第20話 暴君アロガン
今回はアロガン視点です。
……凶報だ。どうやら罪人街で、カケスに指示していた黒い悪魔の始末が失敗に終わったらしい。
「なぜ貴様は子供1人殺せないのだ!」
金左衛門も派手に動いたはずなのに……。頭痛がする思いだった。無能すぎる下僕たちは、転生者ひとりうまく殺せないらしい。
「…あのサクという子供が賢すぎるのです。おまけに取り巻きの2人は、前世が……」
報告に来た下僕が、土下座の姿勢のまま説明しようとしてくる。
「いい、ドブネズミどもの前世など聞きたくもないわ!」
私は、自分の顔に皺がよるのを感じた。ここは私が統治する王国の城にある王室。権威の象徴として、城の一番高いところに存在している。……愚民どもを見下すのは、最高の感覚だ。
「……して、ギールは何をしていた?」
「金左衛門を送り込んだのが悪かったようで、談義に花を咲かせているタイミングで冤罪を証明されてしまったようです」
ふざけている。あまりにつまらない。私は怒り任せに拳を叩きつけた。私の拳から放たれた魔力で、哀れな机は灰となる。
「どいつもこいつも使えない奴ばかりだ…!どれだけ私に苛立ちを覚えさせれば気が済むのだ!?」
「…実はもう一点、悪い報告が…」
「今度はなんだ!?」
「…転生者たちが、姿をくらましました……」
…あり得ない。……こんなことが、あっていいはずがない。
「一匹残らずか?」
「…はい……」
下僕が怯えているのが、ここからでも伝わってくる。
「……どういうことだ、説明しろ」
怒りのあまり、声が深く沈み込んでいくのを感じる。
「つい先ほど、転生者たちの部屋を確認するともぬけの殻になっていたのです。抜け出したものを見た人間は見張りの中にもいなかったそうです……」
「……強い奴を殺し尽くした私の数少ない楽しみを失う大問題だというのに、わかっているのはたったそれだけか?」
ムラムラと、怒りが湧き上がってくる。視界が狭まり、壁が揺らいで見えた。
「は、はい……」
下僕の貧弱な肩が震える。
「使えんやつめ!」
「ひっ!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!」
私はもう我慢できなかった。報告に来た下僕の胸ぐらをつかんで吊り上げた。
「嫌だ!俺は死にたくないです、家族もいます!レベルだってつい最近90になって、やっと親に仕送りできる程度には稼げるようになりました!城の雑務だって犬のようにこなします!お願いです、殺さないでください!」
……うるさい。所詮はレベル90、私の570には届かないゴミのくせに涙を浮かべるな。人間のようで反吐が出る。
「私に…」
無詠唱魔法で焼き払う。黒焦げになった骨が、バラバラと床に落ちた。
「命乞いが無意味だということは、一番貴様がよく知っているだろう?」
炭が、部屋に飛び散った。……全くもって、穢らわしい。私が晴れない鬱憤をどこにぶつけようか部屋を見渡していると、今まで空気のようだった軍師のマークが私に言った。
「…おそれながら、私どもに一つ考えがございます」
「……言ってみせろ」
黒焦げのゴミをチラチラ見ながら、軍師は告げた。
「今回の件について、庭園に結界が張られた形跡がありました。フェードというチビの娘が取得しているスキルに隠密系のものがあったので、おそらく深夜にうろつくことが多い奴が原因かと」
「なんだと?ではさっさと冤罪で死刑に処せば良かろう!」
「……しかし、あのチビを探そうとしても一向に見当たらなくなってしまったのです」
マークが眉を顰めながら言うその挙動ひとつ一つに、腹が立ってしまう。こいつも消し炭にしてやろうか?
「……繋がっている可能性があるものとしては、やはり罪人街にぶち込んだ黒い悪魔と『非承認ヒロイン』だと思われます。決定的な証拠として、強力な魔力の移動が罪人街より確認されています」
「……なるほどな」
……我々の邪魔を懲りずに行うとは……これは、刑期を早めてくれと言っているようなものだな。
「さっさと奴らの処刑の準備を開始しろ!」
私が怒号を飛ばすと、すぐにマークは動き始めた。
「……少しいいか?」
私がゴミたちに対する怒りを握りしめた拳にこめていると、軍師と入れ違いのように傲慢そうな顔をした子供が部屋に入ってきた。腰にはレイピアを下げている。確かヤマトとかいう名前だったか。捨て駒の名前など、いちいち覚えてはいない。
「……どうした?」
「レンズを確認してきてもいいか?先日街で暴動が起きてたこともあって少し気になってる」
レンズ…見張りの班が使っている照明魔法のことか。国のいたる場所を監視し、強力な力を持つ者、あるいは罪深き弱者を見つけ出す。しかしなぜこのタイミングなのだ。
「なぜだ?」
「……レンズの一部が写っていないという報告を受けた」
ヤマトが表情の読めない声でそう言う。…レンズの動作不良だと?そんな報告が私のところに上がった覚えはない。
「私のところにそのような報告は入っていないぞ」
「そりゃそうだ。今俺が聞いて、そのまま伝えに来たからな」
その生意気な口調に、私は思わず頭に血が昇ってきてしまう。しかし、と私は思い直した。……まあ、所詮このガキも私たちが煽てて調子に乗らせた転生者の一人だ。別に大層なことを企む力もないだろう。何かあればその時だ。得意顔で作戦を実行しているこいつを叩き潰すのも面白いだろう。あの『非承認ヒロイン』と黒い悪魔を潰した暁には、こいつを標的にするとしよう。
「うむ、行くが良い」
「はっ」
胸に手を当てて深く頭を下げると、ヤマトは去っていった。
「天才剣士気取りも、所詮はこの私の掌の上だ。天才的な戦士は私一人で十分なのだからな」
優越感で、少し私は気分を直すことができた。久しぶりに、あの自分本位の剣士に感謝するとしよう。
「……さて、私は雑草掃除を始めなければな」
私はせっせと、政策を立て始めた。と言っても、考えることはそう多くはない。殺すための調子に乗っている転生者を国の外から連れ戻せばいいだけなのだ。
「所詮はどぶねずだ。金や物で釣ればすぐに帰ってくる」
今王国に入った転生して一ヶ月以内の転生勇者には100万ジャムを贈呈、その他望むもの何でも一つを与える。と、条例を出すための契約書に自分のユニークスキルの名称と共に記入した。これで手続きは完了。もちろん、100万ジャムも望むもの一つも、与えるつもりはない。私が転生者どもに与えるのは束の間の夢とその後の正当な裁きだけだ。
私の一つ前の世代の王がこの国を創った際、ダンジョンマスターから受け取った契約書。ダンジョンマスターの一つの条件をのむことで、なんでも好きな法律を決定することのできる破格のアイテムだ。これさえあれば、力なき不必要な人間、あるいは私にとって邪魔になる存在を合法的に消すことも可能だ。…そして私は、力は仲間のためのものなどとたわけたことを抜かす先代の王を暗殺してユニークスキル〈パペットマスター〉を使用し、国の要人や兵士たちを全て手懐けた。一部意志の強いものには洗脳魔法を使い、無理矢理従わせることで私に逆らう勢力を無くすことに成功したのだ。
「……奴らだって、先代の王と同じだ。邪魔立てしたやつはすぐに始末してやる」
先代の王を殺したように。華麗に勝ってやる。




