。さぁ、修行のやり直しです」
取り敢えず二人目の刺客もなんとかなったか。
まったく、曲者揃いだ。
「お二人共、実に素晴らしい、実にお強い!」
ハサンがまたもや称賛を贈ってくれる。
「ヨエルがいなかったら危なかったな」
「嘘を付け、大佐は気付いていただろう」
「部屋に入った瞬間に俺の影がもぞもぞしていたから警戒はしていた」
「なぜその時に撃退しなかった?」
「戦闘訓練だからな、若いのにも活躍させねぇとな」
ハサンの拍手が鳴り響く。
「素晴らしいです、大佐。無事に生き残ったらうちで教官をしてくれませんか?」




