第18話 クソがアアアアアアア!
面会の時間は3分。サクは、普段からは想像もつかない早口で、矢継ぎ早にフェードに質問していた。最近出会った人間、行った行動、王国でユニークスキルが消えた時、どこで何をしていて、何を見ていたか、など。正確な時間はわからなかったものの、サクはおおよその見当をつけようとしていたようだった。
「……じゃ」
フェードが面倒くさそうに、哨戒班員に連れられて門から出て行くのを、ボクたちは見ていた。門が閉まると、サクはボクの方を見た。
「…今のフェードの報告で、おおよそ犯人は見えた」
えっ、今の報告で?
サクはボクに説明を始めた。
「…まず、これは昨日の時点で分かったことだが。ミサキさんは間違いなく、監視塔で一度犯人と顔を合わせている」
「なんでそんなことがわかるの?」
サクはボクの方を見た。
「…まさか、何も気づかなかったわけではないだろう?」
「いや、さっぱり…」
「…そうか。傷だらけの扉に見覚えはないか?」
そういえば、サクはそんなものを見ていた気がする。切り傷のようなものだったよね、確か。
「傷だらけの扉がどうしたの?」
「…あの傷は、コインによってついたものだと推測できる」
「だとしてもあんなに大量に傷がつけられるわけが…」
不可能だ。人間がどんなに頑張っても、短期間かつ一度の戦闘であんな傷がつくわけない。
「…大量のコインが全てまとめて一つのギフトだとしたら、説明がつかないか?」
なるほど、ギフトなら、一斉にストレージにしまうこともできる。
「犯人はミサキさんに化けて行動するために、本物のミサキさんの動きを制限し、作戦を決行する間に部屋で拘束しておく必要があった」
「だから戦ったってこと?」
ボクの問いに、サクは頷いた。
「…ああ。そして犯人は、完璧な口封じの方法を使っていた。…この辺りも含めて、タイミングを見計らってから推理を発表しようと思うが、賛成か?」
答えは決まってる。ボクは大きく頷いた。
「もちろんだよ」
今日に入ってから、食堂でのいじめは深刻化していた。権力者が監視塔に引っ込んでギール班長と話をしているその間でもなお、特定の数十名からのサクへの…そしてボクへの暴力と罵詈雑言が絶えることはなかった。他のものは遠巻きにボクたちを見つめていたが、ボクたちのことを非難の目で見ていることに変わりはなかった。
「サクはやってないんだ!本当なんだよ!」
ボクが必死でサクを庇っていると、体格の良い男に投げ飛ばされて食堂の壁に叩きつけられた。キーラが駆け寄り、ボクを助け起こしながら言った。
「リンちゃん、辛いのはわかるけど…諦めないと。サクはみんなのユニークスキルを消しちゃったんだから」
殴られて目を瞑っていたサクが、静かに開眼した。彼は、探偵の目をしていた。
「……種明かしを始めよう」
「はあ?何言って…」
「割り込みは認めない!!」
静かで威圧的なオーラを纏い、周りの人間に呼吸さえ忘れさせるような声で。サクの一喝で、周りの人間は黙り込んでしまった。サクは1人淡々と、推理をキーラに向かって述べ始めた。
「まずお前は本物のキーラではない。なぜなら一人称が違うからだ。…罪人街に入った初日の夜からキーラが不定期に一人称を変えていたからずっとおかしいと思っていたが、これなら説明がつくだろう?」
「証拠は?」
キーラが心外だという風に尋ねると、サクは動じることなく答えた。
「…本物が昨日、ハッチの下から発見されたことだな」
サクが言うと、キーラは固まった。
「なっ…!?」
〜昨晩〜
ボクたちは哨戒班の皆さんに協力してもらって、変身魔法でボクとサクに変身した哨戒班員に房に入ってもらい、代わりにボクたちは変身魔法で哨戒班員になりすましてハッチまで向かった。
そしてハッチを開けると、ハッチの中から、体が一ミリも動かせないように縛られて猿轡を嵌められ、目が獣のようになっているキーラが発見された。その体には、無数の陶器のかけらがついている。
「…気をつけて、この目は解いた瞬間噛み付いてくる目だよ…」
まずギール班長が音響妨害の隠密スキルを使って周りに音が漏れないようにした。そしてキーラの猿轡だけを外し、ギール班長が常備している非常食をキーラに食べさせ、なんとかキーラは正気に戻ってくれた。今までの事情を説明し、キーラは納得してくれたようだった。
「あたしが縛られてる間にそんなことがあったんだ…。…それで、ユニークスキルは戻ってくるの?」
「まだ誰にもわからないよね。銀一さんは、一人ひとつもらった宝物だし、未練を晴らすためにも取り戻したいってさ」
ボクのその一言が、状況を動かすことになった。
「…一人ひとつ?」
サクの表情が変わる。サクが独り言のように呟いた。
「…ユニークスキルはそもそも、一つしか所持できないのか?」
そう言われてみれば確かに疑問だ。みんなユニークスキルが一人一つしかないと思っている。でも実際には、そんなことを神様から告げられているわけじゃない。
「確かに、ボクっていうユニークスキルを二つ所持している反例がある。ユニークスキルが一つしか所持できないという仮定は成り立たないね」
場の空気が一気に張り詰めた。サクが血相を変えてボクに言う。
「…聞いていないぞ。お前が持っていたのは〈ヒロイン〉だけではなかったのか?」
サクには確かに一回もこの話をしていない。サクにユニークスキルを見られる瞬間があったとすれば、それはサクとキーラも含めた三人でステータスを確認した時だ。そういえば、ボクがステータスを確認した時、〈ハンドレッドアイズ・ラッカー〉は表示されてたっけ…?
「……お前のスキル一覧には、〈ヒロイン〉しか表示されていなかったぞ」
サクが顎に手を当てて、思考モードに入りながらそう言う。
…もしかして、ユニークスキルを二つ持っていたら、その片方が表示からもみ消されるとか?
「…仮に、相手のユニークスキルを削除できるユニークスキルを持っているやつが存在するとして、そいつが二つ目のユニークスキルを所持していたとしたら…」
自分で言いながら、鮮明に仮定が浮かび上がってくる。そうだ。表示されるユニークスキルが一つだけだと言う前提が成り立つとすれば、もう一つのスキルでカモフラージュして誰にも怪しまれることなく行動できる。問題は、それが誰の行動によるものかと言うことだ。
「表示するユニークスキルを切り替えて罪人街に潜伏したら、その可能性も十分に考えられるね…」
キーラが考え込むように呟いた。
「……キーラ、お前、前々から思っていたが何か隠しているな」
サクがそう口にした瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「何も…根拠は何?」
キーラがサクの言葉を使う。その声からは、明確に焦りの色が見てとれた。
「…一番初めに緑の手の女についての話が出た時、お前は他の人間が力を失ったと言っている中、一人だけ『とられた』と言った。失われたユニークスキルの行方がわからない状況の中、お前だけがなぜか明確に、ユニークスキルが他の人間の手に渡ったことを知っていた。これは明らかにおかしい。俺がお前に目をつけたのもそれがきっかけだ」
キーラが何かを言いかけるが、遮るようにサクは続けた。
「ついさっきも、お前は表示するユニークスキルの切り替えが可能なことを知っていた。ユニークスキルを二つ持っていないと知りようもない事実だ」
サクの発言がピリオドを打つたびに、部屋の空気がどんどん深く、重くなっていく。
「そしてお前は緑の手の女が出る前日、ずっと自分のことを見ていてほしいと言ったな?なぜこのタイミングで意味深な発言をしたのか俺は引っ掛かっていたが、お前が緑の手の女本人で何かしらの力が制御できないようになる外界的コンタクトを取られていた故のものだとしたら…この発言にも十分説明がつく。……これが根拠だが、どうなんだ?」
「……」
キーラが黙り込んだ。場の空気が、冷え込んでいくのを感じる。不安を煽る寒さの中、ボクはサクとキーラの二人を交互に見つめた。ギール班長が言った。
「…事件発生当時、俺は全ての収容している人間のディバインパネルを見張っていたが、常時発動で気配がしないのものを除いてどれからもユニークスキルを発動している雰囲気はなかった。このことについてはどう説明する?」
「…本人の意思を介して発動していないユニークスキルは、発動したカウントにならない可能性を俺は考えている」
ボクは思い当たった。
「そういえば、哨戒班の人たちは常時発動のユニークスキルを持ってるボクみたいな人にはユニークスキルを使用した罰を加えてるの、見たことないな…」
「…それさえ刑罰の対象に加えると、今度は俺たちの人間性が危ぶまれるからな」
ギール班長が苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「…リンネが言った通り、常時発動スキルは本人の意思とは関係なく発動している。だから仮に、俺が先ほど言ったように『キーラが緑の手の女本人で何かしらの力が制御できないようになる外界的コンタクトを取られていた』とすると、本人の意思でユニークスキルが発動したわけではないからカウントされなかったと考えれば納得がいく」
サクは淡々と説明した後で、キーラの目を見つめた。
「あと質問しておきたいことが一つある。キーラ、お前のユニークスキルは何だ?」
びくりと、キーラの双肩が震えた。
「せ…〈千里眼〉だよ。城から脱出したリンちゃんたちを見つけるのに使ったのもそれだったし…」
ギール班長の顔色が変わった。…〈千里眼〉は一番初めの被害者がなくしたはずのユニークスキルだ。なぜキーラが持っているのだろう。
「…〈フェアザンメルン〉ではないのか?」
ギール班長が威圧感を前面に押し出すようにしてキーラに言った。
「なんで…あっ…」
キーラが少し喋りかけて、しまったという顔をした。サクは表情が読めなかったが、なんとなくこの展開は読んでいたらしかった。
「…俺の推察は、キーラは王宮に召集がかかった日に逃げた俺たちを追って玉座の間から脱出した。見張りの塔が何本かあったが、お前はおそらく逃げた直後それに登ってユニークスキルを”収集”したというものだ」
「でも、あの塔は最低でも30mはあるよ?普通の人間に登れるわけ…」
「…普通の人間ではないこいつなら、可能だ」
ボクの言葉を遮るようにサクがそう言いながら、キーラの綺麗な肌を見つめる。
「…この筋肉のつき方、明らかに長距離のものだけじゃない。キーラの体を見るに、主に鍛えられているのはボルダリング選手などがよく鍛える筋肉だ」
キーラは小柄な上に身軽、そして身体能力も高い。そんな奴がボルダリングジムにでも通っていて、かつ何かしらのスキルを使って塔に登ったなら一瞬で頂上に達するのも不可能じゃない…っていうのが、サクの推察らしい。そして頂上に辿り着いたキーラはユニークスキルを発動して、見張りのユニークスキル〈千里眼〉を奪い去った。そして奪った千里眼を使用してボクたちを発見し、全力疾走して追いついてきたというなら…納得がいく。
「……はあ、やっぱりサク相手じゃあ隠せないなぁ…」
キーラは悲しそうにそう言った。
「…全部、その通りだよ。初日の自由時間、罪人街の外で人が処刑されそうになってるのが見えたんだ。あたしとしてはいてもたってもいられなかったんだけど、でもこの身だから助けに行けなくて。その時に白いサクみたいな人…確かカケスっていう名前の人だったかな。その人が言ったの。『彼らを助けたい?』って。うんって言ったら、『僕なら今すぐ彼らを助けてあげるけど、君は僕の言うことを何でも一つ聞かなきゃいけない』って言われたの。頷いたらカケスさんはコインを弾いて、処刑場にいた処刑人を倒しちゃったの。それでその人たちが助かった。そしたら…その日も、次の日も、力に制御が効かなくなって…」
それで夜に暴走したわけか。街でのユニークスキルが消失する事件も、これが関与していると考えていいだろう。
「みんなのユニークスキルを盗っちゃってごめんなさい!あたし、なんて言えば…みんなの顔を見れないよ……」
キーラが涙をボロボロこぼしながら、土下座した。重い沈黙が降りて、
「………処遇を決める。房の仲間と哨戒班長室に来い」
冷淡にギール班長は言い残すと、黒い鉄塔に向けて歩き始めた。
ギール班長に連れられて入ったのは、かなり広い会議室のような部屋だった。壁のほぼ全体が黒張りで、部屋全体が暗い印象を与えた。
「…まず俺が問いたいのは、ユニークスキルの返却は可能かどうかだ」
「…あたしにはまだわからないです。この力自体が扱いきれないものでしたし…。それに、スキルスフィアは全部カケスさんが回収しちゃったみたいなんです…」
キーラはかなり沈んだ声でそう言った。
「スキルスフィアとはなんだ?」
「…あたしのユニークスキルを使用して相手のユニークスキルを取り出した際に、手に入れることのできるアイテムです。体に取り込めばそのユニークスキルを入手することができます。ストレージにいくはずなんですけど、いつの間にかカケスさんのストレージと共有されていたみたいで、私のディバインパネルの方には行きませんでした」
「…つまり貴様のユニークスキルは相手のユニークスキルを盗むものではなく、ユニークスキルをアイテム化するものだった…と言いたいわけか?」
ギール班長の言葉に、キーラはこくりと頷いた。なるほど、それならキーラのユニークスキルの表示もディバインパネルから消えていたことにも説明がつく。カケスは最後にキーラのユニークスキルもスキルスフィアにしてストレージにしまわせ、自分のものにしたわけだ。
「…カケスが絡んでるならことは相当厄介ッスよ。班長、どうするんッスか?」
ミサキさんに言われて、ギール班長はキーラの方を向いた。
「カケスの所在地は分かるか?」
ギール班長は鋭い目つきをより一層鋭くしてキーラの目を真っ直ぐに見つめていた。
「…ちょっとだけなら…」
「…それで十分だ。すぐに摘発を…」
「…もう少し、泳がせてもらっていいか?」
サクがポツリとそう言った。
「…調子に乗っている奴の方が、足を掬いやすいものだから」
〜サクが推理を披露中の現在〜
「そして、協力者の推察も容易かった。服が擦り切れていた上に、頭に蜘蛛の巣が絡まっていたからな。お前の仲間の詰めの甘さのおかげで、随分と助かったぞ」
「でもその日は2人とも、ちゃんと房にいたはずじゃ…」
「…変装魔法はお前だけの専売特許ではないと言うことだな」
サクは口の端を吊り上げながらそう言い、さらに話を続ける。
「で、俺は本物のキーラが何をしていたのかを考えた。外にいる一時的な協力関係にある科学者にもリークした結果、何がわかったと思う?なぜか罪人街の外でキーラの目撃情報らしきものが入っていたんだ。しかも、キーラの一人称が変わった日付と全て一致する」
キーラが鬼の形相で叫ぶ。
「嘘だ!私は外に出てない!」
「当たり前だ。なぜならお前は偽物で、本物が外に出ていればいいだけの話なのだから。
…ここまでが分かれば、犯人がお前だと言うことは一目瞭然だ。本物のキーラと偽物のお前が入れ替わるそのタイミングで、キーラの一人称が『あたし』から『私』に変わり、本物は次々に王国の主戦力となっている人物たちのユニークスキルを盗み去っていったわけだ」
ここで本物は自分だなどといえば、キーラに化けた誰かは自分が外で盗んでいたと言うようなものである。キーラの形をしているそいつは黙り込んでいる。
「お前はキーラのユニークスキル、〈フェアンザルメン〉を暴発させ、収容者のユニークスキルを全て奪い去った。そして当のお前は俺に冤罪をふっかけるために、コインをベッドの下にばら撒いたわけだ」
「適当言うな!あたしはそんなことしてない!」
「今更一人称を変えるなんてどれだけ往生際が悪いんだ…。では、お前が当日に行ったことを言い当ててやろう。お前がミサキさんを条件付きの戦闘で昏睡させ、変身魔法を使ってミサキさんに化け、コインが入ったライトノベルをみんなに配った。戦闘があったのがわかったのは、部屋のドアに大量のコインの傷がついていたからだ。そしてユニークスキルを盗み去る直前、お前はライトノベルを配り終わった後で、収容者たちが寝静まったのを確認して服の擦り切れたあいつに化けて房に入り、房にいた本物の男はハッチに移動。準備が整ったところで、お前はキーラを〈ジ・エグゼキューター〉の力で叩き起こし、ライトノベルに挟んでいたお前のギフトのコインで空間転移をさせながらすべての房を一瞬で回ってユニークスキルを盗みさった。用事が終わったらキーラのことを陶器を廃棄するためのハッチまで移動させ、男に拘束させ、ハッチの中に閉じ込めた。男のことも、キーラがハッチの中に収納されたタイミングでコインを使った転移をさせれば簡単に説明がつく。騒ぎが大きくなる前にお前は俺たちの房のライトノベルに仕掛けらていたコインで転移、キーラに変身、そして魔力で無理やり心臓と呼吸を止めて事件を大きくし、俺たちが考える隙を無くした。そうだろう?」
「じゃ、じゃあ、ミサキさんのことはどうなるの?仮に犯人があたしだったとしたらすぐにそれを言うはずだわ!」
「さしずめ、お得意のユニークスキルを使ったんだろ?……お前の足はもうついている。…『祀ろわぬ烏』、世間ではそう言われているらしいな、カケス?〈ジ・エグゼキューター〉を使ってキーラとミサキさんを無理矢理従わせたというのが俺の考えだが、当たっているんじゃないか?」
キーラの形をした何かは首をすくめた。
「…ふーん…探偵相手じゃ隠し通すのはやっぱり無理があったか」
サラサラと砂が崩れるようにキーラの姿が薄れていき、代わりに現れたのは、顎髭を生やした体格の良い男だった。身長は180cm以上は確実にある。カウボーイハットを目深に被り、朱色のマフラーを首に巻き、デニムのズボンの上からチャップスを着用している。口元には、ヘラヘラした柔和な笑みを浮かべていた。
「…いかにも、僕がカケスさ。もしかして、ギフトのことももうバレていた感じ?」
「…まあ、薄々は」
カケスは不敵な笑顔を浮かべている。
「でも、それがわかったところでどうしようというのかな?スキルスフィアはもう取り込んでいるから、今なら全員分のユニークスキルが使えるわけだけど」
そう言いながら、ヒラヒラとディバインパネルを振ってみせる。…確かに、ユニークスキルを人質に取られている以上は下手に動くと危険だ。というか、それ以前に何個もユニークスキルを持っているような人間を相手にすること自体が危険極まりない。この状況は非常に厄介だ。…と、普段ならそんなことを考えたかもしれない。でも、サクの計画通りだ。
「……」
ズダアンッ!
刹那ののち、乾いた銃声が響いた。サクが服の下に隠していたベレッタが細い白煙をあげている。サクの早撃ちは恐ろしいほど正確にカケスのディバインパネルを手から奪い去った。
「お、おい!」
カケスが慌てて手を伸ばすが、カウンターの裏で待機していたキーラがハイジャンプでディバインパネルを掴み取った。
「…返してもらうよ、みんなのユニークスキル」
キーラがかつてないほど冷たい声で言いながら、カケスのディバインパネルを操作して緑色に光るカラーボールほどの大きさの球を自分の左胸に取り込んだ。これがどうやら、スキルスフィアらしい。
「還元」
キーラが一声呟くと、ディバインパネルからゾロゾロとスキルスフィアが飛び出してボクたちの左胸に飛び込んできた。ボクには二つ、それ以外の人たちは基本的に一つずつ、吸収される。サクにも5色に光るスキルスフィアが戻ってきていた。ボクは〈ヒロイン〉が戻ってきたことによって、エネルギーが体の中で循環し始めるのを感じた。…同時に、ヒロインオーラが全開になるのも感じた。
「……ソ」
カケスが何かを言う。
「クソがああああああああああ!」
カケスはコインをポケットから取り出した。
「お前が言うなあああああああああ!」
キーラがカケスに吠えながら、まるで黄金の風のように駆け出す。カケスが次々に弾いて放ってくるコインを回避し、カケスの目の前まで接近する。
「っ!」
カケスは腰からリボルバーを抜いてキーラの方に向けたが、キーラは怯むことなく着地してからフェイントでカケスを怯ませ、掌底を放った。カケスは不意をつかれ、ぐったりとその場に倒れた。
「…ねえ、サク。このカケスってなんだったんだろう?」
「…おそらくアロガン王の差金だろう。それも、俺を始末するためだけのな」
相当サクのことを邪魔に思ってるみたいだね…
「…自分が邪魔だからって殺そうとするなんて…!」
キーラが怒りを抑えられないといった様子で、ワナワナ震えながらそう言った。
「覚えておけ、クズが考えることは大抵利己的かつ非常識なものだ」
サクが冷静に諭す。
「……さて、そろそろ今回の件で俺たちに散々な仕打ちをしてきた房のやつらと、その処遇を決める時間じゃないか?」
さあっと、権力者と数十名の収容者の顔が青くなった。
「……いやはや、この度は、その、多大な勘違いによって迷惑をかけてしまい、非常に申し訳ありませんでした…」
顔は真っ青を通り越して白くなり、目が泳ぎまくっている権力者がモゴモゴと心にもなさそうな謝罪を口にする。
「不当な武力を行使しておいて、申し訳ないで済むわけないッスよねェ!?」
ミサキさんの怒鳴り声と同時に、哨戒班員が一斉に権力者とその他大勢を取り押さえた。
サクの近くに、銀一さんがやってきた。
「…お前、まさかマジで白だったのか?」
「……まあな」
信じられないといった感じの声で言われても、サクは依然としてそっけない返事だ。
みんなの前で話していた先ほどまでの饒舌さは、おくびにも出さない。
「わ、悪かった!すっかりカケスに騙されちまってた…!」「あっしも謝罪するでやんす」「本当にごめんなさい…!」
銀一さんがサクの無実を確認したのを皮切りに、他の人々が口々に謝罪をし始める。
「…解決したことだ。今更何も言わん」
サクは淡白にそう述べた。
「…ところで気になってたんだけど」
ボクはサクに質問した。
「なんでサクはベレッタを持ってたの?」
装備品は全部押収されてるはずなのに。
「…ギール班長から許可をもらって装備していた。もうじきまた押収されるがな」
その日の夜になるまで、ボクたちはめちゃくちゃ頭を下げられた。最後に、ミサキさんから頭を下げられた。しかし、それはこれまでとは違う理由だった。
「…本当に、お前らには感謝するッス。カケスのユニークスキルのせいでずっと言い出せなかったことが、本当に辛かったッスから…」
ミサキさんの顔は晴れ晴れとしていて、足枷がなくなったのがこちらにも伝わってきた。
「…どういたしまして」
サクはなんでもないことのようにそう言うのだった。
その夜、ボクたちは房のベッドでまた会話していた。
「サク、ほんとカッコよかったよ!正しく探偵って感じで…」
「……まだ俺は探偵なのか。…いや、ならいい」
サクが事件解決などまるでなかったかのように話し始める。
「……それよりも、忘れるな。最終目標は王座を潰すこと。まだ終わったわけではない。ユニークスキルは戻ってきたことだし、そろそろ計画の最終段階に行こうと思う」
ヤマトから伝言があったのか。
「…ああ。作戦の前に王側が黒だということを証明できる証拠を集めて、転生者を避難させて欲しいということだ」
「それはヤマトがやればいいんじゃ…?」
「…国の目があるからどうにもならないんだと」
サクはため息混じりにそう言った。
「3分以内に、フェードがこっちに来る。作戦はその時伝えるから、今は待機していていいということだ」
…ボクたちの計画の最終段階が、始まる。
推理パートはこれにて終了!




