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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第60話 勝った後こそ

勝利の、翌朝から、わたしは、また、帳簿に、向かっていた。


「奥方様は」マレナが、呆れたように、言った。「せっかく、勝ったのに。少しは、休めば、いいのに」


「休みたいのは、山々よ」わたしは、苦笑した。「でも、勝った後こそ、帳簿が、要るの。戦いが、終わったからといって、辺境の、暮らしが、勝手に、良くなるわけでは、ないから」


わたしは、戦後の、辺境の、姿を、数字で、描き始めていた。封鎖と、総攻撃で、傷ついた、部分。踏み荒らされた、街道。使い果たした、備蓄。戦いのあいだ、後回しに、してきた、修繕。それらを、一つずつ、書き出し、どこから、どう、立て直すかの、見積もりを、立てる。


「勝利に、浮かれるのが」わたしは、ヴァレンに、言った。「いちばん、危ないんです。勝ったあと、気が、緩んで、蓄えを、無駄に、使い、備えを、怠る。そうして、次の、危機で、崩れる家を、わたしは、たくさん、見てきました。……勝利は、終わりでは、ありません。次の、始まりです。だから、勝った、その日から、次の、設計図を、描きます」


ヴァレンが、感心したように、頷いた。「相変わらず、抜け目が、ないな。だが、それでこそ、あんただ」


わたしは、三つの、柱で、戦後の、辺境を、描いた。


一つ、傷の、修復。封鎖で、細った、備蓄を、元に、戻し、荒れた、街道や、水路を、直す。まず、暮らしの、土台を、固め直す。


二つ、稼ぐ力の、拡大。ハルバの、流通支配が、崩れた、いま、辺境の、交易は、大きく、伸びる。鉱山の、銅も、堂々と、売れる。この、追い風を、逃さず、稼ぐ足を、さらに、太くする。


三つ、備え。二度と、飢えないように。二度と、一つの、商会に、首を、握られないように。蓄えを、厚くし、取引先を、分散させ、どんな、危機にも、耐えられる、体を、作る。


「これが」わたしは、その、設計図を、示した。「これからの、辺境の、道です。もう、生き延びるだけの、辺境では、ありません。豊かに、なる、辺境です。人が、集まり、栄え、二度と、飢えない、土地に」


「一つ、聞いていいか」ヴァレンが、設計図を、覗き込んで、言った。「稼ぐ力を、太くする。それは、いい。だが、辺境が、豊かになれば、また、ハルバのような、者が、目を、つけてくるのでは、ないか。豊かさは、狙われる」


「鋭い、ご指摘です」わたしは、頷いた。「だから、三つ目の、備えが、大事なんです。豊かに、なるだけでは、駄目。豊かさを、狙われても、崩れない、体を、同時に、作る。取引先を、一つに、頼らない。蓄えを、厚くする。そして、何より――帳簿を、正直に、つけ続ける。ハルバに、つけ込まれたのは、辺境が、弱っていて、しかも、数字を、正しく、読めなかったからです。読める者が、いる限り、同じ罠には、二度と、かかりません」


「あんたが、いる限り、か」


「わたしだけでは、ありません」わたしは、言った。「マレナにも、若い者にも、数字の、読み方を、教えます。わたし一人が、読めても、駄目。この土地の、みんなが、少しずつ、数字を、読めるように、なれば。辺境は、本当に、強くなります。……守りは、一人の、賢さより、みんなの、目の、多さです」


ロザリンドが、事後の、処理の、報告に、訪れた。ハルバの、失脚は、確定し、不正に、奪われた、資産の、返還が、始まっていた。


「辺境が、ハルバに、負わされていた、あの、借金も」ロザリンドは、言った。「不正な、契約として、正式に、無効に、なります。もう、返す、必要は、ありません。それどころか、これまで、不当に、支払わされた分は、返還の、対象に、なります」


「兄の、代からの、あの、首輪が」ヴァレンが、感慨深そうに、言った。「ついに、完全に、外れるのか」


「外れます」ロザリンドが、頷いた。「そして――」彼女は、少し、間を、置いた。「ヴェント辺境伯家の、先代。あなたの、お兄様の、件も。あれが、ハルバの、罠であったことを、示す、記録が、揃っています。近く、それも、公にされます。放蕩の、当主だった、という、汚名は――晴らされます」


その言葉に、ヴァレンが、深く、息を、のんだ。長年、兄に、着せられていた、汚名。それが、ついに、公に、晴らされる。彼の、目が、潤んだ。


「よかった、ですね」わたしは、そっと、言った。「お兄様の、名が、戻ります」


「ああ」ヴァレンは、絞り出すように、言った。「あんたが、いてくれた、おかげだ。あんたが、あの、古い帳簿を、読んでくれなければ。兄は、放蕩者の、まま、だった」


わたしは、静かに、首を、振った。


「読んだのは、わたしですが、記録を、残していたのは、お兄様です」わたしは、言った。「お兄様が、罠と、戦った、その、痕跡を、正直に、記録に、残していたから、わたしは、それを、読めた。……お兄様は、最後まで、諦めずに、辺境を、守ろうとした。その、証を、残してくれた。だから、いま、真実が、勝てるんです」


勝利の、静けさの、中で、辺境は、新しい、季節へと、動き始めていた。危機は、去り、敵は、崩れ、奪われたものが、戻ってくる。そして、二人は、これからを、共に、生きると、誓った。


だが、まだ、すべてが、終わったわけでは、なかった。ハルバの、完全な、失脚。奪われた、資産の、清算。そして――ヴァレンの兄の、死の、真相の、公表。それらが、これから、正式に、進んでいく。


長い、冬は、明けた。だが、春には、春の、やるべきことが、ある。わたしは、新しい、辺境の、帳簿を、開いた。ここからは、守る戦いでも、勝つ戦いでもない。育てる、営みだった。


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