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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第65話 あなた方の帳簿は、あなた方が

加害者家の、その後は、王都からの、便りで、少しずつ、伝わってきた。


テオドール伯爵家も、ダルク子爵家も、粉飾と、破綻を、免れなかった。両家は、屋敷を、手放し、多くの、使用人を、暇に、し、身の丈に、あった、慎ましい、暮らしへと、落ちていった。かつての、華やかさは、跡形も、なかった。


リオネルは、失墜の、まま、だった。社交界での、信用を、失い、責任転嫁の、癖も、直らず、周りから、人が、離れていった。誰も、彼を、陥れて、いない。ただ、彼の、慢心と、虚勢が、彼を、そこまで、追い込んだ。自業自得の、末路を、彼は、いまも、誰かの、せいにして、いるのだろう。


だが、セシリアは、少し、違った。


「セシリア嬢は」ロザリンドが、便りを、読みながら、言った。「変わり始めているようです。破綻を、通じて、家計の、恐ろしさを、身をもって、知った。いまは、慎ましい、暮らしの中で、自分で、家計簿を、つけ始めているとか。……不器用ながら、数字と、向き合おうとしている、と」


わたしは、その話を、意外な、思いで、聞いた。


かつて、帳簿を、下働きの、仕事だと、蔑み、わたしの、記録を、踏みつけた、あの人。その人が、いま、自分で、家計簿を、つけている。姉が、一人で、背負っていた、重荷の、意味を、遅ればせながら、知って。それは、彼女なりの、償いなのか、それとも、単に、生きるための、必要に、迫られてか。どちらでも、良かった。


便りには、こうも、あった。セシリアが、あるとき、ぽつりと、漏らした、と。「姉様は、これを、たった一人で、毎晩、やっていたのね。誰にも、褒められずに」。その一言に、わたしは、少しだけ、胸を、突かれた。憎まれ役だった、あの人が、初めて、わたしの、孤独を、想像した。奪ってから、何年も、経って、ようやく。遅すぎたけれど、人は、変われないわけでは、ない。そのことに、なぜか、わたしは、ほっと、していた。


「セシリアさんが」わたしは、静かに、言った。「数字と、向き合い始めた。……それが、本当なら、悪いことでは、ありません。人は、失って、初めて、その、価値を、知る。あの人は、たくさんのものを、失って、ようやく、いちばん、地味で、いちばん、大事なものの、価値を、知ったのかもしれません」


「恨みは、ないのですか」ロザリンドが、尋ねた。「彼女は、あなたから、すべてを、奪った」


「恨みは」わたしは、少し、考えた。「もう、ありません。……いえ、正確には、恨む理由が、なくなりました。あの人が、奪ったつもりの、婚約者も、居場所も。結局、わたしは、もっと、いいものを、辺境で、手に入れました。奪われたと、思っていたものは、失って、良かったものばかりだった。……だから、恨む理由が、ないんです」


わたしは、少し、間を、置いて、続けた。


「もし、セシリアさんが、本当に、数字と、向き合い始めたなら。それは、あの人の、人生の、帳簿です。わたしが、口を、出すことでは、ありません。……もう、わたしの、帳簿に、あの家は、ありません。あなた方の、帳簿は、あなた方が、つけてください。わたしは、わたしの、帳簿を、つけます」


それは、突き放しでは、なかった。むしろ、静かな、線引きだった。恨みも、施しも、しない。ただ、それぞれが、自分の、数字を、自分で、背負う。それが、いちばん、公平で、いちばん、健やかな、関わり方だと、思った。


「あなたは」ヴァレンが、静かに、言った。「復讐も、しなければ、施しも、しない。ただ、線を、引くのか」


「はい」わたしは、頷いた。「復讐すれば、あの家に、まだ、心を、囚われていることに、なります。施せば、また、あの家の、綻びを、縫う役目に、戻ってしまう。……どちらも、したくない。わたしは、もう、あの家から、自由に、なりたいんです。恨みでも、情でもなく、ただ、他人として。それが、いちばん、自由な、別れ方です」


言いながら、わたしは、胸の、奥が、静かに、澄んでいくのを、感じた。長いあいだ、わたしを、縛っていた、あの家との、糸。恨みという、糸さえも、いま、そっと、手放していた。恨みを、握りしめている限り、人は、その相手に、囚われ続ける。手放して、初めて、本当に、自由に、なれる。


「清々しい、ものですね」わたしは、少し、笑った。「恨みを、手放すと、こんなに、身軽に、なるとは、思いませんでした。……母が、言っていました。人を、恨むために、数えるな、助けるために、数えなさい、と。いまなら、その意味が、よく、わかります」


「あんたの、母上は」ヴァレンが、ぽつりと、言った。「いい人、だったんだな」


「はい」わたしは、頷いた。胸の、奥が、じんと、温かくなる。「早くに、亡くなりましたけど。あの人が、教えてくれた、数字の、読み方が。数字は、正直だから、いつか、あなたを、助けてくれる、という、その、言葉が。……ずっと、わたしを、支えてくれました。いちばん、辛かったときも。母は、わたしに、いちばん、大事な、宝物を、遺してくれたんです」


過去との、決別は、完全に、なった。加害者家も、ハルバも、兄の汚名も。すべてに、区切りが、ついた。わたしの、帳簿から、過去の、負債は、すべて、消えた。あとは、これから、育てていく、未来の、数字だけが、残っていた。


そして、その、身軽になった、わたしのもとに。今度は、王都から、思いがけない、誘いが、差し出された。それは、かつて、望んでも、得られなかった、栄達への、扉だった。


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