5 鼓舞
『士気は大事なものだ。
いくら戦力があってもやる気が大事だ。
根性論に思えるがそうなのだからしょうがない。敵と合う前から戦は始まっているのだ。
それを知っているから大佐は数々の戦いに勝ち続けたのである。
戦とは何処まで行っても人と人の戦いだ。
相手に勝つ前に己に打ち勝たなければいけないのである』
決してこの二人の煽りに乗ったわけではない。
しかしこの強引な二人に意見をした所で、どうせ通じないだろう。
ならば、せめて作戦をしっかり練るとしよう。
モーゼスとエコーは俺を説得出来たと思ったのか、気を良くする。
「補佐官殿は話が通じて助かる」
「はい!ヨエルは単純ですね!」
「もう分かったから話を勧めてくれ」
二人の茶化しを無視する。
しかし、モーゼスが仕掛けたこの茶番には意味がある。
恐らく、重圧を逃す為のものだろう。
なにせ、相手は伝説の暗殺部隊だからな。
しかし、俺にはそんなものは必要ない。
俺はモーゼスに注意事項を告げる。
「大佐も知っての通り、俺は人とは戦えない」
「問題なし。ヨエルの補佐は充分に戦力になる」
「そうか。それで?俺はどちらを補佐すれば?」
「俺の方をサポートして頂こうか」
これは意外だ。
この超人なら一人でも難なく任務を遂行できるはずだ。
その意図も分からないまま、モーゼスは作戦会議を続ける。
「俺の情報では、アサシン共は山に本部を構えている。お嬢ちゃんには周囲の山で張ってもらう」
「了解です!」
「よろしい。では、噂のメカビーストの性能を充分に見せてもらおう」
モーゼスの言葉を聞いた途端、エコーの顔から表情が消える。
エコーの眼は鋭く、モーゼスを見つめている。
急いで、再度、笑みを浮かべるが、眼が笑ってない。
それに対して、モーゼスは余裕の表情だ。
「何処で私のメカビーストの話を?」
「おっと。そんな眼を向けないでくれ。俺は地獄耳なんだ」
「耳が遠くなってるんじゃないんですか?」
「お、そうだったな」
モーゼスは更に笑みを深める。
相変わらず、凄いな。
その情報収集もそうだが、心理戦も上手い。
エコーを完全に手玉に取っている。
これは年の功というやつだろう。
「そう構えるな、変な意図はない。
エコーの名声は遠くまで届いている。それこそ木霊のようにな」
「そうですか」
「なんだ?手の内がバレて不安か?」
「一応、狩人なのでね。貼る罠を知られる訳にはいかない。鉄則です」
「ふん、青いな」
エコーの表情が少し険しくなる。
もう取ってつけたような笑みを浮かべてはいなかった。
先程までの談笑の余韻は消え失せ、エコーは目前の老人の脅威度を図ろうとし始めたのだ。
しかし、モーゼスはそんな彼女を笑い飛ばす。
「お嬢ちゃん。笑みを忘れちゃいかんよ。常に笑いたまえ。自分の手の内がバレた?そんなもの、遅かれ早かれ、バレるもんだろ」
「強者の常だな」
「然り。其の上で相手を打ち負かすのが策略である!強さである!」
俺はモーゼスの意見に同意する。
勝ち続ければ、名が上がる。
自然と相手に自分の情報が流れてしまう。
再度、言おう。
強者の常だ。
エコーは黙って話を聞き受け入れる。
彼女は立派な狩人で戦士だ、
だが、まだ若い。
歳を重ねる事で得られる精神的な強さが足りていない。
「打ち負かす、ですか」
「応とも!是非、全盛期のグレートファルコンを見せてあげたかった!」
「お祖父ちゃんですか?」
「ああ!まさに偉大な戦士!偉大な鷹!決して動じない!あれこそ空と地の間に生きる王なる獣ぞ!」
モーゼスの口調はいつもの落ち着いた紳士的な態度をやめ、高揚を付け、荒々しいものに変化し始める。
彼は今、エコーの魂に語りかけ始めたのだ。
エコーの表情が警戒から徐々に薄れ始め、同事にそれは高揚に満ちたものに変わっていく。
モーゼスの鼓舞が効いている。
流石は大佐だ。
「先の大戦では森の翁と相対すると聞いた時には、流石の俺も震え上がったものだ!」
「お祖父ちゃんはそんなに凄いんですか!」
「翁だけじゃないぞ!森の部族は、誰もが、例外なく、屈強な戦士達だった!」
「はい!そうです!最強です!」
「今回の任務で森の部族と共にすることは戦士としての誉である!」
「お、おおっ!うおおお!!!」
エコーが遂にはウォークライを上げる。
もう士気は充分に上がっている。
伊達に大佐の称号を頂いている訳ではない。
悪魔じみたチャームだ。
モーゼスは最後の仕上げにかかる。
「森はお嬢ちゃんの一存に任せる!俺の出る幕ではないだろう!存分に暴れたまえ!」
「はい!任せて下さい!」
「ククッ、ガハハハ!森、戦場のプロに加え、かの高名な補佐官殿まで相手するのか?流石に敵方が可哀想ではないか!」
「はい!可哀想です!」
「よろしい!作戦を変更する!これは蹂躙である!」
「アイアイサー!」
これで終いだ。
暫くの間ではあるが、エコーはモーゼスの手腕により、恐れ知らずの戦士となった。
鼓舞はいい。
しかし、うら若き娘に変な影響を与えないで頂きたい、大佐よ。




