19 龍の咆哮
『竜、ドラゴン、はたまた前足のないワイバーンという種も四肢を持たぬワームという種も大きく捉えればそれに属するだろう。その中でも東洋の龍というのは翼がないのにも関わらず空を飛ぶらしい。いろんな種が存在するが一番の大きな共通点は人では決して太刀打ち出来ないまま蹂躙されるだろう、という事だ。科学の力でそれを再現しようとする人類は恐れを我が力として昇華出来うるだろうか?』
キョンシーの少女の物騒な両腕から死の咆哮が発射される。
恐らくレールガンというやつだろう。
しかし奇妙な事にその弾はうねりながら此方に向かって来ている。
科学と東洋の神秘の融合の成せる業だろうか?
音の速度を軽く超えているだろう。
「おい!何してやがる!避けろ!」
道士の男と交戦中のジョセフが叫ぶ。
避けるのはまず、不可能だ。
俺にお前と同じ脚でもなければな。
機械仕掛の龍、か。
迫りくる死を前に俺はしゃがみ、片手を地面にやり
心の中で喚起を行う。
『人の域で天に達した者よ。
恐れを知らぬ者よ。
その甲冑で我が身を護り給え。
その槍で我が敵を滅ぼし給え。
人が創り出した竜にどうして同じ人である貴方
が負けるだろうか?
同じ主を父とする我が兄弟よ。
貴方と等しく神の子である私に力を貸してくれ。
ああ、聖なるゲオルギウスよ。』
俺は強い意思を持って言葉にする。
「来たれ、竜殺しよ!」
その瞬間、全ての時が止まったようだった。
俺の身体は淡い光に包また。
その光は俺から恐怖心を取り除き、勇気を与えてくれる。
そして、ああ、心の中で彼の者の白馬の勇敢な鳴きが聞こえてくるようだ。
もう恐れるものは、ない。
俺は懐から新たな短剣を取り出し、うねり来る龍に投げる。
その瞬間、キョンシーの龍は塵の如く、霧散する。
「なんだと!」
ジョセフと交戦しながらもこちらの様子を伺っていた道士の男が信じられない様子で声を上げる。
「ありえねぇ!てめぇ、何をしやがった!」
男が怒り、叫ぶ。
目の前のキョンシーの少女は無反応の様子だ。
「西洋の神秘か!いや、それにしてもありえねぇ!」
「おう、余所見してる場合か?」
ジョセフの蹴りが男の頭の直撃する。
道士の男は凄い勢いで宙を舞う。
あれは、死んだかもしれないな。
「ヨエル!肝を冷やしたぞ!」
「そう怒るな」
「うるせぇ!」
ジョセフもどうやら気が気ではなかったようだ。
そう怒らないでくれ。
俺も余裕では無かったんだ。
「しかし、すげぇな」
「教えを請われても教えれないぞ?」
「ああ。どうせ俺には無理だろうしな」
「お前には弾除けの守りがあるだろう?」
「ハッ、一緒にしてくれるなよ」
俺はまだ立ち上がる事の出来ない男に目をやる。
うめき声を上げてる辺り死んではいないだろう。
さて、問題は目の前のキョンシーの少女だ。
彼女は未だに無反応で佇んでいる。
さて、どうしたものか。
「私に任せてくれるかしら?」
声を掛けられて振り向くとそこには墓場の黒犬の女、クロが立っていた。
「ああ、なんて可哀想な子かしら。」
クロはキョンシーの少女に見つめながら呟く。
「もう大丈夫よ。帰るべき所に帰りましょう」
クロは腰にぶら下げた小袋からサラサラとした粉を取り出すと自分の頭に振りかける。
あれは墓場の砂だろうか?
強力な魔術によく使われるものだ。
クロの身体が巨大な赤黒い炎に包まれる。
その炎の中から硫黄の匂いを伴った巨大な黒い犬が現れる。
「さぁ、私の元にいらっしゃい」
黒い犬が大きな顎を上げなからキョンシーの少女へ向かう。




