16 化身
『黄衣の王とは宇宙外の邪神のアバターの一つだ。外宇宙の存在は基本的に人類に対して関心をみせないが、こいつは例外だ。確かな意志を持って、いや悪意をもって干渉をしてくる。その道の学者が言うにはこの邪神はより大きな力の意志を体現したものだと言う。しかし、その学者達は例外なく精神を病んで狂うか、行方不明になる。人類が関わって良いものではないという事だ』
顔に出来た窪みは闇よりも更に深く、虚空を体現していた。
人間では真似出来ないほど首を捻り、こちらの様子を伺うその様は生物の持つ本能的恐怖を刺激するには充分だった。
化身のさらにその化身。
薄汚れた黄衣は一度見た者の脳裏から決して消すことの出来ない恐怖の記憶を残す。
なんらかの生物を真似たであろうその翼は肉々しく、決して飛ぶために生えたものではない。
その肉体は全て仮初めであり、紛い物である。
声を発するための声帯が備わっていないのか声を上げることはない。
肉と触手で出来ているその身体がミチミチと膨張と収縮を繰り返し、脈打つ音だけが耳に残る。
誰かがその様子をこう言い表したのを思い出す。
冒涜の権化。
それが眼の前にいるモノだ。
ゴブリンナイトがなんとか言葉を絞り出す。
「なんと禍々しい…」
しかし、その言葉に誰も相槌を打つことする叶わない。
戦慄するもの、思考停止するもの、吐き気を催すもの。
それぞれが目の前の存在を必死に否定しようする。
だが、眼の前の現実がそれを許さない。
他の巡礼者がこちらに向かってきているというのに誰も動けずにいた。
そんな俺達の様子を化身は首を左右に振り、嘲笑う。
取るに足らない、無力な人という存在を前に化身はなにもすること無く立っている。
それだけで充分だった。
そんな化身の後方から残りの巡礼者達が迫ってくる。
今、なにかの行動を起こさなければ、全てが終わる。
そんな直感をその場に居た誰もか感じた。
しかし、どうすればいいかは誰も答えを出せずにいた。
遂には右京が我慢しきれずにその場で嘔吐する。
その様子を見た化身は愉快に感じたのか、更に首を激しく振るう。
そんな我が妹を守ろうと左近が叫びながら化身に向かい、駆け出す。
その後をサン、ゴブリンナイトが追う。
化身はやっとか、といった様子で迎撃の為か既に人のものではなくなった触手と化した腕を広げる。
只々、必死に恐怖を振り切ってがむしゃらに突っ込む右京を守るためにゴブリンナイトが彼の前に立ち、バックラーで防御を試みる。
しかし、化身の触手の一振りで盾は破壊され、ゴブリンナイトは大きくふっ飛ばされる。
右京はその様子を見て、立ち止まってしまう。
そんな左近にサンが怒鳴る。
「止まるな!止まれば死ぬぞ!!」
その怒号に左近ははっと我に返るが、触手は既に目前まで迫っていた。
サンは素早く駆け寄り、高周波ブレードを持って、その触手を断つ。
そしてそのまま左近の腕を引っ張り、化身と距離を離す。
化身は痛覚をもっていないのか、触手を切断されてもなにも反応を示さない。
そうしている内に残りの巡礼者達が到着をする。
そして、この地は地獄と化したのであった。




