第55話 派手に攻めるほど
ハルバの、総攻撃は、凄まじかった。
加害者家が、崩れ、会計院の、総査察が、迫る。後の、ない、ハルバは、残る、すべてを、辺境に、ぶつけてきた。グラス伯爵の、兵を、再び、国境に、押し出し、封鎖を、いっそう、厳しくし、辺境と、取引する、商人には、なりふり構わぬ、脅しを、かけた。辺境を、査察の、前に、叩き潰す。それが、ハルバの、最後の、賭けだった。
城下は、これまでで、いちばんの、緊張に、包まれた。四方から、圧力が、押し寄せる。誰もが、この、猛攻の、前に、辺境が、持ちこたえられるのかと、息を、詰めた。
だが、わたしは、その、猛攻の、只中で、冷静に、一つのことを、計算していた。
ハルバ自身の、財布だ。
「見てください」わたしは、集められる限りの、ハルバの、動きを、書き出し、ヴァレンと、ロザリンドに、示した。「兵を、動かす費用。封鎖を、続ける費用。商人を、脅すために、撒いている、金。……この、総攻撃には、途方もない、金が、かかっています。それも、ハルバは、買い占めの、大損で、すでに、大きな傷を、負ったあとです。稼ぎは、査察で、止まりかけている。入りは、細り、出は、膨れ上がっている」
「つまり」ロザリンドが、身を、乗り出した。「ハルバも、綱渡りだ、と」
「はい」わたしは、頷いた。「この、総攻撃は、余裕から、来ているのでは、ありません。追い詰められた、焦りから、来ています。派手に、見えるけれど、その裏で、ハルバの、財布は、猛烈な、勢いで、痩せている。……派手に、攻めるほど、相手の、財布は、軽くなります。この攻勢は、もう、長くは、続きません」
「けれど」ヴァレンが、慎重に、言った。「向こうの、財布の、中身が、こちらに、見えるのか。ハルバは、大商会だ。隠し財産も、あるだろう」
「正確には、見えません」わたしは、認めた。「でも、動きから、読めます。もし、ハルバに、まだ、たっぷり、余裕が、あるなら。こんな、なりふり構わぬ、総攻撃は、しません。もっと、じっくり、腰を、据えて、こちらを、干上がらせに、かかるはずです。焦って、一度に、すべてを、ぶつけてくるのは、時間が、ないからです。……人は、余裕があれば、待てます。待てないのは、待つ余裕が、ないから。この、性急さそのものが、向こうの、財布の、薄さを、物語っています」
「攻め方で、懐が、読める、というのか」
「はい。派手さは、余裕の、証では、ありません」わたしは、言った。「本当に、強い者は、静かに、構えます。慌てて、大きく、振りかぶるのは、これで、決めなければ、後が、ない、と、思っているからです。……この総攻撃の、激しさは、ハルバの、強さでは、なく、追い詰められた、弱さの、裏返しなんです」
わたしは、ハルバの、資金繰りを、辺境のものと、同じように、日繰りで、見積もった。もちろん、外から、正確な数字は、わからない。だが、兵の規模、封鎖の範囲、撒いている金の、おおよそから、限界を、推し量ることは、できた。
「わたしの、見立てでは」わたしは、言った。「ハルバが、この、総攻撃を、続けられるのは、あと、十日から、二週間。それ以上は、いくら、大商会でも、もちません。しかも、その頃には、会計院の、総査察が、本格的に、動き出す。攻撃の、金が、尽きるのと、査察の、光が、当たるのが、ほぼ、同時に、来ます。……向こうは、その、二つを、同時に、迎えたら、終わりです」
「では、こちらは」ヴァレンが、尋ねた。
「耐えます」わたしは、はっきりと、言った。「これまでと、同じです。挑発に、乗らず、守りを、固めて、ただ、耐える。向こうが、派手に、攻めれば、攻めるほど、向こうの、財布は、軽くなる。こちらは、鉱山と、交易で、細くても、稼ぎが、ある。入りが、ある。……入りのない、猛攻と、入りのある、我慢。長く、続けば、必ず、我慢が、勝ちます」
わたしは、辺境の、守りを、この、最後の、猛攻に、耐えられるよう、組み直した。備蓄の、最後の、山。代替交易路の、細い供給。味方の領の、支援。すべてを、この、十日から、二週間に、集中させる。ぎりぎりの、綱渡りだが、越えられない、数字では、なかった。
「怖い、猛攻に、見えます」わたしは、不安げな、ギースに、言った。「四方から、圧力が、来て、いかにも、辺境が、押し潰されそうに、見える。でも、数字を、見れば、これは、断末魔です。獣が、最後の、力を、振り絞って、暴れている。暴れるほど、力を、使い果たす。……いちばん、激しく、見える瞬間が、いちばん、終わりに、近い瞬間です」
ギースは、その言葉に、少しずつ、落ち着きを、取り戻した。目に、見える、猛攻の、激しさに、怯えるのでは、なく、その裏の、数字を、見る。すると、恐ろしい、総攻撃が、追い詰められた者の、最後の、あがきに、見えてくる。
ヴァレンが、頼もしげに、頷いた。「あんたが、そう、言うなら、耐えられる。俺は、守りを、固める。何が、来ても、この城を、この土地を、守り抜く」
「はい」わたしは、頷いた。「わたしは、数字で、その、耐えるべき、日数を、はっきりさせます。あと、十日から、二週間。ここを、越えれば、勝てる。……先が、見えていれば、どんな、猛攻にも、耐えられます」
こうして、辺境は、ハルバの、最後の、総攻撃を、迎え撃った。剣で、押し返すのでは、なく、ただ、耐えることで。相手が、自分の、力を、使い果たすのを、静かに、待つことで。
わたしは、ハルバの、財布が、尽きる、その、一点を、見据えていた。そこへ、向かって、辺境を、持たせる。相手の、綱が、先に、切れるまで。あと、少し。あと、少しの、我慢だった。




