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学園殺S・F事件!

1:


「ユースケ大変だ!」

「う、うん?」


 何だよ朝から。唐突な。


「鹿が! 鹿が何者かに殺されたんだ」

「…………」


 俺は寝起きでベッドで今の言葉をゆっくり咀嚼して。


「なんだって!」

 がばりと飛び起きた!


 地元の狩猟会では、鹿を殺すことを禁じていた。

 そして住民はそれにより、人里に降りてくる鹿に対して、なす術がなかった。

 つまりは鹿にとって、人里をどれだけ荒らしても、罰せられないのだ。

 そこで鹿への対処法として、住民はS・シカ・ファイトというものを起こした。


 当然のことだが、一般人が人里に現れた鹿に立ち向かうことは大変危険である。ただし、それでも勇気をもって、その実力と技能と機転により、あえて正面から鹿と戦い、倒して追い払うという防衛措置が、いつの間にか誕生した。


 S・シカ・ファイトは狩猟会のメンバーではない。殺すことをしない。複数人で追い立てない。一対一で戦う事。負けても自己責任。鹿を倒すことで金品や報酬を求めない。等々……様々な制約が成立した者だけが、鹿と戦う事を許されていた。


 そして、『鹿を殺してはいけない』という、狩猟会が禁じている掟を破ってはいけない。その一点が重要だった。

 


 俺たちの知理芥川学園では、すでにグラウンドにブルーシートで現場が覆われ、生徒会主導の元、現場検証が行われていた。


「加賀美先輩!」


 俺と滉介は急いで学校に行き、剣道部主将であり、生徒会役員も兼任している三年生の加賀美先輩を見つけた。


「鹿が学園内で本当に殺されたんですね!」

「ああ、そうだ。隣にいるのは斜陽滉介か?」

「はい、そうです」

「なら、お前も容疑者になる」

「え?」


 加賀美先輩の突然の発言に、滉介も俺も驚いた。


「お前はこの学園でも凄腕のS・シカ・ファイターだ。当然、鹿を殺す程の強さも持っている。逆に考えてみろ、鹿をS・シカ・ファイトで倒す事ができる一般人は限られる。じゃあ、鹿を殺せる人間はシカ・ファイターに向けられるのも当たり前、自然な見解でもある」


「死因は何なんですか?」


 俺が加賀美先輩に聞く。


「物凄い力での全身打撲での死だ。これはもうファイターの仕業でほぼ決まりだ」


「そんな……酷い」


「いやでも、複数で鹿を追い立てて撲殺したという場合もあるんじゃありませんか?」


「そういうセンもあるかもしれないが、殺されたシカを見れば、その考えも薄くなる」


「見せてください! 加賀美先輩!」


 正直グロいのは苦手だが、滉介が容疑者にされるのに俺は抵抗したかった。


「ふむ……」


 加賀美先輩が黙考して、ため息をついて応えてた。


「そうだな、羅生門、斜陽。お前たちは俺の生徒会への意見として特別にはからおう。羅生門の親友が容疑者なんだからな」


「ありがとうございます先輩!」


 俺たちはブルーシートの中に入ると。


「これは……」


 一般人が複数人で撲殺したとは思えない、そんな鹿だった。


 隣に他加賀美先輩が殺されたシカについての情報を教えてくれる。


「死んだのはグレートホーン・シカ。ランクはUR。このバカでかい角と、とんでもない瞬発力で、とにかく一撃でシカ・ファイターを屠ってきた強鹿つわものだ。その一撃は、例えるならば『居合切り』のような、一瞬での超攻撃だ」


 そのグレートホーン・シカが、全身がぼこぼこになって、さらに首がねじれて口から血を流して死んでいた。


「これが、一般人が複数人程度でどうにかなる鹿じゃないことは、一目瞭然だろう。倒せるとしたら、それこそ凄腕のシカ・ファイターしかいない。という見解だ。少なくとも、この場での見解だがな……」


「ひどい、ボクはこんなに残虐な戦い方をしないよ!」


「だが、この学園でここまでの強鹿つわものをこんな状態になるまで倒して、殺したとなると、シカ・ファイターに限られる」


 ごくりと、俺は生つばを飲み込んだ。


 おそらく、死に至るほど全身打撲を浴びせて、最後に首をねじって殺した。という流れだろうか?


 確かにこんな事が出来るのはシカ・ファイターにしかできない。


「生徒会で、この学園のシカ・ファイター達をリストアップして、アリバイ捜査が始まる。斜陽滉介、お前も昨夜どうしていたか聞き込みに、あとで生徒会がやってくるから、正直に答えるように」


「…………」


 俺は、滉介の横顔をちらりと見る。


 その目は、とても強い意思を放っていた。

 シカ・ファイターとして、残虐な鹿殺しを許せない。


 そんな怒りを静かにかもし出す目だった。


2:


 昼休みになり、学園中のシカ・ファイターが生徒会に召集された。

 俺は滉介に付き添い生徒会室に入る。


「みな、昼休みに呼んですまない。生徒会長の亜国神司だ」


 ごくり。


 高等部生徒会長。亜国神司あぐに しんじ

 この人が個々の学園の生徒のトップか。確かに威厳がある。


 他にも生徒会役員がいて、加賀美先輩も同席。そして立花志保三もいたが、一度のアイコンタクトで他人のふりをすることにした。


 緊縛の山根。

 シュートの本田。

 盲腸だった山田。

 爆裂の鬼頭。

 バリカンの岸田。


 そして、鹿無双の斜陽滉介。


 あれ? 田西笛流先輩がいない。


 亜国生徒会長が口を開いた。


「バンチョーの田西君以外はちゃんと集まってくれたようだね」


 生徒会長の亜国先輩は、テーブルに膝をついて両手を組みながら言ってくる。


 丁寧な言い方ながらも、一語一句聞き取れるようなはっきりとした言葉で言ってくる。


「もう呼ばれた理由はかかっているね。単刀直入に聞こう。昨晩は何をしていたか、それぞれ教えて欲しい」


 全員がそろって「自宅にいた」と言う。


 滉介は俺の家にいたのだが、ほぼ自宅と同じなので。


「ふむ、みなアリバイは無い。という事か。身内の発言は証言にならないからね」


 当然だがその通りだろう。


 事件発生から即座に動こうとした生徒会だが、これではどうにもならない。

 一般人として、夜または深夜は自宅にいて当たり前だ。


 ――どうする?


「だが、この中に、もしくは複数人で鹿を殺した可能性があるのは確かだ。しかもこの学園内で。だからもっと詳細に、覚えているだけでいい、自宅でどう過ごしていたのかを教えて欲しい」


 犯人はこの中にいる。と信じてやまないのだろう。


「この案件はとても重大だ。場合によっては退学処分さえも検討される事件だ。鹿殺しはあってはならない。絶対に犯人を突き止めて、動悸を聞いた後で処分を考える」


 そういった前口上で、亜国生徒会長は一人一人、何時に何をしていたのかを、就寝時間まで細かく聞いてきた。


 しかし出てきた言葉は、夕食を食べた風呂に入った、ゲームをしていた、兄弟と遊んでいた(これは滉介)時間になってさっさと寝たなど、事件に紐づけられる行動が一切なかった。


「ふむ……」


 たぶん、誰かが嘘をついている。と思う。

 だけど怪しい行動が一切無くて分からない。

 俺はちらりと、滉介を除いた他のシカ・ファイター達を見る。


 さすがに鹿と戦うだけに、修羅場をくぐったかのような顔立ちが勢ぞろいしている。


 ブレザーからでも分かる、それなりに中肉中背から一線を画した体格。


 この中で最強なのが、滉介なのか……。


「どうやら、正直者ばかりなのか、この中に嘘つきがいるのか。口上だけでは判断がつかないな」


 俺も同意する。

 だが、滉介も容疑者となっては、黙ってられない。


「俺、シカ・ファイターじゃないんですけど。学園の外、の人間のせいという考えは無いのですか?」


「君は、剣道部員の羅生門君だね。いつも斜陽君と一緒にいるそうじゃないか」


「ええ、まあ……」


「斜陽君の実力を考えるならば、URのしかも十分に倒せるだろう。君も結託して鹿殺しをしたというパターンもありそうだ」


「え? ええ?」


 俺も容疑者に?


「それはありません、滉介はそんなことをするようなヤツじゃありません!」


「じゃあ、先日のコミケ会場での、メタル・シカイダーとの一戦はどう説明するのかね? 報告を聞くに、死なせてしまったようじゃないか」

「あれは、メタル・シカイダーの方が勝手に自爆しただけで」

「そう、斜陽君は一人で鹿を殺すまでに畳みかける実力がある」

「違います! 俺たちじゃありません!」

「誰もがそう言うだろうね。月並みな言い訳だ」


 やばい、雲行きが怪しくなってきた。


「じゃあ」


 口を開いたのは滉介だった。


「じゃあボク達が鹿を殺すような残虐なことをしないって事を証明すれば、疑いは晴れるわけですね?」


「そうとも言い切れないさ、事後の行動で自粛してもらっても意味が無い」

「うー……」


 さすがに生徒会長なだけはある。ああ言えばこう言うなんてレベルじゃない、もっとキレの入った反撃に、一歩たりとも進言できない。


「まあ、今回はここまでにしておこう。解散してくれてかまわない」


 収穫できる物は無い。という即判断だろう。


「ただし、また招集をかけたら、すぐに来るように」

 あっさり俺たちは解放された。


3:


 さて、どうしようか?

 今の状況では、一番強い滉介が第一容疑者にされている。


「ねえねえ」

「うん?」


 俺は廊下で立ち止まった滉介に、足を止めて振り返った。


「ボクって、鹿無双って二つ名だったんだね」

「気になったのはそこかよ……」

「あ、お前ら。生徒会に呼ばれたらしいけどどうだった?」


 やってきたのは来栖川だった。


「どうだったもないさ、収穫もないどころか、俺たちが第一容疑者扱いだったんだぜ」

「まー、そらそうだよな」


 来栖川まで納得する。


「でも、滉介がそんあ鹿殺しをするような奴じゃないってのも、分かってるからさ、気楽に行こうぜ。な?」


 良かった。さっきまでの緊張しきった空気から解放された感覚になる。


「第一よ、犯人が学園内のシカ・ファイターに限定したところが頭硬いよな。他にも容疑者が学園の外に出もいたっておかしくないのにさ」

「全くその通りだよ。俺たちはいい迷惑だ」

「そんなことないよ」


 滉介が珍しくきっぱりと言った。


「ボク達は犯人じゃない。だけど、ボク達で真犯人を見つけないと」


 滉介が使命感に燃えていた。


「ねえ、田西先輩はなんで来なかったのかな? 探して聞いてみない?」

「おお、それだな」

「面白そうだから私も一口乗らせろよ」


 あっけらかんと言う来栖川。


「お前な……。もしかしたら俺と滉介とじゃなくて、お前と三人で鹿殺しをしたかもしれないって目を付けられるぞ」


「やってないものはやってない! こういう時こそ堂々としてればいいのさ!」


 今回ばかりは、明け透けの無い来栖川の気楽さに感謝しよう。

 ギスギスした空気はやっぱり精神に悪いからな。


 というわけで、残りの昼休みの時間で、田西笛流先輩を探すことになったのだが。


 どこにいるんだろうと口内を歩き回り、第二体育館から出たところで、グラウンドの外側にある芝生で、本を読みながら寝そべっている田西先輩を見つけた。


「田西先輩!」

 俺たちは小走りで近寄って、声をかける。


「誰だ?」

 田西先輩が読んでいたのは、ただの数学の教科書だった。


「俺たち、一年の羅生門です。こっちがシカ・ファイターの滉介に、ただの来栖川です」


 自己紹介を簡単にして、直接尋ねた。


「なんで生徒会の招集に来なかったんですか?」

 そう聞かれて、寝そべっていた田西先輩が起き上がった。

「俺には関係ない」


 言葉は完結だった。


「ですが、みんなアリバイが無い状態で、皆が疑われているんです。田西先輩もその一人ですよ?」


「何度も言わせるな。俺には関係ない」


 立ち去ろうとする田西先輩。


「だけど、この事件を解決させるために、生徒会が動いているんです。せめて疑いだけでも晴らさないと、冤罪にだってなりかねませんよ?」


「ふん……知らないな」


 きっと無駄な言葉は言わない口下手な気質なのだろう。

 短い言葉で帰して、さっさと立ち去ってしまった。


「田西先輩……」


 俺はその去って行く後姿を静かに眺めた。


 ――きっと、この人も犯人じゃないかもしれない。


 人の本質を見抜けるほどの資質は無いが、なんだかそう思わせる所があった。


 ――と。


「あれ? 滉介は?」

 いつの間にか、滉介がいなくなっていた。

「アイツなら、「あっ」って言って体育館に戻って行ったぞ」


 来栖川が指で第二体育館を差した。

 すると、手を後ろに隠した滉介が走ってやってきた。


「ねえユースケ」

「うん? 何してたんだ?」

「これこれ、じゃーん」


 背中に買うしていたものを滉介は見せてきた。


 ――それは、竹刀!


 第二体育館の一階は剣道場だ。


 ――それを持ってきたということは。


「はい、ユースケ、これを持って持って」

「嫌だね! 絶対嫌だ!」


 俺は全力で拒否をする。


「でも、事件解決にはこれがいいかもしれないって思ったんだ」

「良いからそれを道場に返してきなさい!」

「だめ! 僕がこのまま第一容疑者で冤罪になったらどうするの?」

「う……」


 来栖川が状況がわからず、頭にはてなマークを浮かべる。

 『剣』を持った状態の俺を衆目にさらせというのか……。


「ダメだダメだ! 絶対にダメ!」

「何がダメなんだ? 何で竹刀?」


 来栖川が訪ねてくるが、無視をして絶対に拒否をする。


「じゃあ、そりゃ!」


 滉介が竹刀をこちらに向けて投げてきた!


「うわ!」


 竹刀を投げるな、とつい竹刀を手に取ってしまった。


 ……キュウン。


 俺の中で、精神が引き絞られていくのがわかる。

「…………」

 俺の中で、様々なものが高速回転して思考が止まらなくなった。


「なんだ? 黙っちまったぞ?」

「うん、ユースケはね、『剣』を連想すると、人が変わるんだ」

「それ、どんな変態だ?」


「そうじゃなくて、人格が変わるというか、隠れていたもう一人の自分が現れるというか、あでも二重人格じゃなくて」


「こんな奴にそんな裏設定があったのかよ!」


「うん、僕たちが幼い時に、まだ十歳にもなっていない頃にね、某を持っただけで攻撃的になってものすごく強くなるユースケに疑問を持ったママが、自作したやつだけどIQ測定器で、それでちょっと知能指数を計ってみたんだよね。『剣』を持った時のユースケの頭の中をね」

「それでどーだったの?」


「それがね、『IQ160』オーバーしたんだよ」


「……それ、マジか?」

「うん、ママの自作だからしっかりとは測ってはいないけど、ユースケは『剣』を持つと変わるんだ。

「は―……なんだそれ」


 一般人のIQは、基本100と定められている。そして人に何かを教えたり説明したりする能力。例えは教師などの職は最低IQ110。そして俺は、8歳でこの状態ではIQ160だった。


 頭の中で、生徒会室での出来事が駆け巡る。

 引っかかり、何かわずかな引っかかり。

 生徒会長の発言。

 招集されたシカ・ファイターたち。

 彼らの発言、表情、体格、そして……。


「そうか」


 俺はぽつりと声をこぼした。


「あ、分かったんだね」

「嘘だろ! まだ30秒も経ってないぞ!」


「ああ、捉えた。……俺の最初の推論が当たれば、2パターン。……2通りの解決までの糸口を絞れた」


「やったあ!」

「マジかよ……」

「時間が無い。昼休みが終わる前にとっとと追求しに行こう」


 俺は竹刀を右手に持って歩きだした。

 向かうは同じ一年生のクラス。

 後ろには滉介と来栖川が黙って付いてきていた。


「ちょっとまて」


 俺はその一人のシカ・ファイターを呼び止めた。


「なんだ? 何か用か?」

「さっきの生徒会室での発言で、なんで自宅で過ごしていたと嘘をついていたんだ?」


「何だ急に! 俺が嘘だと!」

「ああそうだよ。アンタは嘘をついた」


 相手が驚いて目を見開いている。


「だよね、盲腸だった山田」


 俺が引っかかりを感じ、当てはまったのは、

 盲腸の山田だった。


4:


「俺が嘘を言っていると何でそう思ったんだ?」

 山田が言い返してくる。


 これはもう自白したも同じだ。


「じゃあ、アンタが『盲腸』になる前の二つ名を、言い当てようか?」

「…………」

「ボクシング、または拳闘の山田。だよな?」


「え?」

「ええ!」

 後ろで滉介と来栖川が驚いた。


「盲腸の山田が、本当はボクシングをやっていたの? でもボクシング部はこの学園にはないよね?」


 滉介の言葉に俺は頷いた。


「いや、『ジム』だよ。この街にはボクシングをやっているジムがあり、試合にも積極的に参加している本格で活発なボクシングジムがある。二つ名は、山田、お前がそのボクシングジムで活動していたから、付いた二つ名だ。ただし、高等部に上がってすぐに盲腸になったから、二つ名が『盲腸の山田』になっていたんだ」


「そんなの、俺が本当は拳闘の山田だって、中等部にいた奴なら誰でも知っているだろ」

「ああ、そうだな」


 俺は正直に肯定した。


「まさかボクシングの力で、鹿を殴り殺したということか?」


 来栖川の言葉に俺は首を振った。


「いいや、俺は盲腸の山田が本当はボクシングをやっている事を推察しただけさ」


「ボクシングと盲腸にどんな関係が?」

 滉介が訪ねてきた。


「ボクシングをやっていると盲腸になるという因果関係は一切無いよ。科学的根拠も無い……ただし、『ボクシングをやっている人間が盲腸になった場合』では、話が変わる」


「どういうこと? ユースケ」


「ボクシングをやっている人間が盲腸になった場合、治療された後、最低一ヶ月か二ヶ月以上の休養を取らないといけない。体を殴り合うスポーツだから、余計に内蔵やらを気にかけないといけない。リハビリと復帰に向けて、治療後も十分に治るまで体を休ませないといけない。だよな? 拳闘の山田」


「…………」

 無言は肯定の証。俺はさらに畳みかける。


「高等部に上がってすぐに盲腸になって、今でも休養を取らないといけないのに、お前の顔はなんでそんなげっそりとした顔、いや……顔面まで引き締められた顔つきになっているんだ?」


「それは……」

「隠れてトレーニングをしていた。違うか?」

「ぐ……」


 ヒット。俺の推察は当たっていた。


「本来ならば盲腸で休養を取っていなければならないのに、おそらくジムでも言われていたのだろう? 休養していろと。だけどお前は隠れてトレーニングをしていた。例えば走り込みとかをな。……それが公にバレるのがダメだったから、みんなと同じように自宅に居たと嘘をついた。そうだよな」


「……っち」


 山田が舌打ちをした。


「ああ、そうだよ。俺は確かに、高校生になってすぐに盲腸になって、ジムから長期安静を言い渡された。けれども体型と体重の維持のために、隠れてトレーニングをしていた。……だが、だからなんだ? 俺はスパーリングの相手にでもと、夜中に学園にいた鹿とスパーリングでもしたというのか?」


「いいや」

 俺は素直に否定した。


「さすがにそこまではしていないだろうな。鈍っている身体で怪我でもしたら、それこそボクシングから余計に離れていくし、誰も拳闘で殴り殺したとは断定してないさ」


「じゃあなんだよ? 隠れてトレーニングで走り込みをしていただけで、俺を容疑者でもなく、何でそこまで追い詰めてくるんだ?」


「見たんだろ?」

 ドキリ、と山田が反応した。


「見たんだな。お前が鹿をボクシングでボコボコに殴り倒して殺したパターンも視野に入れていたが、これで残りのパターンは一つだけになった」


「…………」


「見たんだろ? 学園まで走り込みをしていたお前は、鹿が殺されるところを、見たんだよな?」


「まさか、この人が容疑者じゃなくて……」

「目撃者だったって事か!」


 滉介と来栖川が驚く。俺は頷く。これも想定内だ。


「さあ、教えてくれ。お前は何を見たんだ?」

「…………」


 昼休みの終わりを告げるチャイムが廊下に鳴り響いた。


「教えてくれ。いや、教えてくれないか? 頼む」

「…………」

「何を見たんだ?」

「それは……」


 俺は畳みかけた口調を止め、深呼吸をする。

 俺の推察はここまでだ。


 ここからは、鬼が出るか蛇が出るか?

 ――さあ、答えろ!


「俺には、到底、説明できない……」


 うん?


「どういうことだ? 何で話せない?」


「話せないというよりも、どうやってその状況を伝えればいいのか分からないんだ」


「どういう意味だ?」


「ただ言えるのは、おそらく今夜も、鹿が襲われる、だろう……」


 歯切れが悪い、何を見たというのだ?


「とにかく、正体が知りたければ、今夜街をくまなく探すことだ。もしかしたら、第二の犠牲になる鹿を、止められるかもしれない。俺に言えるのは、それだけだ。もう、勘弁してくれ……」


 もうすっかり血の気が引いて青ざめている山田。

 そして逃げるように、さっさと山田は教室に入って行ってしまった。


「…………」


 俺はそれを黙って見守る。


 ――正直に話してくれてありがとう。


「二人とも!」


 俺は振り向いて、滉介と来栖川に尋ねた。


「今夜も、鹿が襲われるらしい。協力してくれるか?」

「うん! もちろん!」

「なんかヤバい気配がするけど、もう舟に乗っかちまったからな……」


 恐々としている来栖川。


「今夜、みんなで鹿殺しの正体を見つけよう」

「うん! 分かった!」

「マジか……もう仕方ないな……」


 そして俺たちは、下校した後に、夜に駅前に自転車で集まることにした。


5:


「来栖川、ちゃんと制服と鞄も持ってきたんだな」

「まあな、ケーサツに補導されたくないし」


 駅前で自転車を引っ張りながら、俺と滉介、来る側で集まった。


 ブレザーの制服と学生鞄を用意したのは、あたかも塾の帰りだと見えるようにだ。そして俺は、その他に竹刀の入った袋も持っていた。


 ――場合によっては使うことになる。


 とりあえず、俺は改めて口を開いた。


「第一被害鹿のグレートホーン・シカは、学園のグラウンドで発見された。何故だと思う? そうだな、来栖川はどう思う?


「へ? 普通にそこで殺されたからじゃないのか?」


「ランクURのシカが何の抵抗もしないままやられたとは限らない。あそこには、争った形跡が無かっただろ? そして、山田はこういった。街を探索しろ。第二の被害が出ると……ってな」


「じゃあ、あのグレートホーン・シカは別のどこかで殺害されて、わざわざ学園に運んで放置したって事か? あえて見つけてもらうために」


「そうだ」

 俺は簡潔に応えた。


「話を整理して、少し訂正を加えるが。犯人は、鹿を殺した事に対して、何かしらの主張があったのだと思われる。山田に問い詰めた時を思い出してくれ。俺はトレーニングで学園まで走り込みをしたと、推測で言ったが、アイツは否定も肯定もしなかった。激しく動揺していて聞き逃したか。あるいは、別の場所で鹿が殺されたのを目撃し、殺された鹿を学園まで運ばれたと言う、一部始終を追って目撃していた。と考えられる」


「遊介、お前って本当に『剣』を持つと人が変わったように頭が回るんだな」

「そこはどうでもいい」


 俺のこの才能がバレるわけにはいかない。俺のこの能力については一切問いかけをさせないようにする。


「本当に学園内で鹿が殺されたのか? について、山田にカマをかけたつもりだったが、アイツは気にかける事もなく何も言わなかった。だとするとそういう見解になる。そして実際に殺された場所は、学園ではなく――」


「夜の街中で殺されたって事だね!」

 滉介が割って入った。


「そういう事だ。山田にはこれ以上追及はできないから、あの時の会話での断片的な推測だ。そして、山田は盲腸だったが、中等部からのハードなスポーツマンだった。だとすると、体の時計……体調のリズムも徹底していたと考えられる。深夜遅くまで無理なトレーニングは行っていない。と推察する。それなら、鹿が襲われて殺された時間帯は――」


「深夜になる前の、今まさにこの時間帯。この19時から数時間のあいだに、犯行が行われる……ってことだね」


 さすが以心伝心。滉介だ。

 話が早くて助かる。


「だけどさ、街中でって言われても、たった三人でどうやってくまなく探すんだ? 今まさに、街に残っている鹿が狙われているんだろ? さすがに探し出すのは無理だって」


「そこで、ある程度絞り込みもできている」


 俺は人差し指を立てて見せた。一つ目の推論。


「もし街中の、その人間たちが大勢いる中で殺しまたは争いがあったのならば、その時点で警察やら狩猟会が動いていたはずだ。目撃者も多数いただろう。なのに、地元の夕方のニュースですら、この事件が流れていなかった」


 そして俺は順番に二本目の指を立てた。

 二つ目の推論。


「そして狙われたのはランクURの鹿だという事。知っての通り、ランクURの鹿は特殊な、キワモノぞろいだ。メタル・シカイダーなんかは、日本語をしゃべる事も出来た。そこから導き出される結論は――」


 俺は三つ目の指を出す。三つ目のキーとなる推論。


「果たし状だ」

 俺は断言するようにきっぱりと言った。


「果たし状……」

 来栖川が戦慄した顔になる。


 そして俺は突き出した指を戻して自転車のハンドルに手をかけた。


「そう、ランクURは人語を話せるなら、字も読めるだろう。例えば、普通に街を徘徊している鹿に、果たし状を渡すか括り付けるなりして、鹿山に返す。そしてランクURの鹿がそれを読んで、すぐに夜の街中の、とある場所へ向かった。おそらくだが、どうしても今すぐに動かなければならないような、そんな内容が書かれてあったのだろう。そして、罠にかかった。殺された」


「うーんと、果たし状を使ってわざとURの鹿を呼び出して罠にかけて、殺した。すごいねユースケ! 昼間のたったあれだけの情報で、ここまで推察できるなんて!」


 素直に滉介が褒めてくるが、今はそれどころではない。


「つまり、街中でかつ人気が無く、URランクの鹿と戦えるあるいは罠にはめられる場所と考えれば、現場は限られてくる」


「場所って言っても、どこだよ?」


「夜中の各所の公園、河川敷、閉まった店の駐車場、あるいは他の学校の校庭、正直いくらでもある」


「マジか。今まさに行われているかもしれない鹿殺しを、今から自転車で走り回って探せって事かよ……」


「そうなるが、各種ポイントを回ると考えれば、だいぶ限定されたと思うがな」

「まあ、確かにな……」


 不満そうな来栖川。


「まあ、街中を当てもなくさまようよりかはまだマシさ」

「あーあー。わかったよ! やりますよやりますとも!」


「そこで来栖川は、滉介と一緒に動いて欲しい」

「三人で別々に行動するんじゃないのか?」


「正直、戦闘が行われていた場合、来栖川は戦力にならない」


「おい、呼び出しておいて戦力外って、きっぱり言うなよ……」


「そこで、滉介だ。滉介なら争っている中をどうにかできる。来栖川は俺への伝達役だ。俺は俺一人でも何とかなるからな」


 ついでに「それに、女子が夜中で一人だと、違う意味で一般的に危ないから」と付け足しておく。


 それで来栖川は納得してくれたようだ。


「じゃあ、話はまとまったとして、探索を始めよう」


 滉介が「おー!」と言って片手をあげた。


「じゃあ、移動して各種の場所を確認しに行こう。連絡は小まめに頼む、来栖川」

「了解!」


 そして俺たちは探索することになって二手に分かれた。


6:


 実は、二人には隠していたことがある。


 本当は、鹿が殺された場所は、あの場所であると、実は一か所だけだという事。


 俺はとっくに、鹿が殺害された現場を特定できていた。


 しかし、予想外の事も考えて、あえて他のポイントに目指してもらった。

 俺の推論の続き。


 公園、閉店した店の駐車場、他の学校の校庭。それはまず無い。


 一つは、ランクURの鹿が文字を読めたとしても、どの場所のどこに何時と、明確に把握できるかどうかまでは分からない事。街中を往来する鹿でも、人間が使っている固有名詞の場所に、正確に呼び出せるとは限らない。そして、肝心なのは目撃者がいないという事だ。


 閉店した店の駐車場と、公園にだって夜遅くに人が近くにいるかもしれないし、道路だって隣接している。目撃者が現れる可能性は高い。


 犯行をするに、目撃されることは徹底して排除しなければならない。


 そして、この『街灯』だ。


 街中のどこにでもある明り、街灯。


 そこに照らされれば、目撃者がより鮮明に犯行中の現場を目撃される。

 街中とは言っても、街のど真ん中での犯行はあり得ない。

 ならば、逆にそれらが排除されているポイントが、犯行現場になる。

 車道も隣接していない、街灯も無い。そして目撃が困難な場所。

 そしてついでに、山田が走り込みをするに絶好なルート。


 ――それは河川敷だ。


 河川敷には当然道路も隣接しているが、それは歩道である。そして街灯はその歩道の道を照らすように配置されている。


 場所として河川敷には、川辺を照らす明りは無い。

 そして、河川敷と言えば、


 ――俺たちがいつも通っている通学路!


 俺はその一本道を自転車で走らせて一気に見て回る。

 河川敷は、歩道が照らされているため、逆光で川辺が見えない。

 睨んだ通り。犯行を行うには絶好のスポットだ。


 ――ッ!


 俺は驚いて、思いっきり自転車のブレーキをかけた。


 河川敷に誰かがいる!


 俺は自転車止まったから降りて、バッグからマグライトを取り出して河川敷へ降りた。


「動くな!」


 俺はそう叫んでマグライトを照らした。

 

 そこにいたのは……。

 ぐったりと倒れている鹿が一匹と。


 そして、田西笛流先輩だった。


 ――田西先輩が犯人だった? いや。違うな。


 俺は死んでいる鹿に向かって屈んでいる田西先輩に声をかけた。


「田西先輩。あなたも探していたんですね。鹿殺しの犯人を」

「…………」


 田西先輩が黙って立ち上がった。そして、俺の方へ無言で歩きだして、その横を通り過ぎて行った。


「待ってください!」


 俺は振り向いて田西先輩を呼び止めた。 


「ここで何があったんですか?」


 俺は田西先輩に問いかける。


「教えてください。鹿は殺された後に、人に目撃されやすい場所へと運ばれる。この人気もなく夜闇で見つけにくいこの場所で、ここにまだ運ばれていない鹿の遺体があるということは、犯人を見たんですね?」


「…………」

「…………」


 夜闇の中で風が吹く。時期はもう初夏だというのに、川辺の風邪は意外とひんやりとしていた。


「……六人」


 田西先輩がぽつりと呟いた。


「六人……六人も!」


「ああ、俺が誰だと叫んだら、とんでもない速さで逃げて行った。暗くてよくわからなかったが、確かに六人だった」


 犯人は複数人。そして六人という大勢で……。


「俺は帰らせてもらう。今日の収穫はここまでだ。お前も帰れ」

「…………」


 そして、田西先輩は去って行った。


 俺は、はっとなって、急いで滉介と来栖川にスマホで連絡を入れた。


 ほどなくして到着した二人。


「こいつ、カニ・シカじゃないか……」


 来栖川が恐々と殺されたシカを特定する。


「やっぱり、URのシカなのか?」


「ああ、コイツは自分で角を左右に動かせる特徴があって、カニのハサミのように相手を角で挟んで、捕まえた獲物を振り回したり叩きつけたり投げ飛ばしたりの、凶暴な攻撃力を持っている」


「そんな鹿さんを六人がかりで……酷い」


 カニ・シカの姿は、グレートホーン・シカと同じように、全身打撲。体中をボコボコにされて殺されていた。


「田西先輩は、暗がりではっきりは見えなかったが、確かに六人だったと」

「それって袋叩きってやつだよね? 酷過ぎるよ!」


 滉介が怒りをあらわにした。


 俺が今後取る、正しい行動は――


「警察と、それから狩猟会に連絡しよう」


 自分でも妥当な判断だと思う。


「警察や狩猟会が正式に動くことになれば、次の犯行も行われにくい。現場もわかったからな。人員が動員されれば、犯人たちも動きにくくなるだろう」


「でもそれじゃあ、班員たちは鹿殺しをやめて、雲隠れしちゃうかもしれないよ!」


「例えそれでも、これ以上被害を出さないようにしないといけない」


「許せないよ!」


「滉介、気持ちは分かる。だが、俺たちの領分でできるのはこれぐらいだ。我慢しよう」


 相手が六人で、こんな凶暴なUR鹿を殺せるほどの力量ならば、滉介が割って入ると逆に滉介が危険になる。滉介をそんな事にさせたくない。


 これ以上、巻き込められない。


「悔しいが、あとは警察と狩猟会に任せよう」


「……ユースケがそう言うなら……分かった」


 良かった。滉介が素直でいてくれて。


 俺たちは警察に連絡して、それから狩猟会の幹部の人が数名やってきて、事のあらましを説明した。


 そして、これ以上は危険だからと、俺たちは、警察からさっさと現場から追い出されることになった。


 これ以上はもう、足を踏み入れることはできない。


 あまりにも、危険すぎる。


 滉介を危険な目に合わせたくない。


7:


 次の日の夕方、日が落ちて夕闇が空を覆った頃。

 事態は急転直下し、大事になって行った。


「なんだこれは!」

「鹿さん同士で争ってる!」


 どういうことだ? 何で鹿同士が争っているんだ?


 街のど真ん中で、鹿同士が暴れまわり互いに争っている。

 俺と滉介と来栖川で、その惨憺たる状況を目の当たりにしていた。


「どうしたらいいのこれ? どうやったら収まるの?」

「それよりも、原因がわからない。どういう事だこれは?」


 なんでこうなった? なんでこうなっている?


 理由は? 原因は? まるで何かが爆発したかのようだ。


 理解が追い付かない。


 もうすでに一般人は逃げ去り、あっちこっちでパトカーが走り回る。


 中には、鹿に襲われたのであろう、ひっくり返っている一般人の車とパトカーもあった。さらに、店の中にまで暴れたのだろう、ガラスや様々なものが道路に散乱していた。


「ねえユースケ! これはどういうことなの?」

「わからない、何が起こっているんだ?」


 まさにこれは、鹿事変とも言えただろう。警察でも狩猟会でもどうにもならない。人里で大量の鹿が大暴れしていた。


 さらには、暴れる鹿たちの中で、シカ・ファイター達がとにかく鹿を倒すために立ち回っていた。


 だが、一向にこの暴動が沈静化しない。


 なにより、何故しかが暴れて、鹿同士で争っているのかがわからない!


 何なんだこれは!


「ユースケ、これ!」


 滉介が差し出したのは、竹刀だった。


「ええくそ、どうにでもなれ!」


 俺は竹刀を手にして『別の世界』を見た。


 気配、風の流れ、目の前にある事実。目に入る情報すべて。前日までの一連の事件に、この状態に至るあらまし、疑問……。


 あれ? 何か妙だ。

 鹿たちを見ていると、何かが引っかかる。

 鹿たちの中で、決定的に違うところが見えた。

 ――捉えた!


「そうか、分かった!」

「ユースケ、どういう事!」

「急いで『俺たちの鹿』を守るんだ! 行くぞ!」

「え? え? どういう事!」

「いいから、白いまだら模様の鹿から、普通の毛並みの鹿を守るんだ!」

「うん、分かった! ユースケを信じる!」


 さすが幼馴染であり親友。こういう時にはすぐに信じて動いてくれる。


「来栖川は安全なところに居ろ!」

「おう! 全力で逃げる!」


 来る側が猛ダッシュで逃げて行った。


 俺と滉介は、暴れる鹿たちの中に入って、白いまだら模様の鹿だけを攻撃した。


 パンパンパンパン!


 竹刀で、角を避けて正確に鹿の頭部や首部を叩く。


 滉介が下段の横薙ぎの蹴りで白いまだら模様の鹿を吹き飛ばす。


 やがて、敵味方が分からない状況から、敵と味方がハッキリと別れるように見えてきた。それは、白いまだら毛様の無い鹿達の方が、俺たちへの攻撃をやめたからだ。


 俺と滉介は、互いに背中を守るように陣取った。


 滉介が「ふふっ」っと笑う。


「なんだ? 滉介?」

「なんかね、こんな形だけど、ユースケと一緒に戦える日が来るなんて、思わなかった」


「……それも、そうだな」


「ユースケも、これを機会にS・シカ・フファイトやってみる?」

「それはごめん被る!」


 だが、物量で言ったら鹿の方が圧倒的に多い。

 以前状況は不利なまま。


「でもなんで、普通の毛並みの鹿と、白いまだら模様の鹿が混ざってるの?

「毛の生え変わりだよ」


 俺は簡潔に説明した。


「鹿の子模様かのこもようって言って、小鹿あるいは、毛が生え変わって夏気になった鹿の模様だ。模様の無い普通の鹿は、俺たちの街に生息する鹿だ。そして白いまだら模様、鹿の子模様のある鹿は、おそらく南からやってきた、気候が違うほど遠くからやって来た異邦人ならぬ異邦鹿たちだ!」


「じゃあ一連の事件は!」


「そう、犯人は、人間じゃなかった。そしてあそこにいる六匹の鹿たちの仕業!」


 俺がビルのてっぺんで状況を眺めていた奴らを見上げる。


「田西先輩は、暗がりでよく分からなかったが確かに六人だったと言った。そして、ランクURの鹿を簡単に屠れるほどの、URよりはるか上位の鹿たち。犯人は……人影と間違えるほどの、二足歩行の鹿達だ!」


 ビルの頂上でこちらをまるで観戦するかのように見ていた、六匹の二足歩行の鹿達。


 六匹の鹿のうちの一匹が言ってきた。


「ほう、ようやく私たちのメッセージを、正確に読めた人間がいたようだな」


「鹿のくせに、流暢にしゃべるじゃねえか……倒した地元の鹿を人間に見せびらかしたのは、『次はお前たちだ』って言いたかったんだろう?」


「いかにも、しかにもその通り!」


「くっそ、俺ともあろう者が、見落としていたぜ。犯人は人間だけとは限らなかった」


 月明りに照らされ、六匹の鹿たちの姿が見えるようになった。


 何だあの姿は? 防具か?


 やたら金属的、メタリックな光を放つ鎧を着こんだ、妙な鹿達だった。


 鎧を着た鹿達が、不敵な笑みをこぼす。


「俺たちに一体何の用だ? 何故こんなことをする!」


「フフフフフフフ……。我らの主、南海のシカ・ネプチューン様が、ついに重い腰をお上げになった! 鹿界を制覇し、そしてこの世界の頂点に立つ人間達からその座を奪う! 弱肉強食のヒエラルキーの頂点に立つ時が来たのだ!」


「くっそ、やたら変態な鹿を見てきた分、ツッコミできねえ!」


「そうだな? もう普通の鹿共と戯れるのも飽きてきたところだ。人間! 少しは我らを楽しませてみろ!」


 ランクURを超えた異邦鹿達、一気に六人と対戦か。


「まずいな、他の鹿達を守りながらで、こんな武器と人数じゃ太刀打ちできねえ!」


 その時――


「まてえええええええええい!」

 新たな声が轟いた!


8:


 反射的に、反対側のビルの頂上を見る。


 カッ! カッ! カッ! カッ! カッ!


 突然、五つの光がライトアップされた。

 そして現れる――。


「シカ・マッスル!」

「シカ・細マッチョ!」

「シカ・ゴリマッチョ!」

「メタル・シカイダー02(ゼロツ―)!」

「半透明のマイケル・シカ!」


 そして五匹は、


 ザッ! 右を向き。

 ザッ! そして左を向き。

 ザッ! 再び正面を向いて。


「我ら! 偶蹄戦隊!」


 各々がキメポーズ!


「シカレンジャー!」


 ドォー―――ン!


 何故か背景が爆発した。


「あれが、噂の鹿五勇傑!」


 滉介が驚く。


「五匹中の三匹が筋肉で被ってんだけど! なんだあれ!」


 俺のツッコミもむなしく、シカレンジャーこと、鹿五勇傑がビルから飛び降りた、そして着地し、南から来た異邦鹿たちへ立ち向かう。


 半透明のマイケル・シカが。

「ムーンウォーク残像拳!」

 からの――

「シカ・流星乱舞撃スターダスト・イリュージョン!」

 無数の半透明のマイケル・シカが現れ、、囲んでいる敵鹿達を高速でなぎ倒していく。


 シカ・ゴリマッチョが。

「唸れ! ダブルラリア―ト・サイクロン!」

 その名の通りに、丸太のようにでかい両腕を体ごと回転させて、コマのように走り回る。それは大きな旋風を呼び、敵鹿達がなぎ倒されていく。


 シカ・細マッチョが。

「蹄剣! 七連鋭星突き(セブン・シャープショット)!」

 一度に七匹。胸に蹄のマークを付けられて、一瞬で敵鹿が倒される。


 メタル・シカイダー02が。

「シカ・ジ・エンド!」

 高速回転する角が、突進と同時に敵鹿達を吹っ飛ばしていく。


 四匹それぞれの必殺技が、雑魚の鹿達を一掃した。

「なんて力だ……とんでもないよこれは」


 滉介が戦慄する。

 だが、俺は。


「なんて変態共だ!」

 冷静に一般的な見解を出した。


「一気に鹿の変態祭りみたいになった!」


 シカ・ネプチューン? の配下の六匹の鹿が、さらに楽しげに闘気を見せた。


 そして俺たちを置いてけぼりにして、勝手に話が進んでいく。


「やるではないか、噂の鹿五勇傑……いや、シカレンジャー!」

「だが、我々はただの先兵でしかないぞ!」

「お前たちの女神、シカ・アテネは我が手中にある!」


「なんだと!」

 鹿細マッチョが応えた。


「お前たちの女神シカ・アテネは、バカバカしくも単身で和解にやってきた。だが我らの主シカ・ネプチューン様は、シカ・アテネを幽閉し、その手中に収めた。残念だったなシカレンジャー!」


「シカ世界の平和のために赴いた我らの女神に、なんてことを!」

「許さぬぞ! お前ら!」

「シカッ! ファッキン!」


 シカ・細マッチョ、シカ・ゴリマッチョ、メタル・シカイダー02、半透明のマイケル・シカが、それぞれ声をあげる。


「取り返したくば、我々の聖域、シカ・オーシャンズまで来るがいい! そしてシカ・ネプチューン様の直属の部下、シカ十三柱が、全力を持って歓迎しよう!」


 そういうと、


「ではさらばだ! ただの愚かな鹿どもよ!」


 六人の鹿達が、シュン! と消え去った。


「これは由々しき事態……」


 リーダーのシカ・マッスルが苦々しく呟いた。


「取り返しに行こう、マッスル! そしてネプチューンの野望を阻止するんだ!」


「細マッチョの言う通りだ! 我らが女神を嘲った罪は重い! このゴリマッチョパワーをお見舞いしてやる!」


「ついにシカ・ネプチューン軍との戦いか……ボクはあまり戦いたくないけど、仕方がないよね……」


「シカチク! シカチク! ファッキュー!」


 そして、シカ・マッスルが決断する。


「誰か一人でもいい、我らの女神シカ・アテネの元へ、一人でもたどり着けば、我々の勝利だ! 行くぞシカ・オーシャンズへ!」


 シカ・細マッチョ、シカ・ゴリマッチョ、メタル・シカイダー02,そして半透明のマイケル・シカが「おう!」と高らかに叫んだ!


「いざ、シカ・オーシャンズへ! 決戦だ!」


 そして、鹿五勇傑もとい、シカレンジャーは揃って走り去っていった。


「…………」

「…………」


 俺たちは、あまりの事態に。

 ただ傍観するしかなかった。


9:


「大丈夫かお前ら!」

 静かになった様子を察して、来栖川が戻ってきた。


「今、すごいものを観たぞ! 鹿五英傑がそろい踏みで走り去っていったぞ!」


「ああ、うん……」

「そう、だな……」


「どうしたお前ら? 何があった?」


 来栖川の問いかけに、俺たちは言葉を濁した。


「えーっと、何があったのかって聞かれたら、ねえ、ユースケ?」

「……どう説明すればいいのかわからない」


 ――というか。


「ええ! これがオチなのか! 鹿サイドで、なんか壮大な物語が展開してたぞ! これどう説明すればいいんだよ!」


「一体何があったんだ!」


「説明するのが難しい! っていうか無理!」


「IQ160でも、これは予想できなかったよね……」


「まったくだよもう!」


 俺は竹刀を放り出して、頭をガリガリと掻いた。


「ええいもう! どうにでもなってろおおおおおお!」


 こうして、一応は連続殺S・F事件は一件落着となった。


 そして鹿サイドで、これから何が起こったのかは、

 誰にもわからなかった。


 おしまい。


「アホかあああああ!」



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