7 機械馬
『東洋の国では物に魂が宿るという。それはパイプかもしれないし、鉄と油で出来た機械かもしれない。
それらに魂が宿るとそれは持ち主と一体化し、あらゆる期待に応えるようになる。それには真摯に向き合い、対話をする心が大事だ』
「それでは私はこのまま暗殺協会本部の森の方へ向かいます!」
店の外に出るとエコーはズボンから取り出した小さなリモコンらしき物のスイッチを押す。
暫く待つと遠くから唸るような、馬の嘶きにも似たエンジン音がこちらに徐々に近付いてくる。
音は徐々に大きくなる。
その馬は己の持ち主の元へと速やかに近付くと停止する。
それは、馬ではなく、バイクだった。
脚代わりに二つのホイールは赤く発光しており、その漆黒のボディーは対照的にマッドな加工をされていた。
一般的に流通している既存品のバイクではない。
いや、恐らく、元はそうだったのだろう。
しかし、エコーの度重なる改造により、それは既に変貌を遂げていた。
エコーの様な体躯の女性が乗るにはいささか大き過ぎるそのバイクは一際高くアクセル音を空吹かしさせる。
まるで意図を持っているかのようだ。
「ほう、これは良いバイクだ!エンジンは?制御システムは?」
「特殊直列6気筒、ライダーの脳内パルスによる同調システムと補助電子制御です!」
「良いチョイスだ。僅かに魔力を感じるが、これは魔石を原力、いや、これはコンピュータの役割をしているのか?」
「流石ですね!精霊馬の加護を込めた宝石を組み込んでおります!」
「ほうほう。実に興味深い!これだけの化物だ、冷却システムはどうなっている?冷却水はやはり特殊なのだろう?」
「あー、大佐そこまでにしてくれ」
俺はモーゼスとエコーの話を遮る。
このままでは恐らく、夜が明けるまで語り合ってしまうだろう。
エコーもモーゼスも少し残念な表情を俺に向けるが俺はそれを無視する事にした。
終わってから充分に語り合えば良いさ。
エコーは会話を名残惜しそうにバイクに跨るとこちら出発の準備を整える。
「それでは行ってきます!ハイヨー!」
「ああ。気をつけてな」
彼女がアクセルを捻るとエンジンがそれに応えるようにエンジンを震わせる。
その力強さに周囲の空気さえ震えてしまうじゃないかと錯覚を覚えてしまう程だ。
一際、大きなエンジン音が鳴ると彼女は俺達の眼の前から消える。
異常な加速を行った彼女のバイクのホイールの赤く発光する光は一つのラインの残像となって残るほどだ。
「なぁ、ヨエル。彼女は大丈夫だろうか?」
「なんだ?心配か大佐」
「森の部族の強さは充分な程理解している」
「それでは?」
「彼女は若い。相手は普段狩っている獣とは違う。生身の人間だ」
「精神的負担か」
「そうだ。森の部族は無駄な殺生を好まん。しかし、今回の相手を生かして捕らえるのは困難だろう」
モーゼスはエコーに殺人をして欲しくない。
それは俺も同意見だ。
しかし今回の相手は明確な殺意を持っ俺らを仕留めようとするだろう。
「エコーの腕ならば殺す事なく捕獲出来るはずだ」
「捕獲された時点で奴らは自害をする」
モーゼスはハッキリとそう断言する。
彼らの通った道も行く道も死以外の結末はないと。
「間接的とはいえ、お嬢ちゃんは人を死なせる事になる」
「ふむ」
「そこで、だ。俺達で本部から一人の敵も残らず討ち取る事にする」
「彼女に参加させないと?」
「誠に残念だが今回での戦いではお嬢ちゃんはベンチ入りだ」
確かにそれが理想だ。
元といえば、彼女は俺が頼んで付いてきて貰ってるだけだ。
彼女の手は殺す為ではなく、何かを生み出す為であって欲しい。
「血で汚れる手は俺一人ので、もう充分だろう」
モーゼスの目には強い覚悟が見て取れた。
負の連鎖を終わらせる為に先の大戦に参加したからなとモーゼスは言う。
そうだな。
若い世代にはもう必要のない事だろう。




