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幕間 デートごっこ

 林間学校が終わって、早々に休日が来た。

 各種の課題だった林間学校のレポートはとっくに終わっている。

 こういうのは早く終わらせるに限る。


 待ち合わせは駅前、北と南にある出入り口の、北側で俺はそれなりにカッコつけた姿で滉介を待っていた。


 待っていたと言っても、ほんの十数分程度だった。


「ユースケー!」


 ほら来た。時間差で待ち合いしようと言ったのにもかかわらず、そこまで待ち合わせに時間をかけるほど辛抱できなかったらしい。


 こっちへ滉介が走ってきて、目の前でぜえはあと両手を膝に当てて前かがみになる。


 ――どんだけ楽しみだったんだ?


「そんなに走ってきたら、髪も服も崩れるだろうに」

「はははっ。待った?」

「全然」

 俺は肩をすくめた。

「じゃあ、今日はどうしよっか? どこに行く?」

「テキトーに歩き回るのもいいが、久しぶりにカラオケ行くか?」

「うん! 行く!」

 

 ※これはあくまで、『デートごっこ』である。


「キン肉マンー! ゴーファイト~~!」


 これは俺たちが生まれる前のアニソンなのに、滉介はどうやって知って観たのだろうか。一応、コスプレイヤーというオタク属性もあるが。


「じゃあ次は、キン肉マン旋風センセーションいくね!」

「はいはい。マイクでしゃべらなくてもよろしい」


 正直、俺はカラオケが得意ではない。滉介のように、歌に酔いしれるのが、ちょっと恥ずかしい。何にしようか?


 そうだな、仮面ライダーディケイドの「Journey through the Decade」にするか。


 俺もそれなりにオタク属性もあり、ゲームもそうだが、仮面ライダーも好きだったりもする。ウルトラマンシリーズは俺と滉介で両方とも好きだ。


 突然悪の組織にさらわれて改造され、孤高のサイボーグとなって悪の阻止区と戦っていくという哀愁。それでも人々の自由と平和のために戦うというコンセプトに、俺はグッとくる。


 まあ、実際のTV映像は、親父の趣味で見せられて感化されたという理由でもあるが。


 おっと、オタクのうんちくはここら辺でやめておこう。


「だだだ! ダイナマイッ! 吠えろマッスルー!」

「いえーい!」


 俺は滉介の歌に合わせて、タンバリンを叩いてはやし立てた。

 

「映画はこっちがいい!」

「それホラーだろ! デートで観るものなのか?」

「そっちだって、よくわかんない暴力映画じゃん!」

「バトルがあったほうが派手でいいだろ!」

「ホラーの良さも知らないくせに!」


 ここは譲れない。せっかくの映画だ。無駄な時間にはしたくないものだ。


「むぅ~」

「ぐぬぬ」「


 滉介も譲りたくないようだ。

 ――ここは仕方がない!


「じゃあいくぞ!」

「おーけー!」

「じゃーん」

「けーん」

「「ほい!」」


 俺がチョキ、滉介がグー。


「ホラー映画だ!」

「うーわ。マジかよ……」


 ホラーって苦手なんだよな。とにかく驚かせてくるし、決行グロい作品もある。

 俺の中ではデートとして観るに微妙なジャンルだ。


「予約は、午後の2時半ぐらいでいい?」

「ああ、そのくらいが良いな。飯食ってから観るぞ」

「了解であります!」


 まだ高校生だから、ファミレスで勘弁してくれ。

 二人で一緒にハンバーグセットを食べる。


「はい、ソース交換ね」

「むぐむぐ、おう」


 俺と滉介でオニオンソースと和風ソースとで取り替える。


 二人で食べると、こういった事ができるから楽しみも増えるんだ。


 食後は俺はコーヒーのみ。

 滉介はデザートにパフェまで頼んでいた。


「お前って、結構食べるのに全然太らないよな」

「うむ?」


 滉介の食べる量は、俺よりもちょっとだけ多い。俺は一食一膳を心掛けているだけ、という理由もあるが、滉介は躊躇なくおかわりをする。なのに、滉介の方が体のラインは細い。どういった理由だろうか?


「チアダンスやってるからかな?」

「それだけじゃないと思うな」

「甘いものは別腹でーす」

「異次元カロリーかよ」

「ほら、游介も。あーん」


 パフェのクリームをスプーンに乗せて、滉介がパフェをこぼさないようにこちらへ、スプーンを突き出して身を乗り出してきた。


「はいはい」

 俺はそれをぱくりと食べる。


「どう? 甘いものは別腹でしょ?」

「ちょっとこれ以上は入らない……」

「だらしないなあ、男の子ならもっとがっつり食べないと」

「俺はお前と違ってガツガツしないからな」

「なにそれ! 失礼なーもー」


 ふっと笑って見せてコーヒーに口をつける。

 滉介、お前も男の娘だろ?

 と、心の中で呟いておく。


 で、ジャンケンで負けたわけで滉介とホラー映画。

 ほらやっぱグロいのが来た。


 CGだったり作り物だったりとは、分かってはいるが、リアルに寄せただけあって背筋が寒くなる。


「へーなるほど、こういう展開かー」

「ホラー好きの理解がし難い……」


 しゃべってはいるが、お互いに聞こえるか聞こえないかぐらいに声を押さえている。


 映像の中で、犠牲者の頭が首から離れてゴロリと転がる。

 ここで何かわかるのだろう?


 滉介は意外とホラーも楽しんで見れる方で、初手からどういう展開になるのか、今後のストーリーの流れまで把握できるぐらいには観ている。


 おいおい、取り乱した女性俳優が、ショットガンを自分の口にくわえて、自分で自分の頭を吹っ飛ばしたぞ。


「ほぉー」

 滉介の感嘆のため息。


 いや、断然グロいの一方通行なんだが。

 これの何が良いんだ?


 そして映画鑑賞後――。


「いやー、ホラーはストレス解消になるよね!」

「ならねーよ。どういう神経してるんだ?」


 座りっぱなしだったので、お互いに外に出て体の凝りをほぐす。


「ユースケは分かってないなあ」

「なんか、分からないままでいいかもしれない」

「いつか分かれ」

「はいはい」


 俺はガンカタのアクション映画が良いんだ。

 ホラーはやっぱり好かないな。


 ――と


「おりゃ!」

 滉介が俺の腕に抱き着いてきた。

「おっと!」

 倒れそうになったのほ何とか踏ん張る。

「いきなりなんだよ」

「えへへー。いいじゃん。ユースケもホラー映画の虜になれー」

「それは絶対遠慮する」


 ああもう、暑っ苦しい。

 もう六月半ば。さすがに日差しが強くなってきた。


「滉介、ちょっと暑苦しい」

「なんだとコノヤロー!」

 俺の腕を関節技で固めてくる。

「いたたたたたたたた!」

 ちょっとまてちょっとまて!

「やめろマジで、痛い痛い痛い!」

 

 最後に買い物だ。

 理由は、荷物を持って映画なり飲食店なりをはしごするわけにはいかないからだ。


「どう? こういうの?」

 滉介の、ワンピースにつばの広い帽子。そしてレンズが大きめのサングラス。

「ありゃ?」

 サングラスがずり落ちた。


「お前にサングラスはまだ早い」

「なにそれー」


 滉介がぶうたれる。


 サングラスは似合わないな。ボーイッシュな髪型と顔立ちで活発な滉介だが、いまいち眼鏡とは縁が無い。


 滉介は、顔に変な装飾をするよりも、素顔のままの方が整っている。まだ耳にピアスを開けてもいないが(校則違反である)イヤリング系もちょっと不釣り合いになるかもしれない。


「そのまんまで十分だよ」

「うーん、もっとオシャレできる範囲を増やしたいな」


 プロポーションも一般女性と比較して、線が細いが顔と同じく整ったった体つきをしているため、余計な物で全体的なバランスが崩れてしまいそうである。


 俺の好みと見解に寄っているだけかもしれないが。


「冒険もいいけど、なんかちょっとなあ」

「うーん微妙かなあ?」

「微妙じゃね?」

「サングラスとか、カッコいいと思うんだけどなあ」

「そこまで深く考え込む必要はないな。俺の判断でまだ早い」

「ボクももうそこまでお子様じゃないですよーだ」

「はいはい、次行ってみよー」


 滉介は今度はジーンズ系でまとめてみるが。


「これもいいが、何かもう一歩足りないな?」

「そう? デニム生地は結構好きなんだけど」

「上下で整えてるのがダメかな。バリエーション考えないと」

「うーむ……」


 姿見鏡の前で、色々なポーズをとる滉介。


「良いじゃんこれで」

「俺は微妙に思う」

「なにそれー」

「あくまで俺の感想だから、最終的にはお前の判断だけどな」

「うー、なんか投げやり感? 飽きてきた?」

「実はちょっと飽きてきた」


「じゃあ次はユースケで」

「俺は勘弁してくれ」

「ユースケも男の娘になったら?」

「それは絶対に嫌だ」


 俺はきっぱりとそれだけは断った。


「ふう……」

 夕方になって帰路に着くことになった。


 夕食は俺の家で。日が落ちるまでに戻ってくるようにと、母さんから言われている。

 滉介が買った服を、俺が持っている。


 滉介は、よほど気に入ったのか、つばの広い帽子を頭にのっけて上機嫌だった。


「ふんふんふーん」

 少しスキップの足取り。

「転ぶなよ」

「はーい」


 そう言って、前を歩く滉介。


「ねえ、ユースケ!」


 帽子を押さえながら、滉介が振り向いた。背後には、夕焼けが見えている。


「うん?」

「楽しいね!」


 満面の笑みの滉介。

 俺はその顔が見れて満足だよ。と心の内に秘めておいて。


「ああ、そうだな」


 俺は認める。

 そういうことにした。

 滉介は可愛い。愛しささえ覚える。


 俺の唯一無二の、

 幼馴染だ。

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