17
五十人近い男たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
黒崎は静かに一歩前へ出ると、隣に立つ大堂―麗華の姿をした青年―の前へ腕を伸ばした。
「ここから先へは出ないでください」
「……は?」
大堂が眉をひそめる。
黒崎は前だけを見据えたまま、低い声で続けた。
「あなたが動けば、お嬢様のお身体に傷がつく」
その言葉には、一切の迷いがなかった。
「ですから、そこから一歩も動かないでください」
大堂は思わず呆れたように笑う。
「お前な……」
目の前には五十人近い男たち。
いくら腕に自信があるとはいえ、一人で相手にできる人数ではない。
「あの数を、お前一人で――」
言い終わる前だった。
黒崎の姿が消えた。
「なっ!?」
次の瞬間。
最前列にいた男が宙を舞う。
さらに、その隣の男が勢いよく倒れ込む。
「ぐっ!」
「うわぁっ!」
黒崎は一切の無駄なく相手の懐へ入り込み、次々と男たちの体勢を崩していく。
力任せではない。
相手の勢いを利用し、最小限の動きで戦闘不能にしていく。
囲まれているはずなのに、誰一人として黒崎を捕らえられない。
「速すぎる……!」
「囲め! 囲めぇ!」
怒号が飛び交う。
しかし、その声も長くは続かなかった。
数分後。
倉庫の前には、うめき声を上げる男たちだけが残されていた。
黒崎は静かに息を整える。
スーツは少し乱れているものの、大きな傷一つ負っていない。
その姿を見つめる大堂は、ただ言葉を失っていた。
「……嘘だろ」
思わず息をのむ。
裏社会で生きてきた大堂だからこそ分かる。
今の戦いは、強いという言葉だけでは片付けられない。
「あいつ……まさか殺し屋か?」
その言葉に、反応することなく、黒崎が言った。
「お嬢様を助けにいきます」
それだけ告げると、倉庫の奥へ向かって駆け出していく。
その背中を見送りながら、大堂はしばらく立ち尽くしていた。
やがて、苦しそうな声が耳に届く。
「……若頭」
振り向くと、熊田が車にもたれかかっていた。
片脚を押さえ、苦しそうに息をしている。
大堂は慌てて駆け寄る。
「熊田!大丈夫か!?」
熊田は痛みに顔をゆがめながらも、大堂を見上げる。
「若頭……ですよね?」
「……ああ」
大堂は短く答える。
「安心しろ、いま助ける」
車内を見回すと、後部座席に応急処置用の救急キットが積まれているのが目に入った。
「これだ」
大堂はキットを取り出し、熊田の傷口を手際よく止血していく。
「少し我慢しろ」
「はい……」
処置を終えると、大堂は真剣な表情で熊田を見た。
「桐谷は?どこにいる?ここにはいないのか?」
熊田は荒い呼吸を整えながら、小さく頷く。
「桐谷さんは……」
苦しそうに息を吸い込み、ゆっくりと事情を話し始めた。




