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大堂はしばらく黙っていたが、やがて観念したように口を開いた。
「いま……俺の組と、赤羽って野郎の組が揉めてる」
黒崎は黙って耳を傾ける。
「赤羽の組員どもが、こっちの組員を人質に取った」
大堂は悔しげに拳を握り締めた。
「奴らの要求は一つ」
低い声で続ける。
「赤いリボンをつけた黒猫、そいつを俺に直接持ってこさせることだ」
黒崎の表情が険しくなる。
「赤いリボンの黒猫!その猫は車にひかれそうになったのをお嬢様が助けて…!」
「俺が声をかける前に、そのお嬢様とやらにぶつかった…。で、その猫はどうした?」
「逃げて、どこかへいってしまいました…」
と黒崎がくやしそうに言った。
「…いまから探すにしても、もう時間がない」
大堂がため息をつく。
黒崎が深呼吸をし、話し始める。
「話がわかる相手であれば、黒猫のことは見逃してくれるかもしれません。
それで、赤羽とは、どのような人物なのですか?」
大堂は鼻で笑った。
「あいつは……頭のネジがほとんど全部吹っ飛んでるような男だ」
その一言だけで、危険さが伝わってくる。
「何を考えてるのか誰にも分からねぇ。気分次第で笑いながら人を拷問するような奴だ。
普通じゃない」
夕暮れの風が二人の間を吹き抜ける。
「時間が経てば経つほど、新垣が危ねぇ」
その言葉を聞いた瞬間、黒崎は迷うことなく大堂の腕を掴んだ。
「一緒に行きましょう」
「……は?」
「あなたのお仲間、なにより麗華お嬢様を今すぐ助けなくては!!!」
「おい、待て」
大堂が止める間もなく、黒崎は半ば強引に大堂を車の後部座席へ押し込む。
ドアを閉めると、自らも運転席へ滑り込んだ。
エンジンが低く唸りを上げる。
「赤羽のいる場所まで案内してください」
黒崎は真っ直ぐ前を見据えたまま言う。
「はやく!場所は!?」
大堂は小さくため息をつく。
「……本気か、お前」
返事の代わりに、黒崎は静かに頷いた。
その覚悟を見て、大堂は観念したように車載モニターへ手を伸ばす。
慣れた手つきで目的地を入力すると、地図に一つの場所が表示された。
「ここが奴の事務所だ」
ナビゲーションが目的地へのルートを示す。
黒崎は画面を一瞥すると、アクセルを強く踏み込んだ。
高級セダンは勢いよく発進し、タイヤがアスファルトを鳴らす。
信号も車の流れも構わず、黒崎はただ前だけを見据えてハンドルを握る。
――麗華お嬢様を必ず助ける。
その一心だけが、彼を突き動かしていた。
大堂はそんな黒崎を横目で見つめ、小さく苦笑する。
「……ヤクザが恐くねぇのかよ、お前」




