4 作戦会議
『策略。あるいは、戦略。
それは自分が有利になるための手段だ。
自分の立ち回りで相手の動きを誘導、もしくは制御させる。
これは戦に限った話ではない。
この世は常にあらゆる陰謀と思惑で溢れている。そして人は意識的に、又は、無意識的に計算で動く生き物だ。
社会で生きる以上は必要な要素なのかもしれないな』
モーゼスは相手の生態を考慮した上で俺達に言う。
「相手が暗殺は生業としている。待ち構えるのは悪手だ」
「そうだな。相手の土俵で戦うのは避けたい」
「故に奇襲攻撃を提案したい」
モーゼスは策略家だ。
強引な部分が目立つが、それでも間違ってはいない。
しかし、それでも難しい事には変わらない。
エコーがモーゼスの作戦に異を唱える。
それには俺も同意見だ。
「はい!無謀だと思います!」
「ああ。俺も同意見だ」
エコーもこの作戦、いや作戦と呼べるかどうかも怪しいが、それにはっきりと、難を示す。
暗殺者を相手と同じやり方で攻めようというのだ。
相手も予想外ではあっても、それを想定していない事はないだろう。
モーゼスは己の意見を通す為なのか、挑発を仕掛ける。
「なんだ?森の部族は勇敢だと思っていたんだがな」
「はい!その手には掛かりませんよ!」
モーゼスがエコーを焚き付ける発言をする。
しかしエコーも馬鹿ではない。
あまり彼女を唯の子娘と思って舐めない方が良い。
モーゼスは彼女に意見を求める。
「それではお嬢ちゃんはどう動くのかベストだと思う?」
「相手の本部は侵入者を排除する為の防衛策が張られている筈です!」
「そうだろうな。城攻めは何時だって、容易ではない」
「罠を逆に利用出来ないものかと提案をします!」
「説明をしてくれ、お嬢ちゃん」
「私たちは狩人です!狩りを行うのです!狩りは相手の習性を利用するものです!」
「ほう」
モーゼスがエコーに関心を見せる。
森の部族が狩りを行うと言っているのだ。
それなら、是非にその高名な狩りの手腕を見てみたいのだろう。
彼女は続ける。
「暗殺を行うならさせましょう!」
「お嬢ちゃん、正気か?」
「暗殺者は暗殺を行うものです!むしろ暗殺以外の手段に出られてこちらの想定を上回られては困ります!後手に回ってしまいます!」
「意見はもっともだがな」
相手が相手だ。
上手く立ち回らなければ、こちらの存在を相手に認知させてしまう。
そうなれば詰みだ。
彼らから逃れる事は不可能に近い。
モーゼスはエコーの作戦にも一理があると思ったのか、更に彼女に尋ねる。
「お嬢ちゃんの意見はよく理解できた。罠に掛けてどうする?尋問か?奴らはまず口を割らない。殺すか?」
「食べるわけでもないので無駄な殺生は嫌ですね!」
「ああ。殺す必要はないが、生かしておいては不安要素が残る。必ず報復をされるぞ」
「相手に復帰できない程度の深手を負ってもらいましょう!」
「ほう。それでどうする?」
「負傷者が増えれば、その分、相手の動きが鈍ります!そこで一網打尽にして叩きましょう!」
「理屈は正しい、戦略の心得があるな。しかし相手が悪い」
そう、相手は狂信者の集まりだ。
仲間の安否よりも自分たちの"聖戦"を優先するだろう。
エコーとは生命に対する物の捉え方が違う。
自分が聖なる使命とやらの足手まといになったと思ったなら、直ぐ様、自決をするだろう。
エコーはそんな集団に対して率直な感想を述べる。
「かなり狂っていますね!」
「そう言ってやるな、お嬢ちゃん。彼らからすれば当たり前の事だ」
「ぶっ飛んだ集団ですね!」
「ああ。中々そそるだろう?」
「では爺様が奇襲を行い、掻き乱し、出てきた者達を私が刈り取りましょう!」
「折衷案か。面白い!」
何処が面白いものか。
モーゼスとエコーの作戦が同調し始めてきた。
これは良い前兆ではない。
モーゼスとエコーは更に作戦を詰める。
そこで俺が待ったをかける為に口を挟む。
「戦力を分断してどうする?片方は虎の穴に入り、もう片方は手負いの獣を相手することになるぞ」
「ほー、お嬢ちゃん。どうやら補佐官殿はビビり上がってるご様子だ」
「はい!ヨエルはビビリ上がってますね!」
二人して俺を煽る。
俺は懐から新たに煙草をもう一本、取り出し、火を点ける。
肺に深く煙を吸い込む。
息を吹き出すと大量の煙が俺の体内から出てくる。
挑発なんかされても俺に意味はない。
しかし、早くこの茶番を終わらせたいのも事実だ。
「それで?俺はどちらの方に参加すれば良いんだ?」




