24
床へ倒れていた赤羽が、小さく笑いながらゆっくりと立ち上がる。
「あらぁ……」
服についた埃を払うと、大堂へ向かって歩き出した。
「元に戻ったんなら、今度は正々堂々やり合えるわねぇ♡」
赤羽は妖しく笑う。
「一度、あんたと本気で喧嘩してみたかったのよ」
大堂は静かに立ち上がる。
「……望みどおり、相手してやる」
拳を強く握り締める。
「おらぁっ!」
気合いとともに拳を振り抜く。
その拳は赤羽の胸へ当たったにもかかわらず、赤羽の身体は微動だにしなかった。
「あら」
赤羽は首をかしげる。
大堂はもう一度拳を振るう。
「うおぉっ!」
二発、三発と打ち込む。
だが結果は同じだった。
赤羽は一歩も下がらない。
その様子を見ていた黒崎が思わず声を荒らげる。
「大堂!ふざけている場合ではありません!」
大堂は拳を下ろし、ゆっくりと膝をついた。
「……俺は、本気だ」
震える声で呟く。
「どうして……」
悔しさを押し殺すように床を叩く。
「毎日、鍛えているのに!!!」
その叫びは、幼い頃から抱え続けてきた無力感そのものだった。
赤羽はそんな大堂を見下ろし、小さくため息をつく。
「あんた……」
優しく言うような口調とは裏腹に、その目は鋭い。
「いままで本気で人を殴ったこと、ないんじゃないの?」
大堂は何も言い返せない。
赤羽は大堂の胸ぐらをつかみ、ぐいっと引き寄せた。
「しょうがないわねぇ」
口元に笑みを浮かべる。
「アタシがお手本を教えてあげる♡」
その瞬間だった。
「そこまでです」
黒崎の低い声が響く。
赤羽が振り向く間もなく、黒崎は赤羽の胸ぐらをつかみ上げる。
そのまま力任せに押し込み――
ドォオン!!!!
赤羽の身体は壁へ激しく叩きつけられた。
その衝撃で壁が大きく揺れる。
赤羽はそのまま力なく崩れ落ち、動かなくなった。
「赤羽さん!」
組員たちが慌てて駆け寄る。
黒崎は静かに組員たちに視線を向け、冷たい声で告げた。
「早く、その男を連れてこの場を去ってください」
組員たちは顔を見合わせる。
黒崎はさらに続ける。
「これ以上ここにいれば、本当に取り返しのつかないことになります」
その言葉には、脅しではなく忠告が込められていた。
組員たちは黙って頷く。
数人が気を失った赤羽を抱え上げ、別の組員は黒猫をそっと腕に抱いた。
「行くぞ!」
黒塗りの車へ乗り込むと、エンジン音を響かせながら倉庫を後にする。
その場には、黒崎、麗華、大堂、そして大堂組の仲間たちだけが残された。
長かった一夜が、ようやく終わりを迎えようとしていた。




