13 セメタリー
『煙草とは不思議なものだ。古の時代からハーブなどの植物やミルラなどの樹脂を焚いたものが儀式などに使われている。俺の知り合いにかつて山や森林を駆けていた民族の血を引く者がいるが彼らもパイプ煙草を用いる事がある。適切な方法で使用される煙草はその使用者の内なるものを増幅させる効果がある。
しかし誤った使用をすればその者はたちまちその魔力に魅入られる事になる。』
一服を終えた俺達は地下室を後にする。
俺はあの硫黄が気掛かりであることをジョセフに告げる。
彼はそれを聞くと真剣な表情をして胸の前で十字を切る。
「おっかねぇな。」
「杞憂なら良いんだがな」
「インフェルノの住人の相手なんかしたくねぇぞ!」
「同感だ」
地獄というのはその存在自体が人の本能的恐怖を刺激する。
特に信仰深い者ほどより強い恐れを抱く。
強い光がより濃い影の姿を見せるかのようだ。
皮肉なものだ。
「俺じゃなくてエクソシストの方が良かったんじゃねぇか?」
「大丈夫だ。マザーの采配だ」
「そうは言ってもなぁ」
彼の心配は良く分かる。
いくら神秘がより身近になった現代でも地獄やその住人達、彼らの言葉を借りればいわゆる"悪魔"達は
かのソロモンでもなければ対処は難しい。
「心配しなくでいい。彼らに対する手段には多少の心得がある」
「おいおい、マジかよ?」
「ああ。それに彼らにも制限がある」
「ほー」
まぁ、それでも人間相手には彼らの性質上よほどの事でもなければ遅れは取らないけどな。
俺はジョセフの肩に手をかけて彼に先を急ぐように促す。
俺達は一階の通路を素通りし、そのまま上階への続く階段に登る。
上階へたどり着くとジョセフが辺りを見回すと俺に対して問いかける。
「ここがレッドキャップと対峙した血の海か?」
「ああ」
「血の痕跡もなければ戦いの跡もないぞ?」
「ああ。もう一つ補足すると部屋そのものが違うな」
「おいおい、どうなってるんだよ」
もうこの洋館に対して驚く事はない。
ここはもう完全に異界に飲み込まれている。
確かな事などもはや何もないと思った方がいい。
俺達は奥に向かって足を進めることにした。
心なしか辺りの温度が下がっている気がする。
それでも構わず最奥にあるドアのノブに手をかけ開く。
ドアが開かれて見えてきた景色は外である。
それも洋館の裏庭の景色だ。
「俺らは上階にいたよな?」
「ああ、だがもう違う」
「俺はお前が今回の事件をどう記録するのが楽しみになってきたぞ」
「言ってくれるな。頭痛がしてきた所だ」
洋館の裏庭に墓地があり、そこにはいくつかの墓標が建てられていた。
墓地の奥の方には一際大きな墓がある。
洋館の主人の墓なのかもしれない。
ジョセフは墓地の敷地内に入る前に地面にしゃがむと手を使って地面に十字の形を象るように地面を叩いてから墓地に入った。
途端に何処からか犬の遠吠えが聞こえてくる。
遠吠えが止むと一つの墓の後ろから一人の若い女性が出てきた。
「おお、礼儀がなっているじゃないか」
彼女はにこやかにそう言ってお辞儀をする。
小麦色の肌に肩で綺麗に切り揃えた黒い髪に黒いドレス。
見た目は若く見える、20代ぐらいだろうか?
美しくはあるがその妖しく輝く赤い瞳が見る者に緊張感を持たせる。
香ってくるのは少しばかりの獣臭。
そして硫黄の匂いだ。
「魂達の寝床になにか御用かな?」
気前良く笑う彼女の口には立派な犬歯が姿を見せていた。




