11 内部へ
『俺は新たな友を得た。彼は、そうだな、掴み所がないと言っておこうか。年齢はおろか、容姿も分からないが案外話が通じる。思想は物騒なものだが一応の道理は持っているらしい。さて、彼の提案で戦闘訓練をする事になったが、この友人の善意ある提案をどう乗り越えようか』
「時間制限は無し。張り切って行きましょう!」
月下美人と名乗ったシルエットの男は見えない何がから立上がえるとそのまま地面に吸い込まれるように消える。
残された俺とモーゼスはその場で立ち尽くすだけだった。
「あれが暗殺教団か」
「正直よぉ、俺は少し自信をなくしちまったよ」
「気にするな、大佐」
モーゼスは落胆した様子を見せる。
モーゼスは決して弱くはない。
むしろ、強者の部類だ。
じゃなければ超人とは呼ばれていない。
「山の長老相手に良く頑張った方だ」
「おいおい、何故此処で伝説の名が出てくる?」
「幹部全員があんな化物揃いだと思ったのか?」
山の翁かよ⋯とモーゼスはその場でしゃがみ込んでうなだれる。
モーゼスも伝説になっても可笑しくはない。
それを上回る伝説がいる、と言うだけの事だ。
「そりゃあ、俺なんか坊主扱いだな」
「年季の差だ、しょうがない」
「本当に本人なのか?」
「予想だな。正直分からない」
恐らく合っているだろう。
自分の持つ知識と照らし合わせても合点がいく。
しかし、何故か確信を持てない。
自分の認識に自信が持てないのだ。
これは月下美人と名乗っている男の業か、あるいは性質か。
「ヨエル、戦闘訓練で済ませたいならその名はもう口にしない事だよ」
突如、月下美人の声が闇に鳴り響く。
男の警告は先程の答え合わせだ。
しかし、それでも確信に至らない。
やり難い相手だ。
「しかし、良く分かりましたね。私もまだまだという事ですかね」
「気にするな、年季の差だ」
「ハハハ!年長からはいつも学びを頂ける!」
月下美人、いや、山の翁は楽しそうな様子を見せる。
俺は思わず彼に質問をしたくなった。
「翁よ、何故俺の正体が分かったのだ?」
「翁など他人行儀はやめてくださいよ。良き友、ハサンとお呼びください。正体はまったく分かりませんよ。これでも観察力には自信があったつもりでしたけどね。」
「何故、俺の方が年上だと思った?」
「その素敵なコートの裏地の刺繍、古い巻物で見た神代文字に良く似ている。そんな物を羽織るのに何十年、いや何百年、いや、もっと、でしょうか?
一体どれだけの修行、信仰を重ねれば可能ですか?」
「レプリカとは思わなかったのか?」
「いいえ、実に様になっておられる」
ハサンの指摘は的確だった。
モーゼスが隣で信じられないものを見ている表情を浮かべている。
「よぉ、俺もさん付けした方がいいか?」
「よしてくれ」
「はぁ、なんて夜だ。まったく」
「それではハサンよ、行ってくる」
お怪我の無いようにっとハサンが言う。
俺とモーゼスは屋上の階段から下へと進む。
下の階で待っていたのは1人の黒尽くめの男だった。
古い中東の衣装に身を包む男は布を顔に巻いており、目元しか認識できない。
「薔薇の蕾と呼ばれております。以後よろしくお願いします」
自己紹介と共に男は姿を消す。
同事に何処からか白銀の輝きを持ったナイフが飛来してくる。
モーゼスはそれを難なくキャッチする。
そのまま後ろ回し蹴りを放つといつの間にか俺等の後ろにいた先程の男に直撃する。
モーゼスは俺に向かって言葉をかける。
「やっぱり、俺って強ぇよな?」




