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床へ倒れていた赤羽が、小さく笑いながらゆっくりと立ち上がる。


「あらぁ……」


服についた埃を払うと、大堂へ向かって歩き出した。


「元に戻ったんなら、今度は正々堂々やり合えるわねぇ♡」


赤羽は妖しく笑う。


「一度、あんたと本気で喧嘩してみたかったのよ」


大堂は静かに立ち上がる。


「……望みどおり、相手してやる」


拳を強く握り締める。


「おらぁっ!」


気合いとともに拳を振り抜く。

その拳は赤羽の胸へ当たったにもかかわらず、赤羽の身体は微動だにしなかった。


「あら」


赤羽は首をかしげる。

大堂はもう一度拳を振るう。


「うおぉっ!」


二発、三発と打ち込む。

だが結果は同じだった。

赤羽は一歩も下がらない。

その様子を見ていた黒崎が思わず声を荒らげる。


「大堂!ふざけている場合ではありません!」


大堂は拳を下ろし、ゆっくりと膝をついた。


「……俺は、本気だ」


震える声で呟く。


「どうして……」


悔しさを押し殺すように床を叩く。


「毎日、鍛えているのに!!!」


その叫びは、幼い頃から抱え続けてきた無力感そのものだった。

赤羽はそんな大堂を見下ろし、小さくため息をつく。


「あんた……」


優しく言うような口調とは裏腹に、その目は鋭い。


「いままで本気で人を殴ったこと、ないんじゃないの?」


大堂は何も言い返せない。

赤羽は大堂の胸ぐらをつかみ、ぐいっと引き寄せた。


「しょうがないわねぇ」


口元に笑みを浮かべる。


「アタシがお手本を教えてあげる♡」


その瞬間だった。


「そこまでです」


黒崎の低い声が響く。

赤羽が振り向く間もなく、黒崎は赤羽の胸ぐらをつかみ上げる。

そのまま力任せに押し込み――


ドォオン!!!!


赤羽の身体は壁へ激しく叩きつけられた。

その衝撃で壁が大きく揺れる。

赤羽はそのまま力なく崩れ落ち、動かなくなった。


「赤羽さん!」


組員たちが慌てて駆け寄る。

黒崎は静かに組員たちに視線を向け、冷たい声で告げた。


「早く、その男を連れてこの場を去ってください」


組員たちは顔を見合わせる。

黒崎はさらに続ける。


「これ以上ここにいれば、本当に取り返しのつかないことになります」


その言葉には、脅しではなく忠告が込められていた。

組員たちは黙って頷く。

数人が気を失った赤羽を抱え上げ、別の組員は黒猫をそっと腕に抱いた。


「行くぞ!」


黒塗りの車へ乗り込むと、エンジン音を響かせながら倉庫を後にする。

その場には、黒崎、麗華、大堂、そして大堂組の仲間たちだけが残された。

長かった一夜が、ようやく終わりを迎えようとしていた。


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