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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第53話 姉が、支えていたもの

セシリアの、様子は、王都からの、便りに、少しずつ、詳しく、綴られていた。


粉飾が、露見し、家が、傾いていく中で、セシリアは、当主の、父に、代わって、家計を、立て直そうと、したらしい。かつて、義理の姉を、追い出したときの、勝ち誇った、言葉を、思えば、それは、当然の、成り行きだった。帳簿方など、代わりは、いくらでもいる。ならば、自分が、やればいい、と。


だが、彼女は、帳簿を、開いて、初めて、それが、どういう、ものかを、知った。


「一日で、音を、上げたそうです」ロザリンドが、査察の、内部の様子を、伝えてくれた。「セシリア嬢は、帳簿を、前に、途方に暮れた。数字の、どこから、手を、つければ、いいのかも、わからない。どの支払いを、先に、すべきか。どの借金が、いちばん、危ないか。何一つ、判断できなかった。……ただ、震えて、いたそうです」


わたしは、その様子が、目に、浮かぶようだった。


かつて、わたしが、たった一人で、向き合っていた、あの家の、帳簿。表向きの、華やかさの、裏で、崩れそうな、辻褄を、夜通し、縫い続けた、あの、重荷。誰にも、感謝されず、それどころか、疎まれながら。あの、途方もない、重さを、セシリアは、いま、初めて、その身で、知っていた。


彼女は、思い知ったのだ。自分が、追い出した、姉が。地味だと、蔑んだ、その仕事が。いったい、どれほどの、ものを、一人で、支えていたのかを。


「姉様が、いれば」セシリアは、そう、漏らしたという。「姉様なら、これを、どうにか、できたのに」


その一言に、わたしは、複雑な、思いを、抱いた。ざまあみろ、とは、思わなかった。ただ、静かな、痛みが、あった。彼女が、いま、味わっている、心細さを、わたしは、知りすぎるほど、知っていた。数字が、読めないのに、家の、命運を、握らされる、恐ろしさ。合わない帳簿を、前に、独りで、途方に暮れる、あの、心細さを。


わたしは、ふと、追い出された、あの日の、ことを、思い出した。セシリアは、わたしの、机の上の、帳簿を、片手で、払いのけた。数字の、並んだ紙が、床に、散らばった。彼女は、それを、拾おうとも、せず、踏んで、通った。「こんな、地味な紙切れに、しがみついて。あなたって、本当に、つまらない人ね」。そう、言い捨てて。


いま、その、地味な紙切れが、彼女を、追い詰めている。彼女が、踏んで、通った、その数字が。皮肉と、呼ぶには、あまりに、まっすぐな、因果だった。人は、軽んじたものに、いつか、足を、すくわれる。とりわけ、それが、家の、命運を、握る、数字であれば。


「気の毒だとは」わたしは、静かに、言った。「思いません。でも、ざまあみろ、とも、思わないんです。ただ……あの人は、いま、わたしが、ずっと、味わっていたものを、味わっている。それだけ、なんです」


「復讐を、したいとは、思いませんか」ロザリンドが、尋ねた。「彼女は、あなたから、すべてを、奪った」


「奪ったつもりで、いたんでしょうね」わたしは、少し、笑った。「婚約者も、家での、居場所も。でも、あの人が、奪えなかったものが、一つ、あります。数字を、読む力です。それは、身分でも、美しさでも、声の大きさでも、奪えない。手から手へ、渡せるものでも、ない。……あの人は、わたしから、たくさんのものを、奪った。でも、いちばん、大事なものだけは、奪えなかった。そして、いま、それが、なかったことで、崩れている」


わたしは、辺境の、帳簿に、目を、戻した。復讐に、時間を、使う気は、なかった。ただ、いつものように、辺境の、数字を、締める。封鎖に、耐える、この土地の、命の、数字を。それが、いまの、わたしの、すべきことだった。王都の、あの家のことは、もう、わたしの、手を、離れている。


セシリアが、姉の、真価を、思い知る。それは、わたしが、仕組んだことでは、なかった。ただ、彼女が、自分で、帳簿を、開いて、自分で、その重さを、知っただけ。誰かに、責められたのでも、罰せられたのでもない。自分の、無理解の、代償を、自分の手で、確かめている。


それこそが、いちばん、静かで、いちばん、深い、報いだったのかもしれない。誰かに、ざまあみろ、と、言われるより。自分で、気づく。かつて、自分が、蔑んだものが、どれほど、大切だったかを。奪ったものの、本当の、価値を、失って、初めて、知る。


「セシリアさんは」わたしは、ぽつりと、言った。「これから、ずっと、覚えているでしょうね。数字を、下に、見たことの、代償を。……それは、わたしが、どんな、言葉で、責めるより、重い。人は、自分で、気づいた、後悔からは、逃げられませんから」


言いながら、わたしは、少しだけ、あの家の、幼い日々を、思い出していた。母が、生きていた頃。数字は、正直だから、いつか、あなたを、助けてくれる、と、教えてくれた、母。その、母の、言葉が、いま、思わぬ形で、証明されていた。数字は、わたしを、助け、そして、数字を、蔑んだ者を、静かに、退けた。


母は、こうも、言っていた。人を、恨むために、数を、数えては、いけない。人を、助けるために、数えなさい、と。幼い頃は、その意味が、わからなかった。でも、いまなら、わかる。もし、わたしが、恨みのために、数字を、使っていたら。あの、正直な控えを、告発の、武器として、意図して、残していたら。それは、きっと、どこかで、歪んで、こんなに、まっすぐには、効かなかった。ただ、事実を、事実として、残したから。だから、数字は、いちばん、強い形で、真実を、語ってくれた。


だが、加害者の、決着は、まだ、半分だった。セシリアの、次に。もう一人――わたしを、公然と、嘲笑い、婚約を、破棄した、あの人が。リオネルが、社交界の、衆目の前で、その、末路を、迎えようとしていた。


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