王の嘆き
この話で二章は終了です。次回より「獅子公ロイアスとカントのはぐれ者」第三章開幕です。
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「リョウタ!」
テューンが叫ぶ。
全員が戦闘態勢に移行する。鎧の騎士は俺の肩をがっしり左手で掴んで離さない。だけど、それだけだった。俺に危害を加えようとする様子は見受けられなかった。
「なんだ?様子がおかしい……?」
「……ア、コ、ココ……ココハドコダ?」
人間の声じゃない。まるで機械のような声が鎧の騎士から漏れてきた。俺たちは言葉を喋ったことに驚いた。コミニュケーションを取ることが不可能な相手という共通認識が覆された瞬間だった。
「もしかすると、ドロテアの支配が一時的に和らいだから意識を取り戻せたのかもしれないよ!」
フリージアのその言葉を受け、全員に電流が走る。確かにそうとしか考えられない。
「すみません!あなたの名前は何とおっしゃるのでしょうか!私はトリュン国で冒険者をやらせていただいているフリージアと申します!」
いつもの溌剌とした声でフリージアが尋ねる。
「ワ、ワタシハ……アウグスティン……」
「えーっと、だれだっけ?」
「国王陛下のお名前だ」
テューンの返答に首を縦に何度も振るフリージア。博識な割に国王の名前は知らなかったのか、とフリージアの知識の偏りに軽く衝撃を受けた。
「陛下!ここはドロテアの隠れ家です!私たちはウルリカ王女の命を受け、討伐に駆けつけた次第であります!」
厳密には違うが当たらずといえども遠からず。話せば長くなる話なのでそういうことにしたほうがわかりやすいというフリージアの配慮だろう。
すると、国王陛下と思わしき人物は悲嘆の声を上げた。
「ドロテア……ツイニコノトキガ……ツグナワナケレバ、ナラナイトキガ……」
「償う?それはどういう意味ですか、陛下?」
国王が答える前に体に限界が来たようだ。俺の肩を掴んだ手から力が抜け、国王は膝をついた。俺はどうしていいか分からず、とにかく国王に手を差し伸べた。だけど、国王はそれを拒否した。
「ナガクハ、モタナイ、ヨウダ……ワタシハ、モウ、シンデイル、ノダロウ?ドロテアハ、タマシイヲ、アヤツルトキク……」
フリージアは目を見開いた。フリージアだけじゃない。御伽噺を知る人たちも、ドロテアが錬金術師であるということしか知らない。魂を操る、その事実を国王陛下は口にした。
「ウルリカ……アノコニハ、ナニモシテ、アゲラレナカッタ……ソレダケガ、ココロノコリダ……タダ、イキテイテ、クレタ、ソレダケガ、スクイダ……」
その言葉を受けて、師匠が前に進み出た。その手にはウルリカ王女が託された品物があった。エメラルドのブローチ。それを見せられた国王は声にならない声を上げる。
「アァ……コレハ……ウルリカ、アノコニ、アタエタ、ユイイツノ……」
「国王陛下、ウルリカ様は、あなたを恨んでいないとおっしゃいました。その証として私にこのブローチを届けてほしいと託されたのです」
「……ソウカ……ソウカ……ヨカッタ……ヨカ、ッタ……」
そう言うと、国王は力なく倒れた。もう動き出すような様子はない。半透明の丸い容器のほうに目をやると、四つだった光が五つに変わっていた。
彼らは天に召されたわけじゃない。あの容器の中にまだ閉じ込められたまま。容器を破壊する提案もあったが、それで中の魂が無事である保障はない。結局ドロテアの自白を待つことが全員一致で決まった。
「謎が多ければ多いほど燃えるよ!」
国王が言っていた償わなければならないことは最後まで聞き出せなかった。それが逆にフリージアを燃え上がらせたようだった。身の回りのことが落ち着いたら、すぐにウルリカ王女を問い詰めにいくと息巻いていた。
止めたほうがいいんじゃ、という俺の視線を楽しげな笑みで返す師匠。どうやら師匠はトラブルをご所望らしい。
俺たちがダンジョンを脱出できたのは、それから三日後のことだった。




