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黒崎が運転する車内。

街の灯りがフロントガラスを流れていく。

助手席には、西園寺麗華の姿となった大堂が腕を組み、窓の外を眺めていた。


突然、車内に着信音が鳴り響く。

黒崎はハンドルを握ったまま、ハンズフリーで通話に応じた。


「はい、黒崎です」


『黒崎』


聞き慣れた低く落ち着いた声だった。


『麗華が電話に出ないんだが、何かあったのか?』


麗華の父――西園寺家当主からの電話だった。


黒崎の表情がわずかに曇る。


「それは……」


返答に詰まった、その時だった。

電話の向こうから今度は優しい女性の声が聞こえてくる。


『黒崎。私たちはあなたを信頼して、麗華を任せているの。……その意味は分かるわよね?』

麗華の母だった。


「……はい」


黒崎は唇を噛み締める。


「承知しております、奥様」


しかし、その声には迷いが滲んでいた。

その様子を横目で見ていた大堂は、小さくため息をつく。


「貸せ」


小声でそう言うと、黒崎スマートフォンをひったくるように取った。


「っ…!」


黒崎が止める間もなく、大堂は口を開く。


「お、お母様!」


一瞬だけ言葉に詰まりながらも、お嬢様言葉を思い出すように続けた。


「わたくしは大丈夫ですわ!」


電話の向こうで母が安堵したように息をつく。


『麗華! 本当に無事なのね?』


「え、ええ!」


大堂は冷や汗を流しながら必死に取り繕う。


「ただ……少し、あれですわ!」


『あれ?』


「反抗期ですの!」


その言葉に黒崎がうなだれる。


「い、今は反抗したい年頃ですので!」


必死に言葉を繋ぐ。


「ですから、しばらく電話はかけてこないでほしいですわ!」


しばし沈黙が流れた。


やがて、麗華の母が優しく微笑むような声で言った。


『……そうなのね。分かったわ、麗華。

それもあなたが成長している証なのかもしれないわね。

でも、困ったことがあったら、必ず私に連絡すること、いいわね?』


「……はい、お母様」


『それじゃあ、またね』


通話は静かに切れた。

車内に静寂が戻る。

しばらくして、大堂はスマートフォンを黒崎へ返す。

そして大きく息を吐いた。


「……危ねぇ」


黒崎は受け取ったスマートフォンを見つめ、それから大堂へ視線を向けた。


「助かりました」

深々と頭を下げる。


「その話し方……お嬢様そのものでした。見事な演技です」


大堂は気まずそうに頭をかき、窓の外へ目を向ける。


「…バレなきゃいいが」


ぼそりと呟く。


「なんだかんだ言って、心配してくれる親がいるお嬢さんは幸せ者だ…。

親御さんの為にも、この身体に傷をつけるわけにはいかない…か」


そう言って、やれやれと肩をすくめ、大きくため息をついた。


黒崎はそんな大堂の言葉に、小さく微笑んだ。

敵だと思っていた男は、少なくとも今は――麗華を守るために動いている。

黒崎は、ほんの少しだけ大堂への見方を変え始めていた。



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