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「お嬢様ぁぁぁぁぁっ!!」
黒崎は石段の方へと駆け寄り、倒れ込んだ麗華のもとへ膝をついた。
「お嬢様、お嬢様!」
震える声で呼びかけながら、そっとその身体を抱き起こす。
幸い目立った外傷は見当たらない。しかし、麗華は固く目を閉じたまま、ぴくりとも動かなかった。
「……気を失われているのか」
黒崎の胸に不安が押し寄せる。
その時だった。
麗華の腕の中でじっとしていた首に赤いリボンをつけた黒猫が、小さく「ニャア」と鳴く。
次の瞬間、黒猫は軽やかに地面へ飛び降りると、路地の奥へと駆け去っていった。
黒崎は一瞬だけその姿を目で追ったが、すぐに意識を麗華へ戻す。
「お嬢様……」
一方、麗華をかばって階段を転げ落ちた黒いスーツの青年が、小さく息を吐きながらゆっくりと上体を起こした。
頬の傷が夕日に照らされる。
服には砂埃がついていたが、その表情に苦痛の色はほとんどない。
黒崎は麗華を抱えたまま青年へ向き直ると、深く頭を下げた。
「このたびは、お嬢様を助けていただき、誠にありがとうございました」
青年は何も答えず、ただ静かに黒崎を見つめる。
黒崎は胸元から一枚の名刺を取り出すと、青年の手へ半ば強引に握らせた。
「私は西園寺家の執事、黒崎と申します。本日のお礼は、必ず後日改めてさせていただきます」
青年は名刺に一瞬だけ視線を落としたものの、何も言わない。
その沈黙に構う余裕は、黒崎にはなかった。
「失礼いたします」
そう告げると、黒崎は気を失ったままの麗華を大切に抱き上げる。
まるで壊れ物を扱うように、その身体を腕の中へ収めると、急ぎ足で待たせていた車へ向かった。
後部座席へ麗華を静かに寝かせると、自らも運転席へ飛び乗る。
エンジンが唸りを上げ、高級セダンは夕暮れの街を走り去っていった。
その場に残された青年は困惑した顔をして、走り去る車を無言で見送る。
やがて手の中の名刺へ目を落とすと、小さく息をついた。
「……これは、夢…?」
その言葉を静かに口にした青年の瞳には、不安の色が滲んでいた。




