18 機械仕掛のキョンシー
『キョンシー。東洋のネクロマンシーだ。俺も詳しくは分からないがこの世を去った者の魂をその亡骸に戻す、あるいは封じ込める術だと推測される。死者の蘇生はザンビあるいはゾンビを始め、マミー、スケルトン等あらゆる地域で多く見られる。中には科学での復活、いや創造、錬成というべきだろうか?狂った科学者フランケンシュタインの"作品"も有名だろう。人は得てして死を受け入れる事に難を示すものだ。しかし、人の域を超えた行動は大抵は碌な事にはならないだろう』
「キョンシーというやつか?」
俺は道士の男の後ろに物言わずに佇む異形の少女を見ながら尋ねる。
「博識だな」
道士の男は少しの関心を見せたように思えた。
男はキョンシーの少女の後ろに下がり、こちらの様子を伺う。
「おう、ヨエル。いくら死者でも女性の相手は出来ねぇぞ」
「ああ。制約だろ?」
「まぁ、ポリシーでもあるけどな」
ジョセフはぶっきらぼうに告げる。
男はフンと鼻を鳴らすと小馬鹿にしたような態度を取る。
「随分と紳士だな。そんな余裕あるのか?」
「しょうがねぇよ」
「メイメイはそこらへんの女子とは思わない事だ」
「女性には変わらねぇよ」
女性に手を上げるぐらいなら死んだほうがマシだとジョセフは言う。
実際に制約もあるが、こういった美学、あるいは覚悟が人に強さをもたらす。
道士の男には理解出来ないようだ。
「キョンシーの相手は任せてくれ」
「いけるか?人と戦えねぇんだろ?」
「問題ない。アレはもう人じゃない」
俺がジョセフにそう告げると道士の男から殺意の籠もった視線を向けられる。
癇に障った様子だ。
「てめぇ…」
「死を操る事は外道のする事だ」
「そうか。もういい」
道士はこちらに向け、銃を構える。
もう会話をする気はないようだ。
俺は懐から先程と同じ様な短剣を取り出し構える。
「行け、メイメイ。蹂躙せよ」
キョンシーの少女は異常な速度でこちらに向けて、飛び出す。
彼女は機械仕掛けのアームをこちらに向けて槍のように突き出す。
俺はなんとか懐から短剣を取り出し、それを使って少女の攻撃を横に逸らす。
ジョセフはそれを横目で確認すると道士の男を目掛けて走り出す。
俺は大きく後ろに飛びながら短剣を少女に向けて投げる。
短剣は少女の腹部に刺さるが少女はなんてことないように再度、こちらに突進をしてくる。
「物理的攻撃は効果が薄いか」
俺は口に出して考えを整理する。
アンデッドに対しての対策を考える。
長々と祈りを唱えても良いが、異なる神の系譜ゆえ何処まで効果が現れるかは不明だ。
それに、そんな余裕も無さそうだ。
メイメイは後ろに大きく飛ぶと機械の両腕をこちらに向ける。
その機械の両腕の中で何か回転するような音がすると両の腕から紫色をした電気がバチバチと漏れ出す。
この段階では直感に頼る必要はない。
恐らく直撃されたら俺は消し飛ぶだろう。
こんな明確な死の音は他にあるだろうか?
キョンシーの少女が手を合わせると彼女の手が変形し、まるで大きな銃口の形を取る。
ここで初めて彼女の声を聞くことになる。
「雷龍準備完了、発」
キョンシーの少女の可愛らしい声とは裏腹に彼女の内に秘めた雷竜の咆哮は聞くものに恐れを抱かせるのであった。




