14 犬と幼子
『古代では魂たちを見守る為に墓地を建てる際にその墓守となるように黒い犬が一番最初に埋められる事があった。犬からしたらたまったものではないだろうが、案外その仕事はしっかり全うしてくれるらしい。死者たちを慰め、見守り、その安眠を阻害する者を排除する。一見良き守護者に思われる彼らだがその業火の如く燃えたぎり赤い目と身に纏った硫黄の匂いから彼らの本質が見えてくるだろう』
彼女は俺達をじっと見つめている。
その赤い瞳はこちらの意図を探るかのようだ。
暫くの沈黙の後、彼女は微笑み、口を開く。
「心配しなくでいいわよ?魂達に敬意を払う者達にはこちらも変な真似はしないわ」
取り敢えず敵意は無さそうだ。
それを感じ取ったジョセフは何時もの調子を取り戻す。
「これは失礼、セニョリータ。貴女の余りの美しさに言葉を失ってしまったようだ。」
「あら、お上手ね」
ジョセフと彼女は楽しそうに笑いあう。
死者を口説くのはどうかと思うが、まぁ良いだろう。
俺からもいくつか聞いておきたいことがある。
「洋館の中に君の痕跡があった。洋館に入ったのか?」
「ええ。様子が気になってね」
「墓守の仕事の範疇では無さそうだが?」
「この墓地はここの住人だった者達の物。彼らの安眠の邪魔になる原因があるならそれを知っておきたいのよ」
なるほど。
彼女は自分の仕事を邪魔して欲しくないようだ。
いや、立派な忠犬なのかもしれないな。
「ゴブリン共の事か?」
「いや、妖精達は良いのよ。生前の住人達は妖精に好かれていたからね。」
「あの小さな騎士達は問題ではないと?」
それを聞くと彼女は可笑しそうに笑う。
「小さな騎士達?アハハハ!良いじゃないの!」
「あれは異常じゃないのか?」
「ここの大旦那は生前、騎士物語が大好きでね。コレクションが増えすぎて良く奥様に怒られていたわ」
「ではゴブリン達の出現はその大旦那とやらの不始末が原因という事か?」
「ええ。どうせ処分をするのが惜しくて書物を何処かに隠していたんでしょうね」
まったくと言った調子で彼女は呆れていたが何処か遠い日の事を思い出し、懐かしんでいる様子だった。
「では問題は侵入してきた人間達の方か?」
「そうよ。勝手に入ってきた挙句色々荒らしたじゃない?八つ裂きにしてやろうかと思ったけどシロが代わりにやってくれたからスッキリしたわ」
「シロ?あのコボルトの事か?」
彼女は侵入者達の事を思い出したのか獰猛な笑みを浮かべる。
そんな彼女の後ろから小さな女の子がひょこっと顔を出す。
「クロ姉〜お客さんが来たの?」
「あら、もう起きたの?ベティ」
その小さな女の子は綺麗なブラウンの髪をおさげにしており、フリルがあしらわれた質の良さそうなドレスを着ていた。
そしてその顔はあのコボルトと瓜二つだった。
「その顔…」
「もうシロには会ったようね?」
「なるほど。あの姿はこの子から借りたんだな」
妖精とは本来人間界では姿を持たないエネルギー体だ。
だから顕現をする際は召喚者の好みの姿、あるいは恐怖の対象の姿を取る。
あのコボルトは髪色や服装は違えとこの女の子の姿を映したようだ。
「あのコボルトとは知り合いか?」
「ええ。もう随分と長い仲だわ。私もあの子もベティが名付けてくれたわ。ほら、ベティ。お客様に挨拶なさい。」
小さな女の子がカーテシーをする。
隣のジョセフはそれに応え、帽子を脱ぎ、一礼をする。
「始めまして、お嬢さん。しかし俺にもこんなハッキリと霊が見えるとはな」
「彼女は幼くして旅立ったからね。子供霊は精霊に近いのよ」
「それは気の毒だな。今度お菓子のお供えを持ってくるよ。チョコレートでいいか?」
それを聞いてベティは大はしゃぎをする。
クロと呼ばれた女性はこら、はしたないわっと言いながらも優しく彼女の頭を撫でるのであった。




