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「うあああああぁぁぁっ!!」
耳をつんざくような悲鳴が、ビル全体に響き渡った。
その声に、桐谷の表情が一変する。
「……新垣!」
思わずその名を口にする。
麗華の身体がびくりと震えた。
胸の奥から込み上げる恐怖に、喉が張りついたように声が出ない。
それでも彼女は震える拳をぎゅっと握り締める。
――逃げちゃ駄目ですわ。
心の中で、自分自身に言い聞かせる。
桐谷は故障中の張り紙が貼られたエレベーターを横目に、非常階段へ駆け出した。
「急ぐぞ!」
「……わ、わかった!」
麗華も必死にその後を追う。
階段を駆け上がる途中、赤羽組の構成員と思われる男たちと何人もすれ違う。
しかし、不思議なことに誰一人として襲いかかってこない。
ただ無言で二人を見送るだけだった。
桐谷が険しい表情で呟く。
「……あらかじめ『手を出すな』と命令されてるのかもしれない」
麗華は黙って頷いた。
再び、悲鳴が響く。
「いやだぁぁっ!!」
「やめてくれぇぇぇ!!」
新垣の叫び声だった。
声は最上階から聞こえてくる。
桐谷は最後の階段を一気に駆け上がる。
二人は非常階段を上り終え、最上階に辿り着く。
廊下に出ると、目の前には重厚な扉の部屋があった。
躊躇はなかった。
桐谷は勢いよく蹴り開ける。
バン!!!!
重い扉が大きな音を立てて開く。
部屋の奥に広がっていた光景を見て、麗華は息をのんだ。
広い部屋の中央。
二脚の椅子が向かい合わせに置かれている。
片方には、一人の青年が椅子に縛りつけられていた。
新垣だった。
両腕も両足も縄で固く拘束され、顔には無数の痣が浮かんでいる。
唇は切れ、口元からは血がゆっくりと顎を伝い、床へと滴り落ちていた。
その向かい側の椅子に、男が悠然と腰掛けている。
肩まで伸びた鮮やかな赤い髪。
真紅のスーツ。
長身の身体をゆったりと椅子へ預けながら、血走った目だけが異様な輝きを放っていた。
赤羽――。
その男は、まるで旧友を迎えるかのような笑みを浮かべる。
「……あらぁ」
ゆっくりと立ち上がり、手に持っていたペンチを指先でくるくると回す。
「待ちくたびれちゃったじゃなぁい♡」
部屋に響く声は妙に甘く、それでいて背筋が凍るほど冷たい。
「大堂ちゃん」
赤羽は首をかしげ、口元を歪めた。
「ちゃんと来てくれるなんて、アタシ嬉しくなっちゃう」
そう言うと、新垣の髪を乱暴につかみ上げる。
「ほら、この子もずーっと待ってたのよぉ?」
新垣は苦しそうに顔をしかめる。
「ぐっ……!」
赤羽は楽しそうに笑った。
「あら、ごめんなさい♡ ちょっと力が入っちゃったわ」
そう言った次の瞬間。
赤羽は手にしていたペンチを何の前触れもなく桐谷へ投げつけた。
「くっ!!!!!」
桐谷は反射的に身体をひねる。
ペンチは頬をかすめ、壁へ激しく突き刺さった。
ドン!!!!!
鈍い音が部屋中に響く。
赤羽は腹を抱えて笑い出した。
「あはははははは!!!相変わらず反射神経だけは一流ねぇ、桐谷ちゃん♡」
狂気と愉悦が入り混じった笑い声だけが、静まり返った部屋にいつまでも響いていた。




