21 聖なる炎
『人間は生まれた時から死にゆく運命。しかし魂は違う。魂は不滅だ。死後、どのような場所に行こうとも魂が消滅する事はない。真に永遠のものだ。』
道士とキョンシーの兄妹は黒い炎に包まれる。
クロが言う不浄の炎とは道士の男の言葉から察すると霊、すなわち魂まで跡形もなく燃やし尽くしてしまうらしい。
そんな禁術を一体どこで?
いや、そもそもそんな事が可能なのか?
許されるはずもない!
「やめろ!愚か者め!!」
俺は思わず怒鳴る。
ジョセフは突然の俺の怒鳴り声に驚く。
しかしそんな俺達をよそに黒い炎はますます大きく燃え盛る。
今では炎の大きさゆえ兄妹の姿はもう確認出来なかった。
「クロ!止めてくれ!」
「無理よ!私には権限がない!」
クロは悔しそうに答える。
くそ、人間の自由意志というやつか!
神はそんな事を望まれていない!
「シロちゃん、信じてるぜ!」
ジョセフが飛び出す。
俺は咄嗟に飛び出したジョセフを制止しようと腕を掴もうとする。
しかし彼の脚には追いつけるはずもない。
「ジョセフ!駄目だ!行くな!」
「ンザンビ!我が子に力を与えてくれ!」
ジョセフは黒い炎の中に包まれる。
俺は一瞬、身体から力が抜ける感覚に陥った。
しかし、なんとか弱気を振り切り、祈りを捧げる。
『悪しき竜が彼を導く事がないように。
聖なる十字が彼の導き手であるように。
悪が彼の檻の錠を破ろうとするだろう。
しかし、彼は檻の中から静かに微笑む。
何者も彼の護りを打ち砕く事はないのだから。』
いつの間にか人間の姿に戻ったクロも俺の隣に来て祈りを捧げる。
『ああ、哀れなる人の子よ。
人は無知により罪を犯す。
しかし、その無知は無垢なる故なのです。
無垢が故に罪を犯し、
そして無垢なる故に愛する事が出来るのです。
父よ、我が最愛の父よ。
どうか、我が子を責めないで下さい。
全ては全能なる愛の化身である貴方の写し身なるが故なのです。』
突如、コボルトのシロの声が高らかに響き渡る。
『私は貴方なのです。
貴方のまばゆい光が散らした欠片なのです。
貴方は私にその永遠の愛の炎を灯してくれたのです。
私は貴方の愛により生かされているのです。
その燃え盛る愛の炎を消せる者などいません。
故に私に恐れはありません。
その炎の光がどんなに強大な影を落としたとしても。』
気付けば俺は涙を落としていた。
しかし、それは落胆や絶望の涙ではない。
それはジョセフの中に神の存在を感じたからだ。
「戻ってこい!ジョセフ!」
俺が叫ぶと黒い炎の中から人影が出てくる。
ジョセフだ。
肩に道士の男、脇にはキョンシーの少女を担いでいた。
ジョセフは眩い光に包まれていた。
そして、顔にはいつもの笑みを浮かべていた。
「ふぅー。なんとかなったな!」
ジョセフは気楽に言う。
「正直よー、この野郎は置いていこうかと思ったぜ!」
「馬鹿野郎め」
「そんな怒るなよ。こいつを置いていたらメイメイちゃんが悲しむと思ってね」
「怒るのは後だ。無事に戻ってくれて嬉しい」
勇敢なのか無謀なのか。
どちらにせよ、無事でなによりだ。
「ほら!全然燃えてねぇ!帽子も焦げ一つないぜ!」
シロの声が再度、響き渡る。
『約束したでしょ!ハハハ!』
まったく、呑気な奴らだ。




