22 選択
『大多数の為に少数の者を犠牲にする。それは何時の時代も議論される命題だ。かの有名なトロッコ問題なんかもそうだ。命の重さは数なのか?犠牲というものは果たして本当に尊いのか?』
俺はサンの目をしっかりと見つめ彼に言う。
「馬鹿を言うな!」
俺は怒りを含ませながらそう言ったが、心の何処かでこんな良き兄弟に恵まれた事を嬉しく思ってしまっていた。
しかし、だからこそ、彼を道連れにしたくはなかった。
俺は彼に考えを改めるように説得を試みる。
しかし残念ながら俺達兄弟は似た者同士だ。
俺に劣らず強情な男だ。
「ハッハッハ!そもそも、だ。ヨエル一人で化身と渡り合えると思ってるのかい?」
「確かにかなり難しいだろうな」
「そうだろうとも!しかし、二人ならどうだ?」
確かに一人では相当に分が悪い。
そして俺はサンと一緒なら何だってやり遂げるという自信もあった。
けれど、自信が大事なわけじゃないんだ。
分かるだろう?兄弟よ。
「一人で済むならそれに越したことは無い」
「分かっていないな、兄弟」
サンは顔に纏った藍染の布を取り、俺に瓜二つな顔をさらけ出し、俺の額に己の額をコツンと当てる。
「一人なんだよ。俺と兄弟は二つで一つなんだよ。何時だってそうさ。これからもずっとね」
「…サン」
「ヨエルが死ねば、俺の心もその瞬間死ぬのさ」
ああ。
何故だ。
何故にこんな善良な我が兄弟を死に追いやろうとするのだ、我が主よ。
俺一人の命では足りないとおっしゃるのか?
俺はいつの間にか涙を流していた。
それを見るとサンも同様に涙を流しながら笑う。
「相変わらずだね、泣き虫ヨエル」
「嬉し涙だ」
死を目前に主はこれ以上ないほどの贈り物を下さったのだ。
それは愛。
紛うことない純粋な愛を我が兄弟が体現してくれる。
ありがとう、我が主よ。
そして申し訳ない。
俺はサンの首に手刀を当てて、彼を気絶させる。
「ぐっ!ヨ、エル…」
「大丈夫だ。愛しい兄弟よ。お前は俺より遥かに強い。何時だって俺がお前を見守ってる、我が主の隣でな」
サンは意識を無くし、力無く崩れ落ちる。
俺はそれを大事そうに抱えるとシノビの兄妹を招集させる。
「左近!右京!サンを…サンを頼むぞ!」
右近は痛恨の表情を浮かべるが、黙って頷き、サンを抱える。
右京は悔しさのあまりに涙を流しながらも右近に腕を引っ張られながら連れ去られる。
これで良い。
全てが、これで良いのだ。
こんな多くの友人達に恵まれたのだ。
死への恐れはあっても、悔いはない。
恐らく、いや、絶対に目覚め次第、サンは暴れ狂うだろうがそれは残ったもの達がきっと上手く対処してくれるだろう。
俺は化身と向き合う。
化身は無貌の頭をこちらに向ける。
その瞬間、俺は一瞬だが、この邪悪なる化身と心が通じ合った気がした。
それは深い孤独感だ。
「そうか。そうだったのか。心配するな俺も一緒に逝こう」
化身は今まで以上に激しく身体を揺さぶる。
慌てるなよ。
皆が避難し終わったら充分に語り合おうじゃないか。




