9 夜の花
『パラシュート部隊。今では自殺部隊とも知られている。何故なら今の時代にレーダーに映らぬようにメカ類を一切持たず生身で飛び降りるからだ。余程の超人か化物でも無ければ敵陣から返ってくる事はない』
ヘリコプターから飛び降り、空中落下している俺に、同じく、落下をしているモーゼスが叫ぶ。
「このまま目下の建物の屋上に着地をする!!」
「了解した!!」
屋上に近付くにつれて、落下速度が増し、俺達の身体に猛風が襲いかかる。
猛風と格闘しながらもなんとかパラシュートを開く。
屋上に人影は見えない。
このまま無事着地できそうだ。
俺とモーゼスは屋上に降り立つ。
その瞬間に俺達の背後に一つのシルエットが現れる。
若い男性の声で俺達に喋りかける。
「お客さんかい?ぜひ正面扉から入って頂きたい」
シルエットの両手がそれぞれ俺とモーゼスの首に伸びる。
俺とモーゼスはスウェーの如く身を捻り、それを躱し、シルエットと距離を置く。
シルエットはそれを見て首を傾げる。
「おや?モーゼス大佐はこれぐらいじゃあ殺れないのは分かってたけど、もう一人の君は誰だい?」
「なんだ、もうバレちまったのかよ」
「空中にいた頃から認識はしていましたよ」
シルエットは俺に向かい問いかける。
「認識の魔術が効かなかった。君は何者?」
「俺はヨエル。お前は?」
「始めましてヨエル。私は月下美人と呼ばれています」
「げっ、幹部様じゃねぇか」
モーゼスが嫌そうな顔を見せる。
俺は警戒を怠らないまま、モーゼスに問う。
「知ってるのか?」
「こやつ本人はしらねぇが暗殺教団の幹部は全員、花の名前を頂くらしい」
「博識ですね。それ以上うちの情報は何を?場合によっては殺さなければいけなくなってしまう」
「喋れば殺さないって言うのかよ?」
「はい」
モーゼスは眉間に皺を寄せて険しい顔になる。
確かに聞いていた話とは違う。
どういうつもりだ?
シルエットは腰に手を当ててやれやれといった素振りをする。
「うちらが無差別殺人者だと思いましたか?」
「違ぇのか?金を貰えば誰でも殺すだろ?」
「やだなー、軍人じゃあるまいし」
シルエットの発言にモーゼスが苛立ちを見せる。
シルエットがそれを黙って見つめる。
モーゼスは我慢できずに口を開く。
買い言葉に売り言葉だ。
「ふざけんな!!俺達は!」
「信念がある?ポリシーがある?仲間の為?国家の為?忠義の為?我々は違うと?」
「くっ!」
「同じ悪同士、仲良くしましょうよ」
モーゼスは我慢出来ずに前蹴りをシルエットの腹部に向けて放った。
その蹴りがシルエットに直撃すると思われた瞬間、シルエットが黒い霧状に変化し、攻撃を躱す。
「ハハハ。青い、青いな!坊」
「誰を坊や呼ばわりしてんだ、てめぇ!」
「もう良いってば。怒ってるフリは良いよ」
「そうか」
モーゼスはそういうと憤怒のから一層変わって普段の真面目な表情に戻る。
シルエット状に戻った男はその方が話しやすい、と頷く。
モーゼスはここが怖い。
歳を重ねて化け狸になったのだ。
「心理戦も無駄か」
「相手が悪いだけさ。大したもんだよ」
「後どれぐらいであんたみてぇな奴を騙せるんだ?」
「んー、私と同じぐらい歳を重ねたらチャンスあるかも?」
シルエットの男は笑いながら、その時は私はもっと先いってるけどねっと付け加える。
モーゼスが空を見上げてふーっと溜息を漏らす。
「ヨエルに関しては薄々気付いてはいたがよ、この場で俺が一番若いのか!」
「あれ、ヨエルも結構いってるんだね。まったくそうは見えないよ」
「美容オタクなんだ」
「お、今度使ってる美容液教えてよ」
「おう、じじい共、盛り上がるな」
じじいはお前だろ、モーゼスよ。
「失礼、久々の馬鹿、じゃなくてお客さんで盛り上がってしまった」
「馬鹿って言ったか?オイ」
「そりゃあ、暗殺教団の本部に四人で突っ込むのは馬鹿でしょう。私ならしませんよ」
「全員バレてるのか」
「さぁ、本題に戻りましょう!」
シルエットは仰々しく両手を開いて俺達に向けて言い放つ。
「交渉の時間です。私が無礼な客である貴方達四名を殺さないメリットを教えて貰いましょか?」




