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8 空の旅

『人と空。空を飛ぶのは常に人の憧れだ。

その昔、空を飛ぼうと蝋の翼でそれを試みた者もいたがあまり良い結果にはならなかった。

そこで人類は蝋の代わりに機械の翼を採用した訳だ』



俺とモーゼスは店内に戻った。

モーゼスは先程のバーテンダーに一言、二言を告げるとバーテンダーはモーゼスに向かい敬礼を行う。

その後、俺達は建物屋上へ向かう事にした。

そこには一つのヘリコプターが止まっていた。

それは2対のプロペラが付いた大型の輸送用ヘリだった。

黒で統一されたそれは、夜の空に良く馴染むだろう。

しかし、通常の輸送用ヘリにはない装備もいくつか見て取れた。

あの搭載されたガトリングガンや、何を想定しているのかは分からないが、ミサイルまで揃えている。



「世話になるぞ、リトル·ファルコン」

「これの何処がリトルなんだ大佐」

「グレートはもういるからな」



モーゼスは歯を見せて豪快に笑う。

奇襲には少し過剰だが、これならスムーズかもしれないな。

俺とモーゼスはヘリコプターに乗り込むと、続けて先程のバーテンダーが着替えを済ませて運転席に乗り込む。

店内の彼とは打って変わって、そこにはモーゼスと同じく、これぞ軍人という雰囲気を醸し出していた。

年齢は三十代ぐらいだろう。

身長は俺よりは高いが、モーゼス程じゃない。

黒い髪は短く切り揃えており、爽やかな雰囲気だ。

細身でありながら、引き締まった肉体をしており、良く鍛えられている事が分かる。

そして、その顔は日に焼けており、中東地方の出だと言う事が分かる特徴をしていた。

つまりは、俺と同郷だと言うことだ。



「再び大佐と任務に就ける事を嬉しく思います!」



バーテンダーが振り向きモーゼスに声を掛ける。

それに大佐はおう、と応える。

モーゼスは俺の肩に手をかけるとバーテンダーの男に向かって口を開く。



「少佐。その忠義以上の宝物は見たことがない!」

「勿体なき御言葉であります!」

「それに今回の任務は少佐にも俺にも名誉な戦いになる。ここに居る男は先の大戦でも活躍した男だ」

「え、彼ですか?」



少佐と呼ばれた男は目を丸くする。

まぁ、俺は軍人には見えないだろうし、実際の所違うからな。



「なんだ?あまり強そうには見えないか?」

「いえ、そういう訳ではありません。ただ、その⋯」

「ハッキリと言いたまえ、少佐」

「その、どう見ても歳が自分と同じぐらいか、少し上ぐらいにしか見えませんが⋯」



モーゼスの言う先の大戦はもう何十年前の話だ。

年齢的には少佐と呼ばれる男はまだ思春期も迎えていない時期だろう。

俺は適当にはぐらかす。



「気にするな、俺は若作りだ」

「ハハハ!実の所、俺もヨエルの歳を知らない」

「充分生きている、とだけ言っておこう」



少佐は姿勢を正し、俺に向かって敬礼を行う。



「詮索失礼しました!二人の英雄と共に戦える事、嬉しく存じます!」

「俺は軍人じゃない。敬礼や作法は必要ない、楽に接してくれ」

「いえ!出来かねます!」



男は姿勢を崩そうとはしない。

どうやら真面目な男の様だ。

多少お硬いが、印象は悪くない。



「済まないな、ヨエル。彼の性分だ」

「ああ、気にしないさ。運転をよろしく頼む」

「はい!迅速に輸送します!」



少佐はそう言うとヘリコプターを起動させる。

プロペラが回り出すとあっという間に俺達は空へ浮かび上がる。

街のネオンが小さくなっていく。

今は星々の光と月が俺達の行く末をエスコートしてくれる。

森はここからはそう遠くない。

道中、俺はモーゼスと作戦を再確認する。

少佐と呼ばれた男は口は挟まないが、俺達の話に注意を向けている。

数十分も飛んでいると森が見えてくる。



「大佐、もうすぐ森の上空です」

「うむ、御苦労!快適な旅だった、眠ってしまうかと思ったぞ!」

「いえいえ、自分の数少ない取り柄ですから」

「相変わらず謙虚だな、少佐」



このヘリコプターの性能もあるだろう。

しかし少佐の操縦は素晴らしかった。

きっと敵も俺達には気付いていないだろう。

彼は恐らくモーゼスが選んだ選りすぐりなのだろう。



「それでは大佐、ヨエル殿、ご武運を!何があれば後方射撃で援護致します!」

「おう!ヨエル、こやつの射撃は凄いぞ」

「いえ、自分なんかまだまだです!」

「何を言う!初めて少佐の射撃の腕を見た時、俺は肝を抜かれたぞ!針の穴さえも少佐からしたら広すぎる的であろうな」

「大袈裟ですよ!」



謙虚な姿勢は崩さないが少佐の目は自信に満ち溢れていた。

実際に見た訳ではないが、噂では、戦場の魔術師は魔弾の射手を飼っていると言われている。

それが、この少佐の事だろう。

モーゼスの言う事は誇張ではないと俺は確信する。



「それでは良き戦いを!」



少佐の激励と共に俺達は空中へ躍り出た。

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