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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第68話 数字が、守る平和

アデルと、ヴァレンの、祝言は、辺境じゅうの、祝福の中で、行われた。


政略の、書面だけの、結婚では、なく、今度は、心からの、結びつきを、祝う、本当の、祝言だった。城下の、広場に、領民が、集まり、収穫祭にも、勝る、賑わいに、なった。かつて、飢えと、諦めに、沈んでいた、この土地の、人々が、いま、心から、笑い、二人の、門出を、祝っていた。


「奥方様、きれいです!」マレナが、涙ぐみながら、言った。「あたし、こんな、めでたい日が、来るなんて」


ロザリンドも、王都から、駆けつけてくれた。あの、氷のような、査察官が、控えめな、けれど、確かな、笑みを、浮かべて、祝福してくれた。


「おめでとう、ございます」ロザリンドは、言った。「あなたと、この、辺境の、これからを、会計院も、見守っています。……盟友として」


ギースは、祝言の、あいだじゅう、泣いて、いた。先代に、長く、仕え、辺境の、赤字の、帳面を、腹を、切る思いで、つけ続けてきた、老臣。その男が、いま、辺境の、いちばん、めでたい日に、立ち会っている。「先代も……天で、さぞ、お喜びで、ございましょう」。その、震える声に、ヴァレンが、そっと、肩に、手を、置いた。亡き、兄も、この、祝福の中に、いる。誰もが、そう、感じていた。


祝言のあと、辺境は、新しい、時代へと、歩み始めた。


わたしは、辺境伯夫人として、そして、実質的な、経営者として、辺境の、長期の、繁栄を、設計していった。もう、目先の、危機を、しのぐ、綱渡りでは、ない。十年、二十年先を、見据えた、腰を、据えた、経営だった。


「辺境は」わたしは、ヴァレンに、これからの、設計図を、示した。「交易と、産業の、要衝として、栄えていきます。でも、ただ、豊かになるだけでは、ありません。会計院と、手を、組んで、正しい記録に、基づいた、健全な、経済の、中心に、なります」


「正しい記録に、基づいた、経済、か」


「はい」わたしは、頷いた。「ハルバのような、二重契約や、粉飾が、通用しない、場所。取引が、すべて、正直な、記録で、行われる。だまし合いでは、なく、信頼で、回る。……そういう、経済圏を、辺境から、広げていきたいんです。それが、二度と、ハルバのような、者を、生まないための、いちばん、確かな、備えです」


わたしは、辺境の、交易に、一つの、決まりを、設けた。この地で、取引する者は、正直な、記録を、つけること。記録を、ごまかす者とは、取引しないこと。はじめ、それを、面倒がる者も、いた。だが、正直な、記録で、取引すれば、後の、揉め事が、なくなる。だまされる、心配が、ない。その、安心が、やがて、多くの、まっとうな、商人を、辺境に、引き寄せた。


「正直で、いるほうが、得をする」わたしは、言った。「その、仕組みを、作るんです。嘘を、つく者が、損をして、正直な、者が、報われる。そういう、場所なら、放っておいても、みんな、正直に、なります。……人を、正直に、するのは、説教では、ありません。正直が、得をする、という、仕組みです。数字は、その、仕組みを、作れます」


ヴァレンが、感心した。人の、心を、変えるのに、剣も、罰も、要らない。ただ、正直が、報われる、仕組みを、作れば、いい。それは、剣を、握る者には、ない、発想だった。


「面白い、ものだな」ヴァレンが、言った。「剣で、守る、平和も、ある。だが、あんたは、数字で、平和を、守る。正直な、記録が、当たり前に、なれば、だまし合いの、争いが、減る」


「そうなんです」わたしは、微笑んだ。「争いの、多くは、お金と、記録の、ごまかしから、始まります。誰が、いくら、奪った。誰が、約束を、破った。……でも、すべての、記録が、正直なら、その、火種が、消える。数字が、正直な、場所には、争いが、起きにくい。剣を、抜くより、帳簿を、正直に、つけるほうが、ずっと、確かに、平和を、守れるんです」


それは、この、一年半の、戦いを通じて、わたしが、たどり着いた、一つの、答えだった。ハルバとの、戦いは、剣の、戦いでは、なかった。数字と、記録の、戦いだった。そして、勝ったのは、正直な、記録だった。ならば、平和もまた、正直な、記録の、上に、築ける。


辺境は、その、理念の、もとで、栄えていった。人が、集まり、物が、行き交い、争いは、少なく、暮らしは、豊かに。かつて、大陸の、辺境の、痩せた、忘れられた、土地。それが、いまや、正しい記録に、基づく、健全な、経済圏の、中心として、大陸じゅうから、注目される、地に、なっていた。


「ヴァレン様」わたしは、ある日、賑わう、辺境を、見下ろしながら、言った。「わたしたちが、守ったのは、この土地、だけでは、なかったのかもしれません」


「どういう、ことだ」


「正直な、記録が、勝つ、という、こと」わたしは、言った。「嘘や、力では、なく、正しさが、勝つ、という、こと。それを、この、辺境が、証明しました。……この、小さな、辺境の、勝利が、大陸じゅうの、弱い者たちに、希望を、与えたなら。わたしたちは、この土地、以上のものを、守れたのかもしれません」


ヴァレンが、深く、頷いた。二人の、目の下で、辺境は、活気に、満ちていた。数字が、守る、平和。その、静かな、確かさが、この土地の、隅々にまで、根づいていた。


こうして、辺境は、新しい、秩序を、確立した。武力でも、権力でもなく、正直な、数字が、守る、平和。それが、辺境ヴェント領の、これからの、姿だった。


やがて、その、平和な、辺境に、静かに、年月が、流れていく。二人が、蒔いた、種は、これから、ゆっくりと、大きな、実りへと、育っていくのだった。


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