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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第64話 わたしは、数えただけ

辺境の、奇跡的な、立て直しと、ハルバ摘発。その、立役者が、辺境伯夫人アデルだと、いう話は、王都にまで、届いた。


そして、王都の、人々は、驚いた。その、アデルが、かつて、テオドール伯爵家を、追い出された、あの、地味な、令嬢だと、知って。無能だと、嘲笑われ、婚約を、破棄され、辺境へ、厄介払いされた、あの、娘。それが、大陸一の、大商会を、公の、裁きの、前に、引きずり出した、当人だと。


「掌返しとは」ロザリンドが、王都の、様子を、伝えながら、言った。少し、呆れたような、口ぶりだった。「まさに、このことです。かつて、あなたを、無能だと、笑った、社交界が、いまや、こぞって、あなたを、称賛しています。『さすが、名門テオドールの、ご出身』『昔から、聡明な方だと、思っていた』と。……調子のいい、ものです」


わたしは、その話を、静かに、聞いていた。


不思議と、心は、動かなかった。かつて、わたしを、嘲笑った、あの、人々。その、同じ口が、いま、わたしを、褒めそやす。だが、それは、わたしの、真価を、認めたからでは、ない。ただ、勝った者に、群がる、いつもの、習性に、すぎなかった。リオネルの、羽振りに、群がり、支払いが、断られた、途端、離れていった、あの、人々と、同じだ。


「会計院も」ロザリンドが、続けた。これは、真面目な、口調だった。「あなたの、記録の、正確さを、公式に、称賛しています。あなたが、去り際に、残した、あの、控え帳。あの、正確さが、なければ、ハルバの、摘発は、なかった。会計院の、内部でも、あれほど、精緻な、記録は、めったに、見ない、と。……あなたを、会計院に、迎えたい、という、声さえ、上がっています」


その言葉には、社交界の、掌返しとは、違う、重みが、あった。数字を、真剣に、扱う、会計院の、人々が、わたしの、記録を、正しく、評価してくれた。それは、素直に、嬉しかった。


「あなたは、覚えて、いますか」ロザリンドが、ふと、言った。「私が、初めて、辺境に、来たとき。私は、あなたを、疑いました。急に、立ち直った土地は、怪しい、と。……あのとき、あなたは、怒りも、慌てもせず、こう、言った。『鋭い目に、読まれて、崩れない記録こそ、本物です』と。私は、あの言葉を、いまも、覚えています。あなたの、記録は、本当に、崩れなかった。どんなに、厳しく、読んでも」


「あなたが、きちんと、読んでくれたからです」わたしは、微笑んだ。「いい加減に、読む人には、本物も、偽物も、わかりません。あなたが、本物の、査察官だったから、わたしの、記録も、本物だと、証明された。……あなたに、疑われて、良かったと、思っています」


ロザリンドが、珍しく、口元を、緩めた。かつての、氷のような、査察官と、疑われた奥方。二人は、いつしか、正しい記録を、信じる、確かな、盟友に、なっていた。


だが、わたしは、その、称賛の、すべてに、浮かれることは、なかった。


「わたしは」わたしは、静かに、言った。「数えただけです」


「謙遜、ですか」


「いいえ、本当に」わたしは、首を、振った。「わたしは、剣を、抜いていません。誰も、討っていません。ただ、正しく、数えて、正しく、記録して、それを、正しい場所に、置いただけ。あとは、数字が、勝手に、答えを、出しました。……称賛されるほどの、ことは、していないんです。ただ、数字に、正直だった。それだけです」


それは、謙遜では、なかった。本当に、そう、思っていた。


かつて、わたしを、追い出した、あの家。無能だと、笑った、あの、社交界。その、評価は、間違っていた。だが、いま、掌を、返して、称賛する、その、評価も、また、上っ面だ。どちらも、わたし自身を、見ていない。ただ、負けた者を、蔑み、勝った者に、群がっているだけ。


わたしの、尊厳は、その、掌返しによって、回復したのでは、なかった。もっと、前に。辺境で、ヴァレンが、わたしの、頑張りを、認めてくれたとき。マレナが、慕ってくれたとき。ギースが、信頼してくれたとき。領民が、わたしの、数字を、信じてくれたとき。……わたしは、とっくに、尊厳を、取り戻していた。王都の、称賛など、いまさら、要らなかった。


「あなたは」ヴァレンが、隣で、誇らしげに、言った。「王都の、連中が、なんと、言おうと、動じないな」


「動じる、理由が、ありません」わたしは、微笑んだ。「あの人たちの、評価で、わたしの、価値が、決まるわけでは、ないから。褒められても、貶されても、わたしは、わたしです。……大事なのは、あの人たちが、どう、見るかでは、なく、わたしが、何を、したか。数字は、正直です。わたしが、正しく、数えた、その事実は、誰が、なんと、言おうと、変わりません」


「昔の、わたしなら」わたしは、少し、遠くを、見て、言った。「あの、称賛が、喉から手が出るほど、欲しかったと、思います。誰かに、認められたくて、必死でした。認められないことが、いちばん、辛かった。……でも、いまは、要りません。他人の、称賛を、追いかけているうちは、いつまでも、他人に、振り回されます。褒められれば、喜び、貶されれば、沈む。自分の、価値が、いつも、他人の、手の中にある。……そんな、生き方は、もう、しません」


ヴァレンが、その言葉に、深く、頷いた。かつて、いらない子として、俯いていた、令嬢は、もう、どこにも、いなかった。ここにいるのは、自分の、価値を、他人の、評価に、預けない、一人の、女だった。


尊厳は、完全に、回復した。だが、それは、社交界の、称賛によって、では、なかった。わたし自身が、辺境で、積み上げてきた、確かな、ものによって、だった。


そして、その、名誉を、取り戻した、わたしのもとに。今度は、没落した、あの、加害者家の、その後の、姿が、届こうとしていた。因果の、締めくくりが、静かに、近づいていた。


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