6 戦支度
『パイプの煙。現代ではあまり嗜む者も減ってしまったパイプだが、昔では儀式的に使われる事があった。例えば、南米大陸のとある地域で盛んなその宗教ではパイプを聖なる物として扱い、煙草の葉と共に調合されたハーブを使い、煙を通して自分の意思を実現化させるものもある。煙とは意思疎通のツールでもあるのだ』
「では任務遂行は今夜!それでは諸君!戦だ!」
モーゼスがバーテンダーの男で目を合図を送る。
バーテンダーの男が後ろの棚から古い一本の酒瓶を取り出し、二つのショットグラスと一つのロックグラスに酒を注ぐ。
モーゼスはロックグラスの酒を一気に喉奥へ流し込む。
俺もそれに習ってショットグラスの酒を一息に飲む。
古い酒だが悪くはないな。
エコーは一口飲んでは苦い顔をする。
「なんだい、お嬢ちゃん。酒は苦手か?」
「うーあまり得意じゃないですね!」
「森の翁の直系が酒を飲めないとな!これは意外!」
「大丈夫です!」
エコーがショットグラスに入っていた残りの酒を飲み干す。
しかし、慣れていないのがむせてしまっている。
それを見たモーゼスが大笑いする。
「これ、無理をするでない」
「だ、大丈夫です!」
「さすが森の部族!根性がある!」
「大佐、程々にしてやれ」
俺はエコーからグラスを取り上げる。
モーゼスはバーテンダーに葉巻を注文するが、エコーがそれを制止する。
彼女は荷物から小包を取り出すとその中から一本のパイプを取り出す。
それは意匠を凝らした立派なパイプだった。
続けて紐状になっている乾いた黒い煙草の葉をほぐすとパイプに詰め始める。
それに火を付け、一息吸い込み、煙と一緒に吹き出す。
一息吸ったパイプを今度はモーゼスに渡す。
「ほう!森の部族の部族の儀であるか!これは大変な名誉である!」
「煙を通して先祖にお願いをしてください!」
「了解した!我がご先祖達よ!今宵の戦いでは手出し無用!ただこの子孫めの武勇をご照覧あれ!」
「アハハ!」
モーゼスの願いにもなっていない宣言にエコーは笑い出す。
モーゼスがパイプをさらにもう一度吹かす。
「我が魔術の祖よ!師達よ!道を究めんとするこの探求者のメンター達よ!この俺に魔術とはなんたるかをご教示ください!さすれば俺は敵に魔術とはなんたるかを見せてやろうぞ!」
勇ましいな。
僅かにモーゼスの纏う魔力とも呼べるものか高まっていくのを感じる。
エコーもそれを感じ取ったのか目を輝かせている。
モーゼスは口上を終えると俺にパイプを渡す。
「主よ、ご加護を」
俺は手短に祈りを捧げる。
俺がパイプをエコーに渡すと彼女は店のドアまで行き、歌を歌う。
「誰も私を煙に巻くことは出来ない!
煙の知恵は我が手に!
母から頂いたこのパイプには母の知恵と力が詰まっている!
その母の更に母!更にその母からの知恵がある!
私は一人でにこの世に来たわけではない!
去るその時まで守護者たる母達が私のそばにおられる!
この煙と共に!」
エコーは火口の方に口をあてがうと息を吹き込む。
煙が吸い口を通って店の外へ流れ出る。
煙の行方を見守るとエコーが俺達の元へ戻ってくる。
「母の護りか。通りで森の部族は手強いわけだ!」
「母は強し、です!」
「違いない!」
実際に母からのご加護は強い。
とある民族では母親以外は子の頭に触ってはいけないとされる程だ。
それだけ母親との繋がりを重要視しているのだ。
「さぁ!戦支度は万全です!」
「では行くぞ!」
作戦実行だ。




