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非承認ヒロイン  作者: 稲川ひそぐ
第1章 革命編
22/25

第22話 決戦、開幕

 ボクたちは見えない手で押されるようにダンジョンマスターの部屋に放り込まれ、後ろの重厚な扉はバタンと音を立てて閉まった。ボクは威圧感に頭を押さえつけられるような気分になりながら、自分達の敵を見据えた。ダンジョンマスターは、巨大な鎧を身につけた騎士の姿をしていた。右手には巨大なブレードを持ち、左手には自分の身の丈ほどもある盾を持っていた。カブトの方は顔全体を覆うフルヘルム型で、隙間から黒い霧と赤い攻撃的な光が漏れ出していた。部屋全体はレンガ造りで、10メートルほどもあるダンジョンマスターが立っていても余裕なほど天井が高く、直径は100メートルほどありそうだった。階層エレベーターを使ったからよくわからないけど、きっと下の階層も相当広かったのに違いない。

「こ、これが…ダンジョンマスター…」

 ボクは、思わず呟いた。重苦しい空気に、肺が潰されているような気がした。キーラはポカンと口を半開きにし、サクは無表情にダンジョンマスターの姿を見つめていた。反応はそれぞれ違ったけど、目の前のやつを倒すという目標は一緒だった。

「……行くぞ」

 サクの声と同時に、ボクは作戦通りダンジョンマスターに向かって突進した。

「〈ラッシュ〉」

 スキルオーダーして、頭の中で連続攻撃をどう打ち込むかと想像すると、腕がその方向に高速で導かれ、パルスエッジの連続攻撃を叩き込んだ。ボクは連撃が終了した後でしゃがみ込むと、切り上げをたたき込んで今度は連続でスイングした。

「リンちゃん、ダンジョンマスターの攻撃がくるよ!」

 ボクはキーラの声に反応して、〈カウンター〉をオーダーした。ボクがパルスエッジを振り抜いてダンジョンマスターの巨大な剣を受け止める。しかし、パワーがあまりに違いすぎる。無惨に、ボクは部屋の中央に吹っ飛ばされた。視界がグラグラする。

 でも、ダンジョンマスターは休ませてくれない。ダンジョンマスターは、こちらに突っ込んでくる。早い。ダンジョンマスターの体躯からあの速度が出ているとは、とても信じられなかった。

 パルスエッジを構えた直後、ボクはダンジョンマスターの巨大な盾に薙ぎ払われて吹っ飛び、ダンジョンの壁に叩きつけられた。

「うっ……」

 思わずくらっときて、視界がブラックアウトしそうになる。だめだ…しっかりしないと!ボクはパルスエッジを床に突き立てて、立ち上がった。さらなる追い討ちをかけようと、ダンジョンマスターが巨大な剣を振り上げてくる。さながら、ちょっとした塔が立ち上がっているようだった。

 キーラがギフトらしき虹の色のナイフを7本抜き、そのうちの赤色をダンジョンマスターに向かって投げる。赤いナイフはダンジョンマスターの盾にあたるや否や、凄まじい爆発音とともにそれを遠ざけた。クルクル回って、ナイフがキーラの手元に返ってくる。

 二人が牽制してくれたおかげで、ボクはその間に体力を回復することができた。

「よし、まだまだ!」

 ボクがパルスエッジを持ち直すと、ダンジョンマスターはすぐにボクの方を向いて襲ってきた。

「……爆弾を設置する。リンネとキーラはダンジョンマスターの牽制をしてくれ。持っている爆弾は10000個。これを全部壁に取り付けて起爆する。フロアの壁の一面が崩壊した時点で、集中砲火に移るぞ」

「わかった!」

 サクはピッチングマシンみたいにストレージからポンポン爆弾を取り出し、壁一面に仕掛けていく。罪人街での体力作りが生きているのか、体力なさげだったサクがばてることなく走り抜けていく。だが、そんな暴挙をダンジョンマスターが見逃すわけがない。ダンジョンマスターはサクの方を向いた。

「こっち向け!〈シュート〉!」

 キーラはスキルをオーダーして、ダンジョンマスターに青いナイフを投げた。スキルで発生した風の渦を纏って飛んだナイフが、鎧の継ぎ目に命中する。青いナイフを中心に水柱が立ち上がり、鎧を破ろうとする鈍い音とともに、ダンジョンマスターがゆっくりとキーラを見下ろした。その目に宿っているのは、侮蔑に近い感情を感じる光だった。ボクはチラッと、サクの方を見た。……この感じ、まだかかりそうだ。

「キーラ、避けて!」

「うわっ!?」

 キーラはアクロバットをオーダーしたらしく、焦りつつも空中を軽快な動作で舞ってダンジョンマスターとの距離を取った。

「ほら、こっちだよ!」

 ボクはダンジョンマスターを全力で挑発しながら、部屋の中央に誘導するように走りつつパルスエッジを構えた。ダンジョンマスターがとんでもない速さで大剣を振るい、ボクを襲う。ボクは〈カウンター〉をオーダーし、ダンジョンマスターと剣を交えた。ズンッ、と重量がモロに腕にかかる。ダンジョンマスターがさらに剣を引き、今度は突きの構えを取る。

「ッ!」

 わずかに息を止めてから、3回ほどステップして攻撃の範囲の外に外れて回避。しかし、ダンジョンマスターの狙いは別にあったようだ。ダンジョンマスターは、片足をわずかに後ろに引いている。

「キーラ!」

 キーラはボクの声に反応して、ゆっくりと後ろを振り返った。……反応が遅れている。これじゃ回避は間に合いそうにない。ボクは予備動作から攻撃が来る位置を判断し、キーラとダンジョンマスターの間に割って入った。

 ダンジョンマスターは空き缶を蹴り飛ばすかのようにボクを蹴り飛ばした。

「がッ!?」

 凄まじい衝撃と共に、視界が白黒に明滅する。ゴロゴロとボス部屋を転がって、壁にぶつかって止まった。

「リンちゃん、大丈夫!?」

 大丈夫だ、と言いたい。でも、息が詰まって返事ができない。肺に空気が溜まったまま、気道に栓をされてしまったみたいだ。……かなり苦しい。息が吐けないのである。脇腹あたりがズキズキ痛んでるし、肋骨が折れたのかもしれない。

「ちょっと待ってて!」

 キーラが何かゴソゴソと動いているが、視界が動かせないから何をしているかまではわからない。そうこうしている間に、ダンジョンマスターの走る足音がサクの方へと向かっている。

 キーラはボクの脇腹に、何か冷たいものをあてがった。たちまちそこから焼けるような痛みが走り、一瞬だけ眩い光がボクの脇腹を包み込んだ。

「……あれ?」

 痛くない。もう脇腹を触っても、もう痛みはなかった。ボクは、キーラがリヴァイブバーを使ったと言う事実を認識するのに数秒かかった。

「キーラ、それ……」

「だ、大丈夫だよ。攻撃に当たらないよう気をつけるから」

 キーラはあっ、と言う顔をしてから、すぐに苦笑しながらそんなことを言った。……でも、それも一瞬。すぐにスキルオーダーをした。

「〈シュート〉!」

 スキルオーダーによって赤いナイフに風の渦が宿り、キーラがスッと腕を振ると音速で赤いナイフが飛んでいった。部屋の中心あたりまで来ていたダンジョンマスターは、ナイフによって起こされた爆発も物ともせず、サクの方へと走っていく。サクはもうすぐ爆弾を仕掛け終わるようだった。スタート地点に戻ろうとしている。

「このっ……!」

 ボクはすぐにダンジョンマスターを追いかけ始めたが、何せ足のリーチが理不尽なほど違うので全然追いつけない。ダンジョンマスターの剣に青い光が灯ってサクに振り上げられるのと、サクが宣言するのとはほぼ同時だった。

「今から起爆する!耳と目を塞げ!」

 頭がおかしい。そんなことをすれば、サクもろとも消し飛ぶ。しかし、サクは有無も言わせずスイッチを押した。

 ボクは慌ててうずくまって目を瞑って耳を塞ぎ、衝撃に備えた。全方向から衝撃波がボクの体を襲い、引き裂かんばかりに叩きつける。鋼鉄が砕け散る音がした。ダンジョンマスターの鎧の一部が吹っ飛んだのだろう。ガラガラと、壁が崩れる音がする。ボクが目にしたのは、信じられない光景だった。土煙が上がり、何十年もそのままであっただろうダンジョンの最上階の壁の一部分が、崩壊したのだ。……床はだいぶヒビ入ってるけど無事なんだ。これに持ち堪えるってどんだけ丈夫なんだよ。

「…へ?」

 キーラはぽかんとして、その様を見つめていた。さっきの爆発のおかげで、ヘルムと肩の鎧が吹き飛んだダンジョンマスターは多少なりとも怯んでいる。……とりあえず、キーラは無事みたいだ。よかった。ボクはそれを見届けた上で、サクの姿を探した。サクは割とすぐに見つかって、爆発でボロボロになった壁の近くに立っていた。右目の前で左の手を開いている。ボクが駆け寄ると、サクはなんでもないことのように言った。

「……心配するな。ユニークスキルを使ったから無事だ」

 サクの右目が……青く光っている。あれ?紫だけじゃなかったのか?サクが右目から左手を離すと、右目の光は消失した。

「でも、壁が崩壊したらって本当にこいつは弱くなってるの?」

 ボクが聞くと、サクはうなずいた。

「ああ。まず間違いなくレベルダウンはしている。レベル計測ができるからディバインパネルをかざしてみろ」

 サクに言われた通りディバインパネルをかざしてみると、確かにダンジョンマスターのレベルは事前に知っていた100から50に下がっていた。……まだまだボクたちにとっては十分高いけど…レベル100を相手にするよりははるかにマシだ。

「……ここからは短期決戦だ。俺もユニークスキルやギフトを惜しみなく使う。俺が初撃を決めたら装甲の一部が崩壊するから、その部分を一気に狙って攻撃してくれ」

「わかった」

「了解!」

 ボクたちが頷くと、サクは目を瞑って、手を空中にかざした。紫色の魔法陣が現れて、それが空中を回転しながら移動する。すると、その中からサクのギフト、レゾナンスエッジが飛び出した。

「…〈アーマーブレイク〉」

 サクは敵をまっすぐに見据えてスキルオーダーすると、レゾナンスエッジを両手で硬く握りしめて駆け出した。ダンジョンマスターが反応して、剣を横に振り抜く。サクは右目の前で左の手を開いた。サクの右目あたりから、青い光が発生しているのがわかる。避けることもなく、体の横にもろに攻撃を受ける。……いや、体の左側に青い光のベールのようなバリアが発生して、ダンジョンマスターの攻撃を防いでいた。すごい力らしく、バリアは反発してダンジョンマスターの剣を押し下げた。サクはそこからジャンプして、回転しながら落下。一気にレゾナンスエッジを振り下ろしながらダンジョンマスターの鎧の左肩から左足までにかけての装甲を真っ二つに切り裂いた。中から、黒い影でできたボディがのぞいている。

「今だ!」

 サクが声をかけるのと同時に、ボクは一気に飛び出した。

「〈ブレードウィング〉!」

 ボクはスキルを発動し、水色に光り始めたパルスエッジを振り上げた。ボクの体が自分の体の5倍の高さの空中に浮かび、ボクは横にパルスエッジをスイングしてダンジョンマスターにダメージを与えてから地上に戻った。

「〈シュート〉!」

 キーラが3本同時に放った水色、藍色、青色のナイフが、ダンジョンマスターの足元に突き刺さる。水しぶきを撒き散らす真っ黒な氷の柱がダンジョンマスターの足元から出現し、ダンジョンマスターはダメージを受けるとともにぐらっとバランスを崩した。サクもまた、レゾナンスエッジを振り回しながらダンジョンマスターの背後をとって背中を切りつけたり、足元を回転しながら連続で薙いでダメージを与えたりして、戦闘に貢献していた。

「〈ラッシュ〉!」

 ボクはスキルオーダーを行い、ダンジョンマスターの足元でスキルを発動した。だが、ダンジョンマスターも黙って攻撃を続けさせてくれるわけがない。ダンジョンマスターは剣を低い位置で回転させ、ボクたちを遠ざけた。そして、キーラに向けて走り込んでくる。

「はあッ!」

 ボクは素早くその間に割って入り、パルスエッジを上から下に振りかぶった。ダンジョンマスターの剣とボクのパルスエッジが火花を散らし、金属の軋む音が部屋に響いた。腕に恐ろしい負担がかかり、このまま戦い続けないと潰されることを瞬時に理解した。レベルが下がってもこの腕力……ダンジョンマスターの恐ろしさを思い知らされる。ボクは、必死に抵抗した。

「…まだ負けられるかあああああああ!」

 ボクは絶叫しながら、回れ右をしながらパルスエッジを背中の方に回し、剣を弾き返した。そしてその勢いで一気に走り込み、水色に光っているパルスエッジを振り抜いた。轟々と衝撃波が戦闘している空間に走り、サクとキーラは押し返された。ダンジョンマスターはその場に踏みとどまろうと躍起になっているが、左手の盾が邪魔で転びそうになっている。

「リンネ、しゃがめ!」

 ボクはサクの声に反応して、地面にしゃがんだ。3秒後、ビュンッ、と言う音がして、サクのレゾナンスエッジがボクの頭上を通過していった。レゾナンスエッジはボクの頭上を通った後で高度を上げ、ダンジョンマスターの顔面に直撃した。それによってダンジョンマスターが少しひるみ、動きが緩慢になる。その後でレゾナンスエッジは回転しながら再びサクの手の中に戻っていった。

「〈ラッシュ〉!」

 ボクはパルスエッジを両手で構えると、スキルオーダーをしてダンジョンマスターに向けて走り込んだ。ダンジョンマスターは挙動を見ても弱ってるはず…ボクは全身全霊のラッシュをダンジョンマスターに叩き込んだ。

「はあああああ!」

 右、左、右、斜め上、下段!


 ズバンッ!パーン!バシーン!ジリリリリリ…


 ラッシュの連撃についてきて、ダンジョンマスターも自分の持つバカでかい剣を振り回して応戦してくる。最後の一撃は、ダンジョンマスターも全力を出してきたらしく一瞬だけ鍔迫り合いになった。が、パワーの差で後ろにずり下がる。その間も、サクがダンジョンマスターの攻撃を、キーラはサクとボクの支援をしてくれていた。…こんなところでへたってられない!

「まだまだ……!〈ラッシュ〉!」

 ボクはもう一度スキルをオーダーした。足に力を込め、一度開いたダンジョンマスターとの距離を一気に詰めて襲い掛かる。

 左回転、左回転、左回転、上薙、突き、下段、しゃがみからの切り上げ!

 それらの攻撃を、ダンジョンマスターは盾と剣で防いだ。驚くほど鮮やかに、俊敏に、力強く……。敵の強さに心が折れそうになった。最後の一撃が終わった瞬間、つまりボクが次の〈ラッシュ〉を発動した瞬間に、ダンジョンマスターの剣による強烈な〈カウンター〉が発動し、大きく振りかぶられた剣から放たれた斬撃がボクを打ちのめした。吹っ飛ばされた勢いで何度もゴロゴロ転がり、壁にぶち当たって止まった。右肩から左太ももにかけて、割とざっくりやられた。〈ヒロイン〉で体が増強されていなければ、最悪死んでいたかもしれない。ダンジョンマスターはしつこい羽虫でも見るようにこちらを睨みつけると、思い切り剣を振り下ろしてきた。

「させるか…!」

 サクが瞬間的に間に割り込み、レゾナンスエッジを頭上に掲げることでその攻撃を防いだ。瞳孔が開ききった紅い目はギラギラ光り、彼の必死さを物語っていた。ユニークスキルを使う余裕もないぐらい、助けに来るのに必死だったのか……。本当に申し訳ない。

「…リンネ、立てるか?」

「…ちょっときつい、かも」

「…早くヒーリングをオーダーしてからリヴァイブバーを使え。それまで前線は俺が引き受ける」

「で、でも…」

「俺だって、半端な鍛え方をしているわけではない。…わかったら早く動け。もう腕が限界だ」

 確かに、ダンジョンマスターの剣はボクでも相当重い。サクにはどれだけの負荷がかかっていることだろう。ボクはうなずき、〈ヒーリング〉をオーダーした。多少傷口からの出血がマシになる。でも、まだまだ止まらない。うめいているところに、傷口へリヴァイブバーを押し当てた。一瞬バーが緑色に光って自分のものじゃない血の匂いが漂った後、傷口が一瞬で塞がった。ほんと、どうなってるんだよこれ…。

「フェードに感謝しないとな…」

 ボクが回復している間にダンジョンマスターを引きつけたサクがレゾナンスエッジとベレッタ、リボルバーを駆使してダンジョンマスターの鎧や盾に傷をつけている。ダンジョンマスターが剣を振り回しても、サクは右目の前で手を開き、右目を青く光らせて防ぐ。たとえ攻撃が当たっても、バリアで吸収される。それでなくても、サクは〈アクロバット〉を発動しながら戦闘しているから攻撃は側転や宙返りなどでいとも簡単にかわされてしまう。サクは敵が攻撃の直後隙を作るとすぐにレゾナンスエッジを投げ、リボルバーとベレッタのクイック・ドロウを放ち、リロードを済ませてレゾナンスエッジをキャッチ、目を青く光らせて、飛んでくる攻撃をバリアで受け止める。とはいえ、肩で息をしているところを見ると、サクも相当消耗しているらしかった。…そりゃそうだよね。もう戦闘が始まってから1時間半ぐらい経過している。疲れないほうがおかしかった。しかし、再びベレッタをダンジョンマスターの頭に向けて乱射する。黒い髪が揺れ、レゾナンスエッジが攻撃的に光った。回転跳びを繰り返しながら銃弾を1発たりとも外さずに鎧の隙間に当て、空中からレゾナンスエッジを振り翳しながら躍りかかって鎧の一部に深い傷をつける。

 いや、見てる場合じゃない!ボクが行かなきゃ!

「サク、交代するよ!」

 サクがその声に反応して、後ろにステップで後ろに下がる。ボクがパルスエッジを振りかぶり、そのバトンタッチを果たした。ボクが猛然と切り掛かったその勢いをダンジョンマスターは物ともせず、軽く剣を振り上げるだけでやり過ごした。でも。

「〈ラッシュ〉」

 ボクは既にスキルオーダーをしていた。また戦闘態勢に入る。これだけじゃない。ラッシュが終わる瞬間、〈カウンター〉をオーダーして反撃の剣を弾き、逆にダンジョンマスターの腕を切り付けた。後ろからキーラが藍色のナイフを投げて、さらにサクがレゾナンスエッジを持ったまま突っ込んでいく。ダンジョンマスターは影の刃に切り裂かれ、レゾナンスエッジでよりその傷を深くされた。

 だが、ダンジョンマスターもこんなことをされて黙っちゃいない。ダンジョンマスターはボクの左側から盾で殴りかかってきた。ボクは重ねて〈カウンター〉をオーダーし、拳を受け止めてからはね返した。続け様に全身全霊の力をのせた一撃を盾に向けて放つ。盾は下がったものの、今度は剣がボクに襲いかかってきた。

「うわっ!」

 ボクはオクスの構えで受け止めたが踏ん張りが効かず剣を叩き落とされ、攻撃をモロにくらう。直前にリヴァイブバーをストレージから取り出し、しっかり左手に持った。立ち上がれないぐらいの大ダメージを左腕が受けたのがわかり、すぐにボクはリヴァイブバーの蓋を開けて放り投げた。黒い石がちょうど傷に当たり、ボクは再び全快する。……確かにこれは……フェードの感覚もバグりそうだ。しかし、これで2本使い切ってしまった。もうスキル以外に回復手段はない。ボクがどうしようか思案していると、サクは右手にレゾナンスエッジを、左手にリボルバーを持った。

「…総攻撃だ」

 サクはそう言いながら、自分で駆け出さんと軽く屈伸している。

「おっけー」

「リンネ、キーラ、それぞれに指示がある」

 こちらも本気とばかりに、ダンジョンマスターの体から黒い腕が無数に伸び、ボクたちに向けて飛んできた。

「…回避しながら聞け。リンネが突っ込んでダンジョンマスターの頭部を攻撃しろ。俺が援護射撃でダンジョンマスターの動作を妨害する。キーラは引き続き、奇襲と後方射撃で俺たちの援護を頼んだ」

 サクはそれだけ言うと、ボクにゴーサインを出した。

「よしっ…」

 ボクは息を整えると、ボクは飛んでくる黒い腕をパルスエッジを振るう事で回避した。でも、やっぱり捌き切れない。ターゲットが多すぎる。とても、パルスエッジをまともに振るような状態ではなかった。ついに、飛んできた一本の影の腕にパルスエッジを絡め取られてしまう。パルスエッジは、ダンジョンの壁に空いた穴から王国のどこかへ投げ飛ばされてしまった。ボクは、ストレージにいつの間にか入っていた、フェードが渡してくれた剣を取り出す。

「リンネ、構わず進め!俺たちが援護する作戦だろう!」

 サクのその声と同時に、レゾナンスエッジが目の前に迫ってきていた数十の腕を一掃した。残った腕はサクが行なったクイック・ドロウでぶち抜かれている。至近距離は全滅だ。キーラは目にも止まらぬスピードで腕たちの背後に回り込んでいた。距離を保って疾走しながら、両手の指の間全てにギフトではないナイフを挟んで構えている。

「〈シュート〉!」

 スキルオーダーをしながら、キーラはスキルの力で青い光を纏ったナイフを一斉に空中へぶちまけた。ナイフは一糸違わず影の腕に突き刺さり、消滅させた。

「あーっ、間違えて全部投げちゃった!?」

 キーラが慌てたような声で叫んでいる。残った影の腕とダンジョンマスターが一斉にキーラの方を見た。

「あばばばばばばば!?」

 ダンジョンマスターが剣を振るい、影の腕はキーラを捕縛しにかかった。ダンジョンマスターが巨剣を構えて、キーラを襲う。

「っ!」

 キーラは巨剣をアクロバットで回避し、ギフトの7本のナイフを持ち直して臨戦体勢になる。

「リンちゃん、早く!」

 仲間の奮闘のおかげで、ボクはダンジョンマスターの足元にたどり着くことができた。

「〈ブレードウィング〉!」

 頭だ……頭を狙わないと……!ボクはダンジョンマスターの頭を狙って飛び上がる。ダンジョンマスターの剣が頭上から振り下ろされ、ボクはブレードウィングでその一撃を相殺する。あまりに強烈な一撃にボクはダンジョンの床に叩きつけられ、続け様に飛んできたダンジョンマスターの拳を転がって回避した。……やっぱり、一筋縄じゃいかない。

「〈ブレードウィング〉!」

 ボクはダンジョンマスターの足の間をスライディングしてすり抜け、飛び上がった。ダンジョンマスターが一瞬で振り返って轟音を立てながら剣を振り下ろし、ボクの剣は鋭い音を立てて折れた。ボクも体が床に叩きつけられ、意識が遠のいた。ダンジョンマスターがこちらを踏み潰さんと足を振り上げるのが気配でわかる。ボクは慌てて立ち上がり、ステップで回避した。それとほぼ同時に、ダンジョンマスターが連続で突きを放ってきて、奴の剣のポイントが頬や太もも、腰を掠める。

「ッ!?」

 神経に逆巻く、焼けるような痛み。何度も何度も、ダンジョンマスターはこちらに向けて剣を振りかざしてきた。ボクはステップや鞘に入っているインフェルノを使って攻撃をやり過ごす。……前より動きが早くなってる。早く対処しないと、スタミナが尽きて殺されるのは時間の問題だ。ダンジョンマスターは突きをやめて、さらにボクに向けて居合のように剣を振るった。

「……」

 サクが腕と格闘しながらリボルバーをダンジョンマスターの脇腹に向けるのが見えた。そして、右目の前に左手をかざす。その目が青色に光り始めると、彼は一度手を閉じてまた開いた。……その目は先ほどまでの青色ではなく、ルビーのような赤色に光っていた。サクは若干目を細めてから右手でリボルバーのトリガーを引き、ギラギラ赤く輝く銃弾を発射した。


キュゥゥゥゥッ!


耳をつんざくような高い音が聞こえ、銃弾が当たって小さな穴がダンジョンマスターの鎧に開いていた。中身を抉り取るような、切り裂くようなそんな音がしたかと思うとその体の反対から銃弾が飛び出し、さらにボス部屋の壁も突き破って空高くへ飛んでいった。もちろん、そんな弾丸は強力でないわけがない。ダンジョンマスターの腕が、まるで時が止まったかのように静止した。


ーーーーー今しかない。


 ボクはインフェルノの柄に、願いと共に手をかけた。

「……これで、決める」

 決意と共に〈ヒロイン〉の力が高まり、インフェルノは鞘からするりと抜けた。煉獄の炎が、ボス部屋を赤々と照らす。……あとは、斬るだけ。ボクは両手でインフェルノを構えた。

「……」

 心がかたまっていくと同時に、インフェルノの刃が、体の周りが、噴火のように温度のボルテージを上げていく。


……ドクン


 心臓から送り出される血液が熱い。目を見開き、ボクは最高級に高まっている瞬発力で一気に空中に飛び上がった。ダンジョンマスターの頭の前まで行くと同時にスキルをオーダーする。

「〈ブレードウィング〉!」

 ボクは集中力をかき集め、目の前にいるダンジョンマスターの顔を見つめた。その虚な赤い光の中には、インフェルノを振り上げるボクの姿が映っていた。自惚もいいところだけど、無力な自分から……白鐘拓也から、リンネに変われたんだなって思えた。

「はあああああっ!」

 ボクはちょっとスナップをかけてからスキルの力を解き放った。ゲーム脳のボクにはわかる。これから起こることが…

ビュンッ!

 ボクの体は、大きく唸りを上げて空中で炎と共に一回転した。その一回転でインフェルノはダンジョンマスターの頭に深々と突き刺さり、その威力が絶大であったことを示していた。そのまま竹を割るように腰あたりまで切り裂くことができた。…でも、まだ足りない。これじゃ、全身を両断できるほどの力じゃない。ダンジョンマスターが、こちらに腕を伸ばしてくる。

「させないから!」

 キーラが全身でダンジョンマスターの腕にタックルをかまし、黄色いナイフを突き刺す。そこから光の柱が立ち上がって、ダンジョンマスターは怯んだ。


 ……ドクン


 体を熱くし、意識を燃やす力は徐々に体という器から溢れ始め、体の周りに光でできた羽が舞い始める。ボクはインフェルノの刃の向きを水平に変えると、右向きに体ごと全力で振り抜いた。ダンジョンマスターの影のボディの右側がそれで裂けた。火の粉と共に影の液体のようなものが散り、床にこぼれ落ちる。インフェルノの刃から真紅の火花が飛散した。ボクは回転の勢いでそのまま刃をダンジョンマスターの左半身に叩きつけた。そのままぐんぐん力を込めて、左半身も切り裂いていく。体の中心に向けて、ボクは無心に力を込め続けた。ダンジョンマスターの体の中から、ボクを遠ざけるようにしてどんどん黒い風が溢れてくる。

 ……でも、負けるわけにはいかない。ここでボクが折れれば、誰かが理不尽に傷つき、悲しみ続けることになる。


ドクン、ドクン、ドクン……


 心が白熱する。……もう、止まれない。

「いい加減に観念しろおおおおおおおおお!」

 怒りのような、興奮のような、比喩の難しい感情と叫びが噴き出すと共にインフェルノの刃がさらに熱を帯び、ボクの視界も白さを増した。歯を食いしばり、もっと力を込める。全身の筋肉が強張り、視界が震える。ずぶずぶと沈むように、インフェルノはダンジョンマスターの左半身を切り裂いていった。……そして、右半分を裂いた傷と、ボクが今ダンジョンマスターを切り裂いている傷がつながった。

「うわっ!?」

 ボクは勢い余って地面に落っこち、慌てて受け身を取った。それと同時に、ダンジョンマスターの左胸から黒い結晶が現れ、それがボス部屋の床に当たって粉々に砕け散った。同時に、墨汁を水に溶かすようにダンジョンマスターの体もダンジョンの床から発生していた腕も、全て光の欠片となって散っていったのだった。

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