22 救われた魂
『俺は奇跡というやつを目のあたりにした。精霊がもたらす加護は強力だ。しかし、魂まで燃やし尽くす炎など想定外だろう。俺、クロ、シロの願いを偉大なるお方が聞いてくださったのだろうか?
勿論、それもあるだろう。だが、それだけじゃないだろう。恐らく、いや断言しよう。ジョセフという男の勇気、覚悟、そして慈愛が奇跡をもたらしたのだ』
「お前といると皺が増える一方だ」
「退屈するよりはマシだろ?ハハハ」
ジョセフは自分が何を行ったのか、いや何を成したのが分かっていないようだ。
怒りたい気持ちでいっぱいではあるが。
無粋な男にはなりたくない。
「貴方」
「クロさん。悪かったよ」
「ありがとう」
クロの言葉にジョセフは驚いだ様子を見せる。
クロは深々と頭を下げる。
ジョセフは慌てて頭を上げるように彼女に頼む。
「本当に…ありがとう」
「よしてくれよ。当たり前の事をしただけさ」
「当たり前?フフフ」
クロは思わず笑い出す。
ジョセフは何が可笑しいのか分かっていないようだ。
クロが彼に説明をする。
「貴方は二人の魂を守ったのよ」
「あの野郎はついでだけどな!」
「ええ。それで構わないわ」
素直な礼にジョセフはどうしたらいいか分からない様子だ。
どうした?色男よ。
洒落の効いた言葉でもかけてやらないのか?
「貴方は大旦那の本に出てくる騎士様みたいだったわ」
クロが悪戯な顔をしてジョセフの首に手を回す。
ジョセフは慌てふためいている。
なんだ?思ったより、女慣れしてないのか?
クククッ。
「是非に貴方の魂を戴いてしまいたいわ」
「ほら、何しているんだ?ジョセフ。ククク」
クロの悪ふざけに俺も加わる。
ジョセフが俺を睨むが無視をしよう。
心配を掛けられたお返しだ。
「でも、貴方はまだまだ生きる必要があるわ」
「ふぅ~。良かった!」
「残念だわ」
クロはジョセフのほっぺに口付けをしてから彼から離れる。
…本当に悪ふざけなんだな?
クロよ。
「これは時代が時代なら聖人認定だぞ。ジョセフ」
「死んでしまったら殉教者として私が世話をするわ」
「やめろ、クロ。縁起でもない」
ジョセフに事の偉大さを再度、説明をする。
しかし、やはりジョセフは分かっていないようだ。
クロの願い通り彼は無垢なんだろうな。
「女の子が困っていたら助けるまでさ」
「あの少女は声一つ上げてなかったぞ?」
「魂が泣いていたのさ。俺にははっきり聞こえたさ」
どうか、どうかお兄さんを救ってくださいってな。とジョセフが言う。
冗談っぽく言うが彼には本当に聞こえていたのだろう。
彼はまさに女性の守護者だ。
「しかしこの野郎は何を思ってあんな馬鹿な真似をしたのかねぇ?」
「あら?分からないの?貴方と一緒よ」
「おいおい、冗談はよせよ。クロさん」
「冗談じゃないわ。愛よ。愛ゆえの行動よ」
ジョセフはなんとも言えない顔をしてから倒れている道士の男を見る。
そうか。
クロの祈りはジョセフだけの為では無かったのか。
クロは道士の男の魂まで救おうとしたのだ。
「まるで聖母のようだな。クロよ」
「いいえ。私は犬で充分よ」
クロはくすくすと笑う。
ゲヘナの聖母か。
これが知り合いの坊主が言っていた地獄に仏というやつだろうか?
いや、多分違うだろう。
「魂達を救ってくれてありがとう」
「まぁ、どういたしましてよ」
「でも、残念ながらこの子達は助からないわ」
クロが告げる。
もう肉体は限界を超えていると。
「だけど魂が無事ならやり直せるわ」
「そっか…」
「落ち込まないで頂戴。私が面倒を見るわ」
「ああ。任せたよ、クロさん」
きっと大丈夫だろう。
クロはきっと約束を破ることはしないだろう。
そういう確信が俺にはあった。




