10 交渉
『交渉とはお互いになにかを譲る為のものだ。しかし真の交渉人は少し違う。気付けばいつの間にか譲ってはいけないこちらのラインを安々と侵略出来る。今回の場合の譲れないポイントはこちらの死だな。まぁ、それもシルエットの男は簡単に踏み込んだ訳だ』
「さぁ、君達の意図が分からないと殺すしかないですよ」
シルエットはこちらの出方を伺ってる。
モーゼスは素直に喋ることにした。
拷問も耐えられるモーゼスだが、心理戦と話術で負けると思ったのだ。
「壊滅だ」
「物騒ですねー。一応理由を聞いても?」
「街の行方不明者だ。お前ら絡みだろ?」
「たしか現在の行方不明者は22人でしたっけ?そのうちの7人はうちですね」
「20人だ。お前らは7人しかやってねぇのか?」
「失礼、捜査が遅れているんでしたっけ?残り二人はバラバラになってますよ。背格好が似てるから繋げるのは大変かもしれませんね。古い切り傷がある腕は背中にアザがある胴体の物ですよ」
「やけに詳しいな。それもお前らか?」
「いえ、この二人は違いますよ」
モーゼスは相手の言葉の意図を汲み取ろうとしている。
しかし、恐らく前のシルエットの言葉に裏表はないだろう。
嘘をつくメリットがないのだ。
「あの二人は可哀想だったね。切り裂きジャックが戻ってきたかと思ったよ」
「ジャックの仕業なら現場がすぐ見つかるだろう。あれは血の海だ」
「そうだったねぇ。あの赤帽は容赦ないもんねぇ」
「お前らなんの話してるんだ?」
モーゼスは俺とシルエットの会話に入ってこれないでいた。
もうこの話はやめよう。
俺が交渉に名乗り出る。
「壊滅作戦を中止した場合は?」
「そうだねー、3人を無傷で帰らし、1人は見せしめで殺しましょう」
「却下だ」
「えー、これでも結構、譲りましたよ?」
「4人、無傷で頼む」
「では1人も殺さないけど、んーそうだね。1人につき腕一本を落とすのは?」
「腕一本しかない場合は?」
「エコーちゃんね!生身の腕かな?いや、あのメカニックアームを飾るのもアリかも?」
「全部把握してるんだな」
「君以外はね、ヨエル、さん付けの方がいいですか?」
「呼び捨てで構わない。友人は全員そうしてる」
「失礼、年上の方は久々なものでね。では、改めて新しい友人、ヨエル」
シルエットは腰を下ろすとそのまま目に見えないなにかに座った。
見えないその何かが低い声で唸る。
「ご飯が欲しいのかな?さて、友達が増えたこんな嬉しい夜に殺しはしたくない。どうしましょう?」
「世間に暗殺教団に捜査の協力を頼んだと公開するのは?それなら俺は無礼な客人ではなくなる」
「あんまり世間に存在を知ってほしくないんですよ。こう、知る人ぞ知る!みたいなね」
「ではどうすれば?」
「君等の協会の報告書だけでいいですよ。あ、後はヨエル手記には格好良く書いてくださいね!」
「もう俺の正体もバレたか」
「正体は分からないけど役割はね。実は私もヨエル手記の大ファンでしてね」
「過去にハッキング攻撃で流出した報告書たちか」
「まさか先生のご友人になれるとは感激ですよ」
「先生と呼ぶな」
「失礼しました。先生は呼び捨てがお望みでしたね」
シルエットからはもう敵意を感じれない。
交渉は上手く行ってるようだ。
「ではこうしましょう!お二人には本部内に入って貰います。森にはうちの者を1人出しましょう。
生きて帰れたらオッケーです!そうだね、共同戦闘訓練という事で」
「お前も参加するのか?」
「いや、私も幹部達も手出ししません」
「そちらの者を誤って殺してしまった場合は?」
「私がそうさせませんので大丈夫です。殺す気で挑んてくださいね」
シルエットがバンと手を叩く。
「では新しい友に捧げる歓迎会の始まりです!」




