11 遊び人
『ア・バオア・クーの件はこれで一件落着とみて良いだろう。しかしかの涅槃の塔の者を逆転させて召喚させるのは頂けないな。しかし、自己と向き合う時間とは何物にも代えがたいものだ。そのきっかけを与えてくれたあの愉快なメメント・モリ達にはぜひ直接会って礼を言わなければな』
俺は地下室を見回すと机の上に乱雑に置かれた数枚の紙切れを見つける。
どうやら誰かが急いで殴り書きをしたようだ。
数枚の紙には以下の物が書かれていた。
ーア・バオア・クーの伝承とその儀
ー(禁忌)逆転召喚の注意点
ータナトス?を称える讃美歌
など多種に渡るメモ書きだ。
その他にも色々書かれているが、よほど興奮したのか、後半に書かれたと思われるメモの字はとても読めるものではない。
これは召喚者が残したものだろう。
他には床に割れた薬品の瓶が数個落ちてるな。
これは恐らく変性意識に入るための物だと思われるが常人ならとても耐えられる量じゃない。
あの集団が短命主義と呼ばれるのも納得がいくな。
他になにかなにか残されていないか辺りを見回すと砂のようななにかを見つける。
手にとって調べてみると異臭が鼻につく。
…これは硫黄か?
しかしなにかが引っ掛かる。
コートの内ポケットからライダーを取り出しメモ紙に火をつけてからその火の上に硫黄を振りかける。
しかしメモ紙は燃え尽きても硫黄は燃えずに残っている。
ふむ、普通の火では燃えないか。
「■■■■■」
詠唱を唱えて指を鳴らす。
指から散る火花が硫黄に着くと硫黄が赤黒く燃え上がる。
普通の硫黄なら化学反応で青く燃えるはずだ。
そもそも普通の火で燃えない時点で察しがつく。
地獄の硫黄だ。
そしてこれは人が持ってこられる代物ではない。
つまり、だ。
地獄から来たものがいるという事だ。
そうなるとレッドキャップが可愛く思えてくるな。
この洋館はどこまで狂ってるんだ?
「おいおい、この洋館はどうなってるんだ?」
後ろから陽気な声が聞こえて俺は振り向く。
その男は満面の笑みを浮かべながらハットをすこし持ち上げ、会釈を行った。
黒い肌に黒のスーツ、そしてドレートマークの白いパナマハット。
神秘協会の狩人、対人のスペシャリスト。
そして我が友。
「遊び人ジョセフ」
「調子はどうだい?ヨエル」
彼がこちらに歩いてくるとキン、キンっと音が鳴り響く。
彼が持っている温かい人柄とは反面にその両の脚は血の通わない冷たい金属で出来ていた。
彼は俺に近づくと握手を求めるように手を差し出す。
俺はそれに快く答える。
「お前が来てくれて心強いよ」
「ハッ、マザーの頼みは断らないさ」
「道中は大丈夫だったか?」
「やたらゴブリンが多かったなぁ」
彼は笑みを浮かべてはいるが、少し困った様子だ。
それは無理もないだろう。
この環境に戸惑っているのだ。
ゴブリンを始めとする神秘達の事ではない、この街では珍しい事ではない。
「この洋館はタイムスリップでもしたのかよ?」
「ああ、電子器具の類が一切見受けられない」
「ハハハ!オレ達の先祖様はこんな不便な生活をしてたのかよ!」
「俺はレトロなのは嫌いじゃないぞ?」
「通りでマザーと気が合うわけだ!」
俺は談笑も程々に現状の報告をした。
数々の神秘達とその裏にあるものの事だ。
「ほー、あの死にたがり共の仕業か」
「そうだ」
「まぁ、任せとけよヨエル」
彼は笑いながらしっかり油も差してきたからよと言うと自分の脚にコンコンと叩いた。
俺は何故かその無機質な金属音に温かみを覚えるのであった。




