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「……どういうことですの?」
黒いスーツ姿の青年は、ゆっくりと身を起こし、痛む頭を押さえた。
「黒崎が、わたくしを抱きかかえて……!」
自分の声が低いことに驚く麗華。
ふと、夕暮れの坂道を見下ろす。
黒崎は気を失った自分を大切そうに抱え、車へ乗せていた。
「でも、わたくしは……今、ここにおりますわ」
混乱したまま一歩踏み出した、その時だった。
「……っ!!」
足元の水たまりに視線が吸い寄せられる。
そこに映っていたのは、長い黒髪の少女ではない。
短く整えられた黒髪。
鋭い眼差し。
頬に一本の傷が走る、見知らぬ美しい青年の顔。
「え……?」
震える手で自分の頬に触れる。
水面の男も同じように頬へ手を伸ばした。
「ま、まさか……」
喉が震える。
「わたくしが……この殿方に……」
信じられない現実を前に、麗華の思考は真っ白になった。
――わたくし、入れ替わってしまいましたの!?
その瞬間だった。
ブブブッ――。
スーツの内ポケットから振動音が響く。
「な、何ですの!?」
慌てて取り出すと、黒いスマートフォンの画面には着信が表示されている。
恐る恐る通話ボタンを押した。
「……も、もしもし?」
『若頭! 一体どこにいるんです!?』
耳をつんざくような低い男の声に、麗華は思わず肩を震わせる。
『あっ!』
電話の向こうの男が叫ぶ。
『いた! 若頭、そこにいた!!』
「え……?」
麗華がゆっくり振り返る。
そこには、二メートル近い大柄な男が立っていた。
鋭い目つきに刈り上げた髪。屈強な体つきは、近づくだけで圧倒されるほどの威圧感を放っている。
男は血相を変えて駆け寄ってきた。
「若頭! まさか階段から落ちたんですか!? お怪我はありませんか!?」
麗華が返事をする間もなく、男はその体を支えるように肩へ腕を回した。
「さあ、若頭! つかまってください!」
「っ……!」
突然の出来事に麗華は目を丸くする。
すぐに男の腕を振りほどき、数歩後ろへ下がった。
「お、お待ちなさい!」
凛とした声が夕暮れの街に響く。
「わたくしに気安く触れてはなりません!」
麗華は戸惑いと警戒を隠せないまま、大柄な男をまっすぐ見つめた。
男は目をぱちくりと瞬かせ、ぽかんと口を開ける。
「……若頭?」
いつもとはまるで違う物腰に、男は困惑を隠せずにいた。




