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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第63話 自分の足で、立てます

過去を、清算した、辺境は、目に見えて、豊かに、なっていった。


わたしは、月々の、帳簿を、締めながら、その、変化を、数字で、確かめていた。かつて、赤字ばかりだった、辺境の、帳尻は、いまや、安定した、黒字を、刻んでいた。しかも、それは、一度きりの、まぐれでは、なかった。産業も、交易も、民生も、噛み合って、回り続ける、確かな、黒字だった。


「見てください」わたしは、ヴァレンに、その、帳簿を、示した。「もう、綱渡りでは、ありません。この領は、自分の足で、立てます」


「本当に、変わったな」ヴァレンが、感慨深そうに、言った。「一年半前、俺が、あんたを、迎えたとき。辺境は、死にかけていた。それが、いまや」


わたしは、辺境の、いまの姿を、三つの、柱で、確かめた。


一つ、産業。鉱山は、順調に、銅を、産み続けていた。労務を、整え、無理なく、掘るやり方が、定着し、事故も、少ない。安定した、産出が、辺境の、確かな、稼ぎ頭に、なっていた。


二つ、交易。ハルバの、流通支配が、崩れた、いま、辺境は、交易の、要衝として、栄えていた。安い関所と、賑わう宿場町。近隣の、商人が、こぞって、辺境の道を、選ぶ。人と、物が、絶えず、行き交っていた。


三つ、民生。飢えは、遠い、昔の、話に、なった。備蓄は、厚く、配給の、仕組みも、整い、どんな、端境期にも、飢える者は、いない。二度と、あの、飢えの冬を、繰り返さない。その、備えが、しっかりと、根づいていた。


「三つの、柱が、しっかり、立ちました」わたしは、言った。「一つが、傾いても、他の、二つが、支える。どれか、一つに、頼りきりでは、ないから、崩れにくい。……この領は、もう、少しくらいの、危機では、揺らぎません」


「昔の、辺境は」ヴァレンが、ぽつりと、言った。「一本の、細い、柱で、立っていたようなものだ。畑が、不作なら、それで、終わり。関所の、実入りが、減れば、それで、傾く。……あんたは、その、一本足を、三本足に、変えた」


「一本足の、椅子は、すぐ、倒れます」わたしは、頷いた。「三本足なら、少々、押されても、倒れない。国も、家も、土地も、同じです。稼ぐ道を、一つに、頼ると、その一つが、崩れたとき、すべてが、崩れる。だから、稼ぐ道を、いくつも、持つ。……ハルバに、首を、握られたのも、辺境の、稼ぐ道が、一つしか、なかったからです。二度と、そうは、させません」


町を、歩くと、その、豊かさが、肌で、感じられた。市場には、品が、あふれ、人々の、顔に、余裕が、あった。子どもたちは、痩せておらず、老人は、日向で、笑っていた。


「奥方様!」マレナが、宿場町の、帳簿を、抱えて、駆けてきた。すっかり、町の、しっかり者に、育っていた。「今月も、宿の、泊まり客、最高記録です! もう、帳場が、追いつかなくて!」


「よく、数えたわね」わたしは、微笑んだ。「嬉しい、悲鳴、ね」


「はい! あたし、もう、そろばんの、達人ですから!」マレナが、胸を、張った。


その、誇らしげな、様子に、わたしは、目を、細めた。かつて、宿場町で、頼りない、看板娘だった、この子が、いまでは、町の、帳簿を、任される、立派な、担い手に、育っている。数字を、読める人が、辺境に、一人、また一人と、増えていく。それが、何より、確かな、辺境の、未来だった。


「わたし一人が」わたしは、ヴァレンに、言った。「読めても、駄目なんです。マレナのように、数字を、読める人が、増えれば、辺境は、もっと、強くなる。わたしが、いなくなっても、この土地は、自分で、自分の、数字を、守れる。……本当の、再建とは、そういうことだと、思います。人が、育つこと」


ヴァレンが、深く、頷いた。「あんたは、魚を、与えるだけじゃない。魚の、獲り方を、教える。だから、辺境は、あんたが、いなくなっても、飢えない」


「いなくなる、つもりは、ありませんけどね」わたしは、少し、笑った。「ただ、一人に、頼りきりの、仕組みは、危うい。それは、人でも、稼ぎでも、同じです。わたしが、倒れても、回る。そういう、辺境に、しておきたいんです。それが、いちばん、強い」


夕暮れ、城の、窓から、辺境を、見下ろした。灯りが、あちこちに、ともり、その、一つ一つの下に、明日を、数える、暮らしが、あった。一年半前、闇に、沈んでいた、この土地。それが、いまは、大陸でも、指折りの、健全な、辺境へと、生まれ変わっていた。


剣で、勝ち取った、繁栄では、ない。誰かから、奪った、豊かさでも、ない。ただ、正しく、数え、無駄を、省き、人と、物の、流れを、整え、正直に、記録を、つけ続けた。その、地道な、積み重ねが、この、景色を、作った。


「良い、数字です」わたしは、静かに、呟いた。それは、わたしにとって、最上級の、賛辞だった。


隣で、ヴァレンが、同じ景色を、眺めていた。その、横顔には、辺境を、守り抜いた者の、静かな、誇りが、あった。剣を、握る手と、算盤を、弾く手。まるで、違う、二つの手が、この土地を、支えている。どちらが、欠けても、この景色は、なかった。そう思うと、隣に、この人が、いてくれることが、じんわりと、ありがたかった。


辺境の、再建は、総仕上げの、段階に、入っていた。だが、この、辺境の、奇跡的な、立て直しの、噂は、辺境の、外へも、広がり始めていた。そして、その、噂は、やがて、遠い、王都にまで、届こうとしていた。かつて、わたしを、無能と、嘲笑った、あの、社交界にまで。


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