8 空の旅
『人と空。空を飛ぶのは常に人の憧れだ。その昔、空を飛ぼうと蝋の翼でそれを試みた者もいたがあまり良い結果にはならなかった。そこで人類は蝋の代わりに機械の翼を採用した訳だ』
俺とモーゼスは店内に戻った。
モーゼスは先程のバーテンダーに一言、二言を告げるとバーテンダーはモーゼスに向かい敬礼を行う。
その後俺達は建物屋上へ向かった。
そこには一つのヘリコプターが止まっていた。
それは2対のプロペラが付いた大型の輸送用ヘリだった。
黒で統一されたそれは夜の空に良く馴染むだろう。
搭載されたガトリングガンも充分な火力があるのが見て取れる。
「世話になるぞ、リトル·ファルコン」
「これの何処がリトルなんだ大佐」
「グレートはもういるからな」
モーゼスは景気よく笑う。
確かにこれなら奇襲に向いてるかもしれないな。
俺とモーゼスはヘリコプターに乗り込むと、続けて先程のバーテンダーが着替えを済ませて運転席に乗り込む。
「再び大佐と任務に就ける事を嬉しく思います!」
バーテンダーが振り向きモーゼスに声を掛ける。
それに大佐はうむ、と応える。
モーゼスは俺の肩に手をかけるとバーテンダーの男に向かって口を開く。
「少佐。その忠義以上の宝物は見たことがない!」
「勿体なき御言葉であります!」
「それに今回の任務は少佐にも俺にも名誉な戦いになる。ここに居る男は先の大戦でも活躍した男だ」
「え、彼ですか?」
少佐と呼ばれた男は目を丸くする。
まぁ、俺は軍人には見えないだろうし、実際の所違うからな。
「なんだ?あまり強そうには見えないか?」
「いえ、そういう訳ではありません。ただ、その⋯」
「ハッキリと言い給え」
「その、どう見ても歳が自分と同じぐらいか、少し上ぐらいにしか見えませんが⋯」
モーゼスの言う先の大戦はもう何十年前の話だ。
年齢的には少佐と呼ばれる男はまだ思春期も迎えてないだろう。
「気にするな、俺は若作りだ」
「ハハハ!実の所、俺もヨエルの歳を知らない!」
「充分生きている、とだけ言っておこう」
少佐の男は姿勢を正し、俺に向かって敬礼を行う。
「詮索失礼しました!二人の英雄と共に戦える事、嬉しく存じます!」
「俺に敬礼や作法は必要ない、楽に接してくれ」
「いえ!出来かねます!」
男は姿勢を崩そうとはしない。
どうやら真面目な男の様だ。
多少お硬いが印象は悪くない。
「ハハハ!彼の性分だ」
「ああ、気にしないさ。運転をよろしく頼む」
「はい!迅速に輸送します!」
少佐はそう言うとヘリコプターを起動させる。
プロペラが回り出すとあっという間に俺達は空へ浮かび上がる。
街のネオンが小さくなっていく。
今は星々の光が俺達の行く末を示してくれる。
「大佐。もうすぐ森の上空です!」
「うむ、御苦労!快適な旅だった、眠ってしまうかと思ったぞ!」
「自分の唯一の取り柄ですから!」
「相変わらず謙虚であるな!」
このヘリコプターの性能もあるだろう。
しかし男の操縦は素晴らしかった。
きっと敵も俺達には気付いていないだろう。
彼は恐らくモーゼスが選んだ選りすぐりなのだろう。
「それでは大佐、ヨエル殿、ご武運を!何があれば後方射撃で援護致します!」
「おう!ヨエル、こやつの射撃は凄いぞ!」
「いえ、自分なんかまだまだです!」
「何を言う!初めて少佐の射撃の腕を見た時、俺は肝を抜かれたぞ!針の穴さえも少佐からしたら広すぎる的であろう!」
「大袈裟ですよ!」
謙虚な姿勢は崩さないが少佐の目は自信に満ち溢れていた。
モーゼスの言う事は誇張ではないだろう。
「それでは良き戦いを!」
少佐の激励と共に俺達は空中へ躍り出た。




