23 弔い
『ある所に一つの村があった。そこは道教の縁の地で後世でも名を残す道士達を生み出した地でもある。一人の若い青年がいた。希望に満ち溢れ、何よりも家族を大事にしていた。しかし、悲劇は起こる。彼が用事で村を離れた時の事であった。帰ってきた青年は絶望の深い闇に落とされたのだ。村は焼かれており、住人は全員、息絶えていたのである。青年は四肢の亡くなった我が妹を見つけると僅かな希望さえも奪われてしまった。泣き叫ぶ青年に一つの人影が近寄る。その影は青年にこう囁いた。
「可愛い坊や、人は死にゆく運命なのよ。大丈夫よ、さぁ、いらっしゃい。」
心を壊された青年は偽物であろうと目の前の希望にしがみつくしか無かった。しかし、青年は知らなかったその影が背負う髑髏の意味に』
「頼むよ、クロさん」
「ええ。貴方に誓うわ。心配は要らない」
ジョセフは帽子を取り、深く頭を下げる。
クロは少女の遺体の頭にそっと手をやる。
炎で焼かれたのか、少女の顔の札は取れていた。
その顔は何処か道士の男に似ている気がした。
「さぁ、もう苦しみは終わりよ」
少女の身体から何かが抜け落ちる気がした。
それはきっと大事ななにかだろう。
続けてクロは道士の男の方を見る。
「あら?」
道士の男は僅かだが息をしていた。
もう助からないとはいえあの炎に耐えるのか。
「父様…母様⋯メイメイ⋯」
もはや五感すら感じ無い男が最後に遺す言葉は家族への物であった。
「どうか…この馬鹿な息子を⋯叱ってください…我が妹よ…不出来な兄で…すまなかった…」
俺達は男の言葉を黙って聞き届ける。
「私には…もう…なにも…感じ無いのです…あの日から…あなた達を…亡くした…あの日から…もう…なにも…」
男は涙を流す。
しかし、それを責める者はいない。
「間違い…だらけ…でした…私が…あの日…村を…出なければ…」
男は心の内の悔いを吐き出す。
そんな男にジョセフは近付く。
焼け焦げた男の顔に自分の帽子を置く。
男の涙を隠すように。
「お前さんは充分頑張ったさ」
「うう…うっ…」
俺は祈りを捧げる。
彼の魂が少しでも早く救われるように。
「ああ…ようやく…見つけた…私の…家族…ようやく…私も…そちらに…向かいます…」
「ああ。行ってやりな」
道士の男は息絶えた。
ジョセフは帽子を拾い、被り直す。
そして、懐からスキットルを出すと一口呑んでから地面に残りを全部零す。
「人生に…長い戦いの人生の終焉に、乾杯」
ジョセフはそっと目を閉じる。
それにつられて俺達も目を閉じる。
しばらく経ってからジョセフが俺達に振り向き声を掛ける。
「クロさん、お願いしていいか?」
「ええ。これ以上ない弔いだったわ」
クロは倒れている男の頭に手をやり少女の時のように言葉を掛ける。
「さぁ。疲れたでしょう。行きましょう」
男の魂がこの世を去った。
俺はジョセフの肩に手をやり、言葉を掛ける。
「お前が友で良かった」
「なんだよ、急に」
「思った事を言っただけさ」
「小っ恥ずかしい事いうなよ」
せめてあの世で彼が家族と再会出来るように。
俺はそっと胸で十字を切った。
我が主が彼の願いを聞き届けてくれるように。




