トラウマ
――――――――ラフィカ――――――――
俺は救いようのないクズだ。それを自覚しているし、直そうともしている。だけど、その結果が軍からの逃亡者である。
元々俺はそのへんにいる騎士の家系の生まれで、贅沢ではないがそれなりに恵まれた環境で育った。ゼフたちよりも魔術をうまく扱えるのは、そういう環境で育てられたからだ。
自分で言うのもどうかと思うが、俺は天使のような容姿と周りからもてはやされた。何かをしようとすると必ず誰かに助けられた。ほんのちょっとした顔見知りでも手を差し伸べてくれた。
だからということもあるのかもしれない。俺は騎士の家系に生まれながらも世間知らずだった。
最初の悪意を向けられた時、俺は全身に傷を負い、腕と肋骨を数本折られた。複数人から暴行を受け、路地裏に捨てられた。死ぬ寸前だった俺は奇跡的に保護された。
悪夢は過ぎ去ったものだとばかり思っていた。だけど、そこでは終わらなかった。
「おまえはどうしてそこまで意気地なしなんだ!」
回復した俺を待っていたのは周りからの恫喝まがいの事情聴取だった。犯人の顔は見たか、相手は何人だった、どういうことをされたのか、パニックになった俺は頭を真っ白にさせた。当時八歳の子供に親を含む周囲は厳しくあたった。今までのことが嘘だったかのように。
なんということはない。騎士として軟弱だった俺が悪いのだ。自覚が足りなかったのだ。
程なくして、俺を暴行した犯人たちが判明した。俺とよく遊んでいた友達のアニキが主犯だった。
生意気だから懲らしめてやろう。最初はそんな軽い気持ちだった。それが段々と歯止めがきかなくなったという。その友達のアニキのことを一切知らなかった。ますますその時の俺はなぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか混乱した。
そして、一番俺の心に突き刺さったのは、暴行を加えた犯人たちの中に親友と思っていたやつが混ざっていたことだった。
それから俺の世界は一変した。
俺は人の顔を窺うようになり、前のように笑うことはなくなった。だけど、一人は寂しかった。外に出ることは怖かったけど、孤独になることはもっと怖かった。
周りに俺は媚びはじめた。褒められるために鍛錬をし、怒られないために勉学に励んだ。その甲斐あって、俺は精鋭部隊に配属されることになった。父も母も誇りに思ってくれた。精鋭部隊のみんなも、俺のことを悪く言うやつはいなかった。
だけど、親しくなればなるほど、その人の顔が豹変し、鬼のような形相になり、俺を殺しにくるのではないか、という妄想を抱いた。そんなことはありえない。わかっていても止められなかった。俺には耐えられなかった。
俺はいつのまにか全てを捨てて逃げ出していた。




